Jリーグの秋春制移行② メディアの機能不全(後編)
メディアが言及しない理由は何だろう?
(前編から続く)
前述したように、ACLの秋春制移行は2021年にAFCのハリーファ会長が正式に提唱し、実現に至っている。この点から、Jリーグやメディア・ライターは『田嶋会長の提案』をACLの秋春制移行において重要案件ではないと判断している可能性もある。つまり『田嶋会長の提案』と『ハリーファ会長の提唱』の間に関連性はないとして、切り離して捉える見方だ。
しかし、その見方は本当に正しく、Jリーグやメディア・ライターが『田嶋会長の提案』に一切言及しない正当な理由として、日本のサッカーファン・Jリーグクラブのサポーターから認められるものだろうか?
私個人は、ハリーファ会長がACL秋春制を提唱するにあたって『田嶋会長の提案』が全く影響を与えなかった、と断定してしまうことの方が難しいと考えている。田嶋会長は2020年にACLの秋春制移行をAFCに提案している。サンスポには「来年以降も(年またぎを)続けていくのがいい」と話している。サンスポ・スポニチの記事が捏造でない限り、これが事実だ。
メディア・ライターの中には『田嶋会長の提案がなくてもACLは西アジアの力でいずれは秋春制になったはず。だから田嶋会長の提案は重要ではなく、サッカーファンに知らせる必要はない』と主張する者がいるかもしれない。しかし、それは『提案がなくても、そうなったに違いない』という『イフ(if)の世界』の話でしかなく、それこそ論じる意味はない。
繰り返すが、田嶋会長は西アジアの誰かが言い出したことに『同意』したのではない。『提案』したのである。一番最初にAFCに働きかけたということだ。
田嶋会長が率先して働きかけたことは「日本は春秋制だがACLの秋春制に対応可能である。すでに国内の問題はクリアされ準備できている」という日本サッカー界の現実とは違う誤ったシグナルをAFCに発信したことになる。「春秋制の我々日本がACL秋春制に一番乗り気なのです。何も心配することなくACL秋春制をすぐにでも提唱し、迅速に推し進めてください」とAFC…ハリーファ会長の背中を押したようなものだろう。
とはいっても、「田嶋会長の力はAFC内では微々たるもの。ACLの秋春制移行は西アジア諸国が全て企図し、実現させたもので、『田嶋会長の提案』があったとしても、それが与えた影響などゼロである。だから無視していいし、サッカーファンに伝える必要などない」と考えるメディア・ライターもいるだろう。むしろ現状をみると、そう考えているメディア・ライターの方が多そうだ。
問題の本質 現状を健全と言えるのか?
『田嶋会長の提案』がACLの秋春制移行に影響を与えたか否か。これはハリーファ会長に提唱当時の心情を直接尋ねるようなことをしなければ、本当のところは分からない。ただ、ここまで書いてきて、ちゃぶ台をひっくり返すようだが、問題の本質はそこではない。
単純なことである。『田嶋会長がACLの秋春制をAFCに提案した』のが事実であれば、その事がサッカーファン・Jリーグクラブのサポーターにほとんど知られていない現状を健全と言えるのかということだ。
『田嶋会長の提案』がACLの秋春制移行に実際どれだけの影響があったかどうかは問題ではない。日本サッカー界の最重要案件であるJリーグの秋春制移行論議…。その言論空間から『日本サッカー界の総大将がACL秋春制移行を提案した』という出来事そのものが、きれいさっぱり抜け落ちているという異常性が問題なのである。
秋春制への意欲がだだ洩れのJリーグの立場になれば、『田嶋会長の提案』がクローズアップされることはちゃっちゃと議論を進める上でノイズになると考えていてもおかしくない。「すでにACLは秋春制になっちゃったんだから、田嶋会長の提案に今さら言及しても意味がないよね。議論はACL秋春制への対応に集中させるべきだし、対応策はJリーグの秋春制移行しかないよね」といった筋立てではないだろうか。
メディア・ライターはこうしたJリーグの筋立て通りに手懐けられ、サッカー界隈だけに通じる内輪の論理で「『田嶋会長の提案』なんて無視していいよね。サッカーファンに伝える必要ないよね」と結論づけた。そして、その結果が前述した『秋春制をめぐる言論空間の異常性』である。
サッカー界隈にジャーナリズムはあるのか
そこにはジャーナリズムに欠かせない検証精神・批判精神のかけらもない。
そうとでも考えなければ、メディア・ライターの沈黙の理由について説明がつかない。現状のままではJリーグの『議論しましたよ』というアリバイづくりに加担していると、非難を浴びても仕方ないのではないだろうか。もっとも、サッカー界隈のメディアやライターが自らの立場をジャーナリズムの範疇に置いているかどうかも疑わしいので、非難すること自体が見当違いなのかもしれないが…。
透明性云々…などと言うまでもなく、関連情報を集められるだけ集めたうえで行われてこそ、議論は健全になる。議論の本筋に有用な情報かどうかは、その情報が俎上に載せられてから議論の当事者(今回はサッカーファン・Jリーグクラブのサポーターも含む)が判断することであり、はなから特定の情報を俎上に載せず、議論の当事者に気付かせもしないのは、極めて作為的な議論と糾弾されても仕方ない。
Jリーグやサッカー界隈のメディア・ライターが「『田嶋会長の提案』は秋春制移行論議の本筋にとって有用な情報ではない。サッカーファンに知らせてしまったら、かえって議論に混乱を招くかもしれない。議論の俎上に載せず無視しておこう。」という考えであるとしたら、お門違いである。勝手に判断するなと言いたい。サッカーファンをバカにするなと言いたい。
繰り返しになるが、日本サッカー界の最重要課題であるJリーグの秋春制移行論議において、その日本サッカー界の総大将が行った『ACLの秋春制移行提案』という行為そのものが、まるでなかった事のように無視され、言及も検証もされず、その結果として日本のサッカーファンのほとんどが知らないまま議論は大詰めを迎えてしまった。この現状について「健全である」と正当化する真っ当な論理があるなら、ぜひ教えてほしい。秋春制賛成・反対以前の問題として暗澹たる気持ちを抱えている。
田嶋会長は日本サッカー界の総大将。日本国に置き換えれば首相のようなものです。首相動静のように、その行動…とりわけ対外的な動きは逐一報道されてもおかしくない立場で、ましてや日本サッカー界の最重要課題である秋春制移行に連なる動きであれば、過去の出来事であっても焦点が当てられるだろうと思っていたのですが、そんなことはありませんでしたね。
田嶋会長が強硬な秋春制移行論者であることは周知の事実なので、「よし、秋春制移行論議の再開について、田嶋会長の所感を聞いてくるか」と取材するメディアやライターがいてもよさそうですけど、実際、そんな記事あったでしょうか?
また、たとえ2020年の『提案』の真意を田嶋会長に取材したとしても、「Jリーグへの影響なんて頭の片隅にもなかった」といった返答が返ってくる可能性だってあります。ただ、そうした返答について「なるほど、そうなのか」「いや、そんなバカなことがあるか」とサッカーファンが思考する機会さえ、その取材…メディアやライターによる検証がなければ訪れることはないんですよね。そういう機会は、秋春制移行論議において決して無駄ではなく、議論の深まりを助けたはずなのですが…。
サンスポ&スポニチの記事をテーマにしてここまで書き連ねたのですが、もし、「その両記事は捏造であることが分かってるんだよ。だから、Jリーグもサッカー界隈のメディア・ライターも触れないんだよ」ということであったら、ごめんなさい。その他諸々、事実認識が違っている点があったら、ごめんなさい。
次回は、田嶋会長に焦点を当てて何か書きます。