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Jリーグの秋春制移行③          田嶋会長という超優秀な怪物(後編)     



田嶋会長 なぜ「ACLの秋春制固定化」をアピールしたのか?

(前編から続く)
『ACLの秋春制固定化』が日本のサッカー界…春秋制のJリーグにもたらすものは何か?

野々村チェアマンはことし5月「AFCのカレンダーが変わったことにより、かなりのデメリットを受けているクラブがあります。(中略)そのデメリットを何とかしないといけない」と言明している。日本のサッカー界にデメリットをおよぼす『ACLの秋春制固定化』を、日本サッカー界のリーダー・田嶋会長が誰よりも先頭を切ってAFCに働きかけた理由はいったい何だろう。

さらに言えば、田嶋会長がACLの秋春制移行を『提案』した2020年の春は、まだコロナ禍の初期だった(田嶋会長本人が新型コロナに感染し、回復した直後)。この先、コロナ禍がどこまで悪化し、いつまで続くのか、誰にも見通せなかった時期である。ACLの日程も、後ろに半年ずらして春秋制から秋春制にすれば開催できると確信できる状況ではなかった。結局、この年のACLは春秋制のまま12月に決勝が行われたが、誰も先が見通せない2020年春というタイミングで「来年以降も(年またぎを)続けていくのがいい」と言い切って『ACLの秋春制固定化』をアピールした理由はいったい何だろう。

『ACLの秋春制固定化』はJリーグの秋春制移行に向けて外堀を埋めるようなもの。一番納得できる理由はこれである。

私が、田嶋会長を『超優秀』だと考えている理由を分かってもらえただろうか。Jリーグの理事たちによる否決という屈辱を晴らし、宿願を成就させるため、自らも罹患したコロナ禍という世界的な災厄を千載一隅のチャンスと捉えて行動した政治的臭覚の鋭さである。日本の国会議員にも見習わせたい『ザ・政治家』である。

前述したように2020年のACLは結局、春秋制のまま開催されたが、それをもって田嶋会長の『提案』には意味がなかったと判断するのは読みが浅い。ACLの秋春制は、翌2021年にAFCのハリーファ会長が提唱し、2022年に決定したのだが、そこに田嶋会長の『提案』が全く影響していなかったなどと考えることは難しい。

日本の現実とは違うシグナルをAFCに届ける

田嶋会長の働きかけは、AFCに「日本は春秋制だがACLの秋春制に対応可能である。すでに国内の問題はクリアされ準備できている」というシグナルを送ったに等しい。それが日本の現実とは違っていようとも、関係ない。日本サッカー界の総大将が先頭切って「やってください」と言ってきたのである。ハリーファ会長からすれば「春秋制の我々(日本サッカー界)がACL秋春制に一番乗り気なのです。何も心配することなくACL秋春制をすぐにでも提唱し、迅速に推し進めてください」と、日本に背中を押されたようなもので心強かっただろう。

2020年の『提案』が、2021年のハリーファ会長の提唱、2022年のACL秋春制移行決定、そして今年(2023年)のJリーグ秋春制移行論議につながっているとすれば、これこそ完璧な布石だとうならざるを得ない手腕である。

さて、ここまで田嶋会長の怖さと優秀さを論じてきたが、こうした見方をしているサッカーファンはどうも少数派らしい。曰く「ACLが秋春制になってしまったのは日本の影響力が弱いからだ。AFCでの田嶋会長の政治力が弱いから、西アジアのいいようにされているのだ」という論調である。

こうした論調が広がった原因は検証精神・批判精神に欠けたサッカー界隈のメディア・ライターにあると私は考えている。そうした現状への怒りと諦観で書いたのが、前回の『Jリーグの秋春制移行② メディアの機能不全』であり、それゆえ、今回はあまり深入りしない。

政治力とは何かを見誤っていないだろうか

ただ一点だけ、サッカー界隈のメディアやライターが、政治力というものの本質を見誤っていないかということは指摘したい。西アジアと日本が正面から対立する事案があれば、パワーバランスから西アジアの思うように事を運ばれてしまうかもしれない。しかし、本来対立するはずの事案であっても、西アジアと田嶋会長個人が同じ方向を向いていたらどうだろうかということである。

そもそも、政治力は所属する組織の中で一番力を持たなくてはふるえないわけではない。自分の願望をその組織の力を借りて実現させる能力。そのために自分の立場を裏に表に行使する能力。それを政治力というのだ。

より大きな力を持つ西アジアの『実利』と自らの『宿願』が、ACLの秋春制移行によってどちらも実現できるなら利用しない手はない。これを政治力というのだ。

もし、メディアやライターが「西アジアが牛耳るAFCの決定に、政治力のない田嶋会長が影響を及ぼすことなどない。だから、その行動を検証してサッカーファンに伝える必要などない」と割り切っているならば、あまりに呑気ではないだろうか。

「国際的な政治力はない」が隠れ蓑に…

もっとも、田嶋会長にとっては「政治力がない」と思われていることは好都合だろう。ACLの秋春制移行について、日本のサッカーファンの多くは「AFCを牛耳る西アジアにしてやられた」と捉えている。なぜか。何度も繰り返すようだが「日本(田嶋会長)の政治力では西アジアに敵うはずがない」と考えているからだ。

「西アジアと日本のパワーバランスの結果で仕方ないことだ」というあきらめに近い認識により、「ACLの秋春制移行を許してしまった」という非難が田嶋会長に向くことはないし、それどころか、ACLの秋春制移行を語る文脈において、田嶋会長が俎上に載ることはほとんどなかった。

実際、秋春制移行論議が大詰めを迎えても、2020年のサンスポ&スポニチの記事について、言及したり検証したりしたメディアやライターは現れていない。田嶋会長は自らにスポットライトが当たることを避け、何ら探られることもなく、宿願である『Jリーグの秋春制移行』実現を迎えようとしている。その手腕は見事。超優秀な怪物と評する理由である。

超優秀な会長で日本サッカー界は幸せだろうか?

では、超優秀な会長が率いる日本サッカー界は幸せなのか。私はちっとも幸せじゃないと思っている。そもそも、サッカーファンのひとりとして私が求める優秀さと田嶋会長が備える優秀さはまったく質が違うような気がしている。

サッカージャーナリスト・後藤健生氏による、ことし(2023年)5月の記事を紹介する。

後藤氏はAFCのサッカースケジュールについて「地域によって気候も違い、シーズン制も違うアジアの中では、各地域すべてにとって理想のスケジュールを設定することは不可能なのである。(中略)西地区と東地区で公平なスケジュールなど絶対に不可能なのである。」と記している。私もまったく同感だし、サッカーファンのほとんどが同じ考えだろう。

東は極東3か国の冬が厳しく春秋制、西はアラビア半島の夏が厳しく秋春制。ACLでチャンピオンを決めるとなれば東西の移動距離も大きい。ならば、どうしたらいいのか。

実は、AFCには00年代から分割案があった。東西を分割し、現在のACLは廃止する。代わりに東側のサッカー連盟は春秋制でチャンピオンクラブを決め、西側のサッカー連盟は秋春制でチャンピオンクラブを決める。アジアの統一チャンピオンは設けず、CWCには東西のチャンピオンが出場する、というイメージである。

田嶋会長はAFCの技術委員長を2011年3月から13年近く務めている。FIFAの理事は2015年6月から約8年半務めていて、現在3期目だ。これだけの期間があったのであれば、この『AFC東西分割』実現に全精力を注いでもらいたかったと思う。実現に大きな困難があったとしても、一歩でも二歩でも進めようという気概を日本のサッカーファンに見せてほしかった。しかし、実際に行ったのは『ACLの秋春制固定化』を狙った働きかけである。

個人的には、日本サッカー界のリーダーであるからには、たとえ西アジアから『ACLの秋春制固定化』が提案されたとしても、春秋制で運営されるJリーグにデメリットが生じないよう、自分の宿願をいったん横において抵抗するくらいの姿勢であってほしかった。しかし、現実は(サンスポ&スポニチの記事が捏造でないなら)西アジアから歓迎されることもおそらく計算の上で率先して『ACLの秋春制』を切り出したのである。

正直、好きにはなれない行動だ。日本サッカー界に対する誠実さが感じられない。全国のサッカーファンに是か非か尋ねたいくらいである。もちろん「コロナ禍だから仕方なかった」「田嶋会長の提案がなくてもACLは秋春制になっていたはず」として、是とする意見もあるだろう。それも含めて「秋春制移行論議が進む中、サッカーファンの多くがこのことを知らない現状」はおかしい。

ただ、「おかしい」と疑問を呈するサッカーファンなど私のような偏屈な変わり者ぐらいしかいない。こうしている間にも、田嶋会長の宿願が成就する時が着々と近づいている。秋春制移行論議など、すべて田嶋会長の手のひらの上でコントロールされているようなものだ。やはり怪物である。


『ACLの秋春制移行』は、浦和や横浜FマリノスなどACL出場を毎年視野に入れているクラブのサポーターの思考に枷をはめることにもなりましたね。「不利なレギュレーションでACLを戦いたくないでしょ?」って迫られているようなものですから。

たとえば浦和のサポーターは「権力者のいいなりにはならないぜ!」って感じの空気をまとっていますが、秋春制移行論議においては田嶋会長や野々村チェアマンの代弁者かよって感じです。田嶋会長&野々村チェアマンにとっては頼もしい味方に思えたでしょう。もちろん、私が目にする意見はSNS上でのものくらいしかないので、ACL常連クラブのサポーターの中にも「秋春制絶対反対!!」っていう意見がないわけではないのでしょうけど。田嶋会長、「サポーターなんてちょろいもんだぜ」って、ニンマリしているかもしれないですね。

すでにJリーグの実行員会では多数決の結果が出ましたね。次回は野々村体制のJリーグについて書こうと思いますが、その頃には秋春制移行が正式に決定していますね…。













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