シェア
panda1
2021年5月29日 03:59
テラスの食堂を後にした僕は、ゼミを飛ばし愛菜に会いにバスに乗っていた。お咎めは勿論、心配のLINEすら僕のスマホは鳴りはしない。耳元では着信音の代わりに興味も無い音楽だけがただただ惰性で流れている。(プシュッ)車体を揺らしながら、バスはゆっくりと足を止めた。河原町三条と駅名をアナウンスする車掌の声は、この駅名だけは特別ゆったりと声に出している気がした。殆どの乗客はこの駅で降りる。僕もバスか
2021年5月24日 17:32
僕は視線の先の光景に今更になって真ん中なんかを歩いていた事を後悔する。端に寄るにしても、今からでは目立ってしまう。さしずめ大名行列を前にした村人みないな所だろうか。右往左往する僕を見つけ、ぞろぞろと僕の周りに集まる集団。揃いのリュックに揃いの茶髪。疎らな服装ではあるが、無駄に張った胸板からは変に統一感のある集団に見えた。どれもこれも見せられているだけ。そんなものにいちいち気落ちしてしまう僕。
2021年5月20日 02:58
理沙と別れた次の日の正午、僕はキャンパス内のベンチに座り、ゼミまでの時間潰しをしていた。寒空の下軋むベンチに腰掛ける僕を号棟黒ガラスに反射した偽太陽がじんわりと照らす。僕を照らす黒ガラスの中の陽光は本来の温もりを何十倍にも薄めたもの。そんな薄味な陽光にあてられ、ふと僕の頭の中を実家のカルピスがよぎった。カランカランと頭に響く氷の摩擦音が僕の体を余計に震えさせる。冷たいなベンチから見る漫
2021年5月12日 20:46
僕は麻里さんと別れ、町へと戻る細い地下通路を登る。通路の中は狭苦しい空間に対して、不均衡なくらいの渋滞が続いている。スマホの画面に目を遣る。どうやら少しだけ遅刻しそうだ。暫く待っていると、ぞろぞろと渋滞は上へ上へと進み出した。一度進み出すと止まらない。まるで喉の奥に溜まる吐瀉物を吐き散らかすかの様に人々は溢れ出て行く。僕も紛れて町に出る。町に出ると、店灯りの隙間から覗く赤や緑の装飾が
2021年5月4日 14:32
ガラスに囲まれた店を聞いた事もないジャズが僅かに揺らす。空調が効き過ぎる店内は季節感すらも何も無い場所。ブルーの照明に光るステンドグラスやバロック様式のインテリアだけが時を止めたかの様に静かに並ぶ。敢えて醸し出されているレトロな雰囲気の中、スマホを握る客達。青い空間の中から白いフラッシュが僕の意識を過去から連れ戻す。「どうしたの鉄平君、唇触ったりなんかして?」テーブルのメニュー越しから麻
2021年4月21日 14:28
僕本当の自分とは何だろうか。スマホとパソコンを器用に両手で弄りながらも、先日、ゼミで行われた就活面接用の模擬を思い返す。その日、狭いゼミ室の中ではゼミ生達が必死に暗記事項を復唱していた。強み弱み強み強み弱み強み……。汗を飛ばし合い、白熱するゼミ生達。しかし、うとうと半目に聞く僕には、それはドラクエの呪文でも唱えているかの様に聞こえていた。おそらくは雑誌かネットなんかの受け売りであろう。そ
2021年4月18日 00:51
女 バスが五条通りを早々と走り過ぎて行く。横に座る学生が座り疲れた腰を私に寄せてくる。私は画面が見られぬ様、右手をそっと窓際奥に移す。スマホ画面を通りに横たう銀杏並木が山吹色に染める。手の中、山吹色の絨毯をいくつもの男達が行き交ってゆく。 男達は必死に自分をアピールする。他の男達に負けない様に。そんな男達のアピールを私は無感情にザッピングしてゆく。それは、物語の中の王族にでもなってしまった様
2021年4月16日 17:35
くぐもった排気音が窓を揺らす。窓を覗くと勤勉な車々が町の雪々を一掃していた。雪の下からは黒いアスファルトがぬっと顔を出す。残雪は建築物達の端端にちらほらと点在するのみになってしまっている。そんな残雪の上には早起きな老人達により、せっせと京の黄色いゴミ袋が積み置かれてゆく。三階僕の部屋から覗くその光景は、町に季節外れなマーガレットが咲き綻んでいる様であり、上空からは肥えた鳥々が花をめがけて飛び交
2021年4月15日 03:59
端末音がドクンとなった。私は自分で想像していたものより大きい音が出た事にひどく驚いた。咄嗟にスマホを胸元に埋める。そんな事をしても、すでに鳴り終えたスマホは聴診器の様に私の鼓動の早まりを教えてくれるだけである。周りから不審そうな目を感じる。早朝のカフェで女が1人、右往左往していたのであれば当然の視線であろう。いたたまれなくなった私は慌ててスマホをしまい店を出た。 店を出ると、雪はそのほとん
2021年4月10日 22:02
店を出た僕は最寄りのマクドナルドでチキンナゲットを1ピース買った。こんな僕でも少しはクリスマスの空気を味わいたいのであろう。1人、鴨川沿いの石畳に腰掛けナゲットを頬張る。口に広がる仄かな温かみは直ぐに石畳へと溶け落ちてゆく。温まった筈の体がすっかり冷え込んでしまった。恋人と歩く事に夢中な人々は、誰も石畳の冷たさに等気づきもしないであろう。僕だけが知る冷たさである。 鴨川が荒々しく流れていく。まる
2021年4月10日 12:58
川が流れてゆく。見下ろす水面には等間隔の人影が果てしなく続く。影の隙間から見える淡い町並み。絢爛な美しさ。手を伸ばせば波紋の中に消えてゆく。眺めるだけの町。 ゆるりと佇む河原町にひらりひらりと雪が舞い散る。町を白く染める雪は石畳へゆっくりと染み溶けてゆく。仄かに白が溶けゆく町はまるで白粉を覚えたばかりな生娘の様であり、酒気帯びた色とりどりの店灯りが町を照らしてゆく。恍惚