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金沢妖手帖

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金沢は決して奥の奥を見せない。ほんの少しだけ覗かせるだけである。
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#春

春の夜の夢-下-

 夕子さんは木箱を開けた。中には綺麗な掛け軸が入っていた。

「これ、私が作ったの。なかなかいいでしょ」

夕子さんは床の間に掛け軸をするする掛けながら言った。彼女が言うように掛け軸は立派なものだった。しかし、奇妙なことに掛け軸には絵が描かれていない。不思議に思って尋ねると夕子さんは「これからその意味がわかる」としか教えてくれなかった。

夕子さんは部屋の縁側に続く引き戸を少しだけ開け行灯の蝋燭に

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春の夜の夢‐中‐

夕子さんの自宅は東山の細く怪しい小道を抜けたところにある。夜にその小道を歩くの実に恐ろしい。とろんとした暗闇が足にまとわりつきそのまま闇の中に落ちてしまいそうだった。なんとか自宅にたどり着くと夕子さんが細長い木箱を抱えて待っていた。夕子さんは私を認めるとその木箱をぐいと私に押し付けた。

「さあ陽太君、楽しい楽しいデートの始まりだよ」

夕子さんはそう言うとスタスタと歩き出した。私はその後をトボト

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春の夜の夢‐上‐

夕子さんは最近、私のことを名前で呼ぶ。

「陽太君、何してるの?」

「陽太君、週末忙しい?」

「陽太君、お腹空いた。パン買って来てよ」…これは違うな。ただのパシリだ。とにかく私は夕子さんに名前で呼ばれることにすっかり慣れてしまった。

ある日、図書館で私にしては珍しく勉学に励んでいたら隣の席にいつの間にか夕子さんが頬杖をついて座っていて驚いて思わずのけぞった。

「珍しく勉強してらっしゃる…。

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