新刊【カード師】中村文則。
占いは力ですよ。
「この世界は面白いんだ。だから」
「絶望するにはまだ早いよ」
辛くなった時、明日が見えなくて、生きる意味を見出せなくなったとき、
毎日の感染者のニュースで命が削られていくのを見たとき、
この戦いがいつまで続くんだろうかと不安になる。
そんな時、この言葉が頭に浮かぶ。
4月に中村さんのホームページを見た。
新刊「カード師」5月発売。
中村さんの新刊が5月に発売するという。
占いを信じていない占い師の話で、しかもその主人公は違法カジノのディーラーでもある。
占い、手品、ギリシャ神話、、、。タロット、、!?!?
どの世界にも触れたことがない私は、この新刊を買うかどうか迷っていた。
「難しそう…」「でも、中村さんが書いたんだよ…」「面白いに決まってる」「うーん」「でも、もしかしたら救いの本なのでは…」
中村さんが書く作品はきっと救ってくれる作品だから…。
ともう一人の自分と格闘していたら、
「祈りを込めた作品」「この作品の連載中にコロナが世界に蔓延して…」
ときた。
「こ、これは読むしかない」とGWの初日、本屋さんへ向かった。
読み始めてとにかく驚いたのは、
没頭するくらい夢中になっていたということ。
中村さんって占い師だったっけ?あ、違う。作家さんだよね…。
というくらい。中村さんが占い師に憑依していた。
それくらい物語の中に引き込まれた。
450ページ、その分厚さにびっくりしたけど、
気が付いたら2時間、3時間、夢中になりながらページをめくっていた。
タロットカードや、トランプ、ギリシャ神話も出てきて、
その名前に「?」が浮かぶこともあったけど、
「後で勉強しよう」と思って、再読を決めた。
一回じゃまだまだ何もつかめない。
本の後ろにある「参考文献」のリストを見て、次に読みたい本を決めた。
本と本が繋がっていく。
Amazonで「タロットの秘密」と「神々の沈黙」をカートに入れた。
あとがきや解説を読んで、読みたい本が増えることもある。
主人公が「クラブR」という賭博場に行くシーンがあり、
ここからの心理戦は特にどきどきした。
「勝てるのか」「負けてしまうのか」
考えられないくらいの大金が軽々しく動いていて、
隠居のために主人公がコツコツ貯めていた大金が
一瞬のうちになくなっていく。
「そこは賭けないんかい!」といつの間にかツッコんでいて、考え込む主人公に「今だ!」とか勝手に指示をしていた。
(今考えたら恐ろしい。私は一人で読んでたはずだ。なんで声をだしてるんだ)
無表情を作っているはずなのに、見破られていく怖さ。
やっぱり、「無表情」なんてものはないんだなと思ったり…。
無表情の中にどこか感情があるのか。
後半は、特に感情が忙しくて、
次々に起こる出来事や、不幸に精神が不安定になる。
でも、確かに、人生になにが起こるかなんてわからない。
この現状を1年前に誰が予想したんだろう。
1年後は「明るい未来」になっているだろうと、
誰もが少し期待したはずだ。
「来年にはマスク生活が終わるかも」「遠くにでかけられるかも」
「青い空の下で好きな音楽を聞けるかも」「鼻から下の笑顔が見れるかも」
声を上げても届かないかもしれない。私には何もできないかもしれない。
世界は何も変わらないかもしれない。
そんな不安が最近ますます募る。
明日、どうなってしまうのか。このまま日本がどうなっていくのか。
ずっとわからないままで、この不条理な世の中に絶望してしまいそうになる。
占いではどんな不幸も、未来の予言もできないという現実がある。
じゃあ、どうして人は占いを信じるのか?
不要不急じゃない「小説」をどうして読むのか?
本当に必要なのか。
きっと、その答えが何度も求められたと思う。
でも、私は、「小説」を読むし、占いも信じる。
作られた小説の世界で「救われたから」「幸せになったから」。
小説の世界は人との出会いだと思う。たくさんの本を読んでいろんな考えを知って、ちょっと強くなれる。ちょっと絶望から逃げられる。世界が広く見える。
朝、ニュースで占いを見て、自分の星座が上位にいると嬉しくなる。
ついつい、ラッキーカラーの服を着てしまう。
「あなたの人生はきっとよくなります」なんて言われると、
「やったー!ラッキー!」と喜んでしまう。
そんな風に、ちょっと幸せに生きていけたらいいんじゃないかな。
カードをめくるという行為は、その先がわからない。
なにがでるのか、わからない。
だけど、生きることも一緒で、明日ラッキーかもしれないし、
アンラッキーかもしれない。だから、絶望なんかできないし。
するべきじゃない。
とても生きづらい世の中だからこそ、
中村さんの生きる強さが、小説が。
必要だと思う。
人生にどんなカードがでて、どんなカードを使えば勝てるかわからないけど、最後まで信じてめくり続ければ、時に勝てることがあるかもしれない。
やっぱり、信じていくしかない。
たまには休息もとってね。
めーっちゃ辛いけど、共に生きていきたい。
そんな気持ちです。