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つくる。
この三日間テラス工事に追われ、やらなきゃならない仕事が手についていない。タスクがてんこ盛りの日々だ。。悪天候の影響もあり、予定よりも作業が遅れましたが、何とかテラスリニューアル工事が完了した。協力して下さった檜枝岐村の大工さん達に心から感謝しています。今日は土曜日で100人の宿泊があり、日帰りの需要もありそうですので、新しくなった新築テラスで美味しいグルメを堪能してもらいたい。
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前回の記事でも触れましたが、テラスをリニューアルするだけでも莫大な予算が必要になります。正直、営業に支障があった訳ではないので、工事をする必要があった訳でもありません。でも、尾瀬小屋は進化を止めないし求められていく要求に常に答えていきたいから工事に踏み切った。キレイなテラスで美味しいご飯を食べてもらいたい、思い描くはヨーロッパの山小屋を私はイメージしている。
フランス人の友人に日本の山小屋について言及された事がある。『日本の山小屋の食事は全部茶色』『美味しくないから毎回素泊まりでフランスパンにチーズとワインを背負っていくんだ』これはなかなか辛辣な言葉だった。茶色とはコロッケや唐揚げ、カレーやラーメンなどを指していた。それらが悪い訳じゃないし、私も普段普通に口にするものだけど、彼らにとっては山小屋=ご馳走(グルメが一つの楽しみ)という頭になっているわけだから、上記のような茶色のメニューは求められていないのだろう。
私も日本の山を登り尽くして、色々な山小屋食を経験してきた結果、海外の食文化についても大変興味を持ち、海外の食事に対する山小屋の考え方やクオリティに大きな刺激を受けたのを覚えている。
尾瀬小屋の一泊二食付きの価格帯と同じような価格帯で、とても参考になるような記事があるので見て欲しい。ここは標高2,606mのスイスの山小屋だ。
リンクで見て頂いたと思いますが、
ランチや夕食や朝食のクオリティが抜群に高い。
そして客室からの眺めもハンパではない。
これでこの値段なら良心的だ。
現にこうした山小屋は視野を広げれば世の中に存在する。私はこの山小屋を目指した訳ではないが、大変参考にさせて頂いた山小屋の一つである。が、ロケーション、価格、クオリティは尾瀬小屋も負けていないだろうと勝手に思い込んでいるし、世界の山小屋と肩を並べるつもりでいる。
テラス工事をしながら考えていたのは、
至仏山を眺めながら食事を楽しむお客様の姿だ。訪れたお客様全てとお話する事は叶わないが、全てのお客様に美味しいものを提供する事で『来てくれてありがとう。尾瀬を楽しんで!』というメッセージを一方的に込めている。たまたま隣同士居座った人達が語らう姿、普段は口数の少ないご夫婦が仲良くする姿、山談義をするグループやお酒・ご飯を楽しむ人が尾瀬小屋グルメに深く頷き笑顔になる姿。全てがリアルに想像出来たし、その分母を増やす為にテラス工事を行ったと言ってもいい。
反面、最近は来客数が凄まじく『まだですか?』とオーダーを催促される機会が増えた。これは今の我々の課題だろう。宿泊のお客様であれば時間的な余裕はあるが、日帰りで見晴滞在時間が僅かなお客様からすれば一秒でも早くが重要になる。スタッフは微塵も手を抜かないし、懸命に要求に答えようと調理する。
今はこれが限界だ。
それでも、営業していくなかで成長するスタッフを見ていて、彼らにとってもこの尾瀬小屋テラスを褒められる事はステータスになるし『尾瀬小屋』というブランド力が高まる材料になると思えば安すぎる投資工事だ。私の経営方針はコスト削減や、経費抑制はほとんどしない。人もモノも必要なものは必要だし、あとは本当にそれが必要なのか判断出来る目利きがあるかどうか。必要なものが誰かの役に立ったり、喜ばれるものならば、それは対価として必ず何倍にもなって返って来ます。これはビジネスの掟です。もったいないからとか、高いからとかで必要なものを除外した時、後から必ずその影響は自分に跳ね返ってくるものです。
尾瀬の木道も一緒。
何もしなければ怪我人が出るし、道が悪いと酷評され人が来なくなる。その影響は今すぐ出なくとも必ず将来に渡って深いダメージになるでしょう。
必要なものを判断する速度もだし、それを実行するタイミングも非常に重要。
『つくる』というのは、単にモノを組み立てたり、
造作することだけではない。その背景にある、人の喜びだったり、感動だったり、記憶に残るような体験だったり。そうしたものを強烈にイメージしながら、作業に魂を吹き込む。それがつくるという事だと思う。
尾瀬小屋
工藤友弘