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アマチュアとそやされる表現

これは、あるアーティストの友人の話である。

彼は映画監督で、脚本も自ら書く。独自の世界観と美意識・作品全体に流れるリズム感を持っている。彼は20年近く映画を作り続けているが、年々、苦しみが増えていく。

そもそもなぜ彼が映画を作るのか、もちろん映画が好きということもあるが、魂の浄化のためでもあるという。

作品づくりを通し、彼の生涯で感じてきたもの…

悲しみ、怒り、葛藤、不満、疑問…

これらを昇華すべく、またインスピレーションに変えて作品作りをしている。

彼の苦しみの原因は、”作品の評価”だ。

自己投影して作品を作っているので、
作品の評価=自分へ向けられた評価と
同一視しているのだ。
だから余計に他者の声が気になるのだろう。

映画づくりに置いて、彼は自分の美意識を曲げたくない。

大衆受けするものを逆算して作りたくないという。しかし、映画製作には資金がいる。彼は制作のみに精力を注いでいるので、資金を集めはプロデューサーに任せている。そんなプロデューサーとは意見が合わない。なぜなら「これで金が集まると思うか?」とこだわりを壊しに来るからだ。

中立の立場で言わせてもらうと、どちらの気持ちもわかる。

自らのアイデアを、可能な限り1ミリのズレもなく作り上げたい監督。

スポンサーが快諾しそうな話を持っていきたいプロデューサー。

有名な賞で何度も受賞歴があり、監督の名前そのものにバリューがあれば、内容を具体的に説明せずとも資金を集めることも簡単にはなるかもしれない。しかし、彼はまだそこまでではないのだ。それでもやはり、譲れないのだという。

自分自身に嘘をついた作品は、作れないのだという。

ここまで読んだあなたは、監督の彼に対しどんな印象を持つだろうか?

良く言えば「職人気質」「他人の意見を聞かない」「真の芸術家」

悪く言えば「わがまま」「頑固」「こだわりが強い」

コンテストには勝ち方がある。
目的をコンテスト優勝にするのであれば、

そこから逆算した作品作りをすべきである。
それが正攻法だから。

結局、彼の悩みの原因は、作品作りに2つを求めている点にある。

真にこだわりを追求した作品?

資金を集めやすい(大衆受けしやすい)作品?

どっちつかずで振り切れないから、揺さぶられるのではないか?

結局は、それを作ってどうしたいのか?

自己投影して自分自身を現したアート作品がコンテストで選ばれて欲しいというのは、「自分自身の存在」がコンテストで選ばれてほしいと願っているようなもので、少しずれたアプローチだ。
もちろん可能性は0ではないが、
あまり効率的では無いし、そこに期待するのもどうかと思う。
だって、そもそもの方向性が違うのだから。

自分自身を表現する手段としての映画制作、執筆、歌…あらゆる表現活動は
自己満足だ。欲求を満たすことへ矢印が向いている。

一方、発信者が観客・読者を意識した作品作りは受けとる側の気持ちに標準を合わせている。どちらが相手に響きやすいかは、わかる。

圧倒的な個性・力に惹かれる人、また、自分自身の魂をひたむきに表現する姿勢に惹かれる人もどこかに存在しうるかもしれない。

真摯な姿勢を認め合う人たちが増えればいいのだけれど。

表現活動をビジネスとし、お金儲けをしようと思うのであれば、または賞を勝ち取り名声が欲しいのであれば、むしろ数字を分析すべきだ。

しかし、ただ表現したいだけ。ただ、内なる感情を別の何かに昇華したいだけ。それが一番の望みならば、数は問題では無い。「気にするな!」と背中を叩きたい。自分自身に嘘偽りなく、それを作り切れたのならそれで良いではないか。

キレイゴトだが、

「何か」を生み出し、その新たな「何か」に、ココロが動いた。

作る者と、見る者。

少なくとも作り手自身ですでに「1人」、心が動いたモノは存在する。
もし、自分以外の他者が1人でも存在すれば、なおいい。

わたしは結局、自分自身に嘘偽りなく表現する彼の姿勢を応援したくなるのだ。映画は見る人がいて初めて成り立つから、つまらなかったら意見はいうけど。所詮は受けての感受性の問題なわけで、見た後は観客の者なのだと思っている。

こだわり優先で作品作りをしたいなら、クラウドファウンディングなどで自らで資金調達をするか、一度映画とは全く関係ない仕事で種銭を作ってから思う存分映画をとるか…とにかく、実現可能にするために頭を回す。

作りたいものを好きなように作ってお金が得られるほど、世界は甘くない。可能性はゼロではないかもしれないけれど、まあそこに期待するより自分で行動した方がいい。

ここまで散々書いてきた。

これは、あるアーティスト友人の話である。

同じく、
表現を愛するあなたの話にもなりうるかもしれない。

そして、気づけばわたしの話でもあった。

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