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叱るより抱きしめる。自己肯定感と愛着関係が育む子どもの未来【親子育インタビューVol.2】

子どもの心身の健やかな成長のために、何が必要なのか——。

前回、「自由な遊び」の大切さについてお話しいただいた宇都宮共和大学 子ども生活学部名誉教授 日吉佳代子先生に、今回は「日本の子どもたちの自己肯定感と愛着関係」をテーマに語っていただきました。

諸外国と比べ、なぜ日本の子どもたちは自己肯定感が低いのでしょうか。

また、子どもの人格形成の基礎となる愛着関係とは、どのように築かれるのでしょうか。

本稿では、子どもたちの幸せな成長のために見直したい「子育てのあり方」について、日吉教授の知見をもとに紐解いていきます。


前回までのまとめ

 前回のインタビューでは、宇都宮共和大学 子ども生活学部名誉教授で、NPO法人親子育を立ち上げた日吉 佳代子先生に「現代日本の子育て環境が抱える課題」についてお話しいただきました。

前回記事のポイント

  • 現在の日本では、保護者が子育てについて学べる機会が少ない。

  • 早期・英才教育のトレンドがあるが、子どもの心身をバランスよく育てる上では弊害も大きい。

  • 「自由な遊び」を重視したほうが、子どもの心身や能力、自己肯定感の育ちに良い影響がある。


第一回記事はこちら▼

自己肯定感・幸福度が低い日本の子ども

——今回は、前回インタビューの終盤ででてきた「自己肯定感」というキーワードについてもう少し詳しくお伺いしたいです。日本ではかねてから、諸外国と比べて子どもたちの自己肯定感や幸福度の低さが問題視されてきました。

さまざまな調査結果を見ていると、日本の子どもは自信のなさが目立ちます。2020年に発表されたユニセフの報告書『レポートカード16』でも、でも、日本の子どもの精神的な幸福度は37位と、調査対象の先進国38カ国の中で最下位となったことが明らかになっています。

日本の子どもが、いまを幸せに生きられていない。これはとても悲しい現実です。

——こうした状況が起きている原因は、どこにあると思いますか?

私は、日本の「褒め下手」な子育て文化に大きな要因があると考えています。やはり日本は、子育てで子どもを叱る場面が非常に多いですね。

そのベースにあるのは、減点法の考え方です。100点満点の“ものすごく理想的な状態”からスタートして子どもの現状に目を向けるから、「できていないところ」が目立ってしまう。それで、「なんでできないの!」「そういう行動をしちゃダメでしょ!」と叱ってしまうわけです。

日頃から保護者にできていないことを指摘され、自分がとった行動を全否定される環境に置かれていたら、誰しも自分への満足感や自信は育ちません。

——なるほど……。しかし、叱らなければ、子どもに社会のルールや人としてとるべき行動をしっかりと伝えられないようにも感じます。

子どもに何かを伝えるとき、叱る以外にもできることはあります。大切なのは、子どもの『ありのまま』を受け止めること。子どもの言動を「良い/悪い」「正しい/正しくない」の二元論で評価して反応するのではなく、子どもが何を考え、何を思って行動したのか、そのプロセスに目を向ける。「なぜそうしたのか」「子どもがどう思っているか」などに注目する。そうすることで、叱るだけではないコミュニケーションのとり方が見えてくると思います。

自己肯定感を育む大切さ

——そもそも、なぜ子どもの自己肯定感を育む必要があるのでしょうか。

自己肯定感が人格の基礎となるからです。自己肯定感と保護者との愛着関係、幼少期にこの2つが欠けていると、いずれ社会生活を送る中で困難を感じる場面が増えてしまうと思います。

——「困難」とは、具体的にどのようなことですか。

例えば、友だち関係をうまく築けず、独りぼっちになってしまうケースがあり得ます。一概には言えないものの、昨今増加している不登校やひきこもりも、自己肯定感の低さや愛着関係のトラブルが原因である側面も否めません。

子ども時代の愛着関係の構築が人間関係の基礎となる

——愛着関係について、もう少し詳しく教えてください。


愛着とは、特定の人との間に形成される情緒的な絆のことです。愛着関係の構築は、生まれた直後から始まります。お腹が空いたときにはおっぱいやミルクをもらい、泣いたときにはしっかりと抱きしめてもらえる――こうした経験を通じて、子どもは養育者に対する信頼感を育んでいきます。

特に「抱っこ」は、愛着関係を築くうえで非常に重要な行動です。抱っこをしているとき、子どもと保護者の双方に「オキシトシン」と呼ばれる愛情ホルモンが分泌されます。このホルモンの働きによって、子どもはたとえ何らかの行動で不安や困難を感じたとしても、保護者に抱きしめられることで心が落ち着き、再び次の行動へ一歩を踏み出す力を得るのです。

ですから、子どもが抱っこを求めてきたとき、その気持ちをしっかりと受け止めて応えてあげることが大切です。そうすることで、人に対する信頼感が育まれます。この信頼感が土台となり、子どもは保護者以外の人とも健全な信頼関係を築けるようになります。たとえば、兄弟や祖父母、幼稚園や保育園の先生、学校の先生、友だち……そうした多様な人々と関わる中で、自分をさらけ出し、相手を受け入れ、関係を深めることができるようになるのです。

——愛着関係の構築は、あらゆる人間関係の基礎となるのですね。

おっしゃる通りです。人との信頼関係は、人間が生きていくうえで欠かせない基本的なものです。それが幼少期にしっかり築かれていないと、友だちや恋人など、人間関係を外へ広げていくことが難しくなるかもしれません。

愛着は、成長に伴ってその対象が変化していくものです。幼い頃は保護者が愛着の対象となりますが、10歳ごろから次第に友だちへと広がり、思春期を超えると恋人や親友へ、さらに大人になり結婚すると、伴侶が愛着の中心的な対象になっていきます。こうして愛着の対象が変化することで、人は親から徐々に自立し、周囲の人と安定した関係を築きながら社会生活を送れるようになります。

幼少期の愛着関係の構築は、人生の土台を築くと言っても過言ではありません。

子どもの存在を、ただ受け止めるだけでいい

——前回のインタビュー内容も踏まえると、子育てでは特別なことをする必要はないのだなと感じました。子どもを自由に遊ばせて、何度でもしっかりと抱きしめてあげる。日常生活でできるシンプルなことが、実は子どもの健やかな成長にとって、とても大切な役割を果たすのですね。

そうですね。保護者は、子どもの存在そのものをただ受け入れてあげるだけで十分なのです。「今日は疲れたね。一緒に休もうか」と笑顔で言えるくらい保護者がおおらかでいたほうが、子どもにとって安心できる存在になります。保護者が子どもの“安全基地”であることが、何より大切です。

>>次回は、「日吉教授の過去の経験から伝えたい、愛着関係と自己肯定感を育む大切さ」についてお届けします。(1月下旬更新予定)

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