![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/158082869/rectangle_large_type_2_6f5c4bb203f4ac44936f2e63e6199221.png?width=1200)
【1分小説】聴書
紋切型の愚痴で殷然とするカフェで、私は小説を読んでいた。上司の怠慢話、又聞きの浮気話、夫の陰口、、、どうしたらこうも綺麗にテンプレートをなぞれるのか、と思えてくるような話が四方から鼓膜へ流れてきた。私は、アイスコーヒーにささったストローを口で迎えながら、ページをいくつか進めてはまた捲り戻すのを繰り返していた。コーヒーと一緒に頼んだホットケーキを切ろうとナイフに手を伸ばしたとき、こんな一説が飛び込んできた。
「心に猟奇殺人鬼を忍ばすことができたなら、」
このとき、私の心に殺人鬼が宿った。私は、白昼夢の中で、順にここにいるおば様方に切ってかかった。手に握っているナイフは、人を裂くメスへと変貌し、いとも容易く、その弛んだ肉体を切っていった。私の顔には、無意識に嫣然とした表情が浮かんでいた。
それから、誰もいない闃寂で私は読書を愉しんだ。
いいなと思ったら応援しよう!
![にわ。](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152199989/profile_09e1792214538f8476c1da7fef6049bf.png?width=600&crop=1:1,smart)