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【1分小説】聴書

 紋切型の愚痴で殷然とするカフェで、私は小説を読んでいた。上司の怠慢話、又聞きの浮気話、夫の陰口、、、どうしたらこうも綺麗にテンプレートをなぞれるのか、と思えてくるような話が四方から鼓膜へ流れてきた。私は、アイスコーヒーにささったストローを口で迎えながら、ページをいくつか進めてはまた捲り戻すのを繰り返していた。コーヒーと一緒に頼んだホットケーキを切ろうとナイフに手を伸ばしたとき、こんな一説が飛び込んできた。

 「心に猟奇殺人鬼を忍ばすことができたなら、」

 このとき、私の心に殺人鬼が宿った。私は、白昼夢の中で、順にここにいるおば様方に切ってかかった。手に握っているナイフは、人を裂くメスへと変貌し、いとも容易く、その弛んだ肉体を切っていった。私の顔には、無意識に嫣然とした表情が浮かんでいた。

 それから、誰もいない闃寂で私は読書を愉しんだ。

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にわ。
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