丸山「戦争」発言が浮き彫りにした三つの問題(その2 外交)
▼前号では、丸山穂高衆議院議員の「戦争」発言が、具体的にどのような状況で発言されたのかを確かめた。
▼読み返してみると、丸山氏の行状があまりにもひどいのに、あんまり知られていないので、もう一度要点を引用しておく。
▼外務省職員は、丸山氏に対して、事前に「してはいけない行動」をレクチャーしていた。にもかかわらず、丸山氏は、そのことごとくに逆らったのである。
「仮に単独行動を行えば、現地の『国境警備隊』『警察』等に身柄を『拘束』されたり、『立入許可証』の提出を求められたりする可能性」
「夕食交流会やホームビジットなどでの飲酒は節度を保つ。急性アルコール中毒になった場合、警察に保護されたり、ロシアの『法令』に基づく入院・移送手続きなどが『適用』されたりする可能性あり」
▼重要なのは、
「これらの行為でロシアの法令が北方領土に適用されていることが認められれば、日本の立場を損なうことになりかねない」
という説明である。筆者のような一般人ですら、これがとても深刻な事態だということは理解できる。
丸山氏は「戦争発言」の後、何度も外に出ようとした。
新宿の歌舞伎町で、ただの酔っぱらいが管を巻いているのではない。繰り返すが、日本の現職の国会議員が、ロシアが実質支配している北方領土で、泥酔したあげくに乱暴狼藉(ろうぜき)をはたらいたわけだ。
▼この行動の意味について、2019年5月17日付の「東京新聞」で佐藤優氏が解説している。適宜改行。
〈暴言を吐いたとき、丸山氏は酩酊(めいてい)しており、宿舎の外に出ようとしたという。その場合、ロシア警察によって拘束される可能性があった。
ロシアの官憲に対して「戦争で島を取り戻す」などという発言をしたら、深刻な事態に発展した。ロシアの法令で戦争を煽(あお)る発言は禁止されているからだ。
北方領土のビザなし交流では日本人がロシアの法的措置に服すことがないように細心の注意を払いながら行われている。
丸山氏の行為で、ビザなし交流の枠組みが崩壊する危険すらあった。〉
▼ビザなし交流はガラス細工のような繊細な仕組みであり、長年の日本外交の成果の一つである。丸山氏の乱暴狼藉によって、日本外交がどれほど深刻な事態に陥ろうとしていたか、この解説を読めばよくわかると思う。
後日、丸山氏が頑張った「言論の自由ガー」などという抗議は、当日のこうした状況を知ってみれば、戯言(たわごと)だということがわかる。
▼本間記者の記事にいわく、
〈丸山氏は「国会議員には不逮捕特権がある」「ここが日本であることを俺が証明してやる」などと主張しながら玄関に向かおうとしたため、外務省や内閣府、道職員らが廊下に立ち塞がり、部屋のドアと玄関も二重に施錠したという。この時、阻止した一人は「夜間外出を強行しようとしたため、『人間の壁』を作り阻止せざるを得ず、大変だった」と振り返った。〉
▼丸山氏の放言は、目も当てられないしろものだ。外務省、内閣府、北海道の職員たちは、おそらく必死になって食い止めたのだろう。こんな愚かな国会議員一人のために、これまでの蓄積がパーになってはたまらない。
いっぽう、丸山氏を「擁護」したり「支持」したりしながら、かつ国家を論じたり、「愛国者」を自称したりしている人々は、自らの一時的な感情の満足のほうが、北方領土交渉の進展よりもはるかに重要なのだろう。
久しぶりに「愚の骨頂」という言葉を思い出した。(つづく)
(2019年5月28日)
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