「黒影紳士」season2-9幕〜誘い〜 🎩第二章 影の誘い
――第ニ章 影の誘い――
病院に着くと、サダノブは看護師に色々聞かれて困っていた。何時の間にか小さなカップの破片はまた姿を消したが、口の中から喉の手前迄切り傷だらけだと言う。
サダノブは良い理由が思いつかず、酔っ払って何か口にした様だが、自分も酔っていたので何を口にしたか分からないと言い張った。当然、酔っ払い過ぎだと怒られたが、黒影を診て貰えるなら其れも仕方無いと思った。
其のお陰で黒影の検査は増えたが許してくれるだろう。
あっと言う間に日が暮れて外は暗くなる。
……そうだ、風柳さんには話しておこう。
風柳に連絡して、白雪には言わない様に黒影が言っていた事を伝えた。最初は俄に信じられない様だったが納得してくれ、白雪には上手く仕事が急に入ったと誤魔化しておくと言ってくれた。
……やっぱり頼りになるな。……俺も何時か、風柳さんみたいに先輩に頼りにされる様に成りたいな……。
そんな事を、預かった黒影のコートと帽子を見て、ぼんやり思っていた。
――――――
食事が摂れないので、ニ、三日は点滴入院になると、看護師に伝えられた。風柳に伝えると、サダノブだけが仕事なのに戻って来たら不自然だからと、穂さんの部屋に泊まったら如何かと言われ、サダノブはそうする事にした。
風柳は仕事を抜け出して、昼間に見舞いに行くと言って連絡を切る。やっぱり刑事ってこんな時も慌てないんだな……と、サダノブは凄いなと思う。点滴をしたまま黒影は横になり、サダノブを見ると何か言いたそうだったが、暫くして目を閉じた。
……疲れたから寝るのかな……。
そう思ってサダノブは部屋を後にする。すると、丁度廊下で黒影の部屋を探す穂の慌てている姿が見える。
「サダノブさん!良かったー。黒影さんは?」
と、サダノブの姿を見付けた穂は一瞬安堵はしたものの、直ぐ様黒影を心配する。
「黒影先輩なら、もう眠ってるよ」
と、サダノブは教えた。
「……そう。大丈夫、大丈夫に成りますよ。何時だって黒影さん……そう言うじゃないですか」
穂は元気の無いサダノブにそんな事を話す。
……あっ、そうだ……さっき先輩が何か言おうとしていたの……其れか。
「そうですねっ、黒影先輩ならそう言うに決まってる!」
そう言ってサダノブは笑った。
「明日も、様子見に来ましょう。涼子さんが納品遅れたお詫びに、”旦那の様子見に行く暇ならやるよ。其の代わりに報告しな”って。本当は心配な癖に、涼子さんって可愛いですよね」
と、穂は言って笑う。
「穂さんぐらいだよ、涼子さんに可愛いなんて言って叱られないのは」
と、サダノブは苦笑した。
――――――――
翌日、穂とサダノブが黒影の見舞いに行くと、黒影は筆談用の紙とペンで黙々と何かを書いていた。
良く見ると書いていたのでは無い。描いていたのだ。
紙には黒い影画が描かれている。
「先輩、事件ですか?!」
思わずサダノブが聞くと、黒影は顔を上げてサダノブを見ると頷いた。
「でも、先輩がそんな調子じゃ……」
と、サダノブが言うと、黒影は違う紙に、
……”推理をするのには問題は無い”……
と、書いて見せる。
「先輩……未だ不運が続いているの分かってます?珈琲も酒もまともに飲めないじゃないですか」
サダノブはこんな時にまでと溜め息を吐いて言う。
「そうですよ。あまり動かれてはサダノブさんも、皆んなも気が気ではなくなります。影絵は私が風柳さんにお届けするので、黒影さんは何時もの様に指揮を取ってくれれば「たすかーる」も協力します」
穂も心配そうに言った。黒影は其れを聞くと、
……”不運なんて事件のついでに何とかする!”……
と、ささっと書いてポイっと宙に其の紙を投げたと思うと、穂とサダノブの逆を向いて掛け布団に潜ってしまった。
「先輩、いじけないで下さいよぉ。……全く、こう言う所は大人気無いんだよなぁー」
と、サダノブがぼやくと、
「……でも、そう言うところが可愛いんですよねぇー」
穂はクスクス笑う。
「そうそう、穂さんなら分かると思ってたよー」
と、サダノブはデレデレし乍ら頭を掻いて笑っている。
……”さっさと出て行け、馬鹿ップルがっ!”……
黒影が怒っている事も知らずか気にせずが、相変わらず黒影談議に華を咲かせるサダノブと穂なのであった。
――――――――――
「「たすかーる」の穂でーす!風柳さんいらっしゃいますか?」
玄関に出て来たのは白雪だ。
「おはよう御座います、白雪さん。お届け物なのですが……風柳さんは?」
穂は白雪に聞いた。
「もうっ……皆んな事件で出掛けちゃって、また置いてけぼりよ。穂さん、良かったら上がってく?風柳さんもいるわよ」
と、白雪は言う。
「ええ、長居は出来ませんけど。お言葉に甘えちゃおうかしら」
そう言って穂は、変に断って怪しまれるより何時も通りにしようと、上がらせてもらった。
「お邪魔しまーす。朝からすみません」
申し訳なさそうに穂は風柳に言った。
「構わないよ。白雪は穂さんとお喋りするのが大好きみたいだからね。此方こそ、お仕事の邪魔にならないかと何時もハラハラしているよ」
そう言って風柳は優しく笑う。事件の時は犯人を狩る姿は虎とまで言われる男だが、普段は始終笑顔の優しい皆のお父さんみたいな、温厚で優しい人だ。
「あっ、黒影さんからお届け物です。先にお渡ししますね」
穂は風柳にそう言って包みを渡した。
「お部屋行こう!穂さん、何飲む?」
白雪は穂の手を引っ張る。
其れを見ていた風柳は、荷物は二人が白雪の部屋に入ってから開けようと横に置いた。
――――――――――――
「穂さん、本当に緑茶で良いの?」
と、白雪は甘いお菓子と自分のミルクティーもトレイに置いて持って来た。
「ええ、白雪さんの特製ロイヤルミルクティーは、もっとゆっくり出来る時に是非」
と、穂はにこやかに微笑んで言った。部屋を見渡し、
「其れにしても可愛いものでいっぱい。此処に来ると夢の世界に来たみたい……」
と、穂は改めて思って言う。
「現実は嫌になる事ばっかりじゃない。せめて自分の部屋だけは好きな物でいっぱいにするの」
と、白雪は答えるとちょこんと座る。
「私も嫌な事があったら此処に来ちゃおうかしら?」
と、穂が言うと、
「是非来てっ!其の時はお泊まり会しましょう!」
と、白雪はご機嫌になった。
「はいっ」
穂はにっこり笑う。
「……黒影、事件順調そうだった?……また怪我とかしてない?」
と、白雪は穂に不安そうに聞く。穂は嘘を吐くのに心が痛んだが、黒影が如何に白雪を心配掛けまいと頑張っているのかが分かっていたので、
「ええ、犯人は直ぐ見付けられそうだって言っていましたよ。サダノブさんも黒影さんも良いコンビになって来て順調です」
と、微笑んで答えた。
「……そう、其れなら良かったー」
と、白雪はミルクティーを飲んで長い安堵の息を吐いた。
「……何か、心配事でも?」
と、穂が聞くと、白雪はドールチェアからLillyを持って来て穂に見せた。
「此の子ね、Lillyって言うの。もうだいぶ昔に買ったから、古ぼけてきてはいるけれど……私が寂しくない様にって、黒影が初めて買ってプレゼントしてくれたお人形なの」
と、白雪はLillyを紹介した。
「まあ、素敵なお話。……其れにLillyさん、とっても綺麗。髪の毛色も白雪さんみたい」
と、穂はLillyに挨拶する様に手を持ち上げ微笑んで言う。
「そうなの……。私、此の子みたいに可愛く成りたくて、其れで今も此の髪色なの。……だって黒影が此の子の髪、綺麗だって言ったのよ。……なのに、聞いて!穂さんっ!」
と、白雪は急に紅茶をカチャンと置くと前のめりになる。
「はっ、はい、聞いてます!」
と、穂は慌てて緑茶を置いて聞く体制を整えた。
「此の間ね、黒影にLillyのスカートの裾が解れたからお直ししてもらったの。そうしたら黒影ったら”もう古いし、新しいの買おうか?”なんて言うのよ。無神経にも程があると思わなくて?……で、私頭にきちゃって」
と、勢いで其処迄言うと、落ち着こうとしてるのか白雪はミルクティーを一口飲んだ。
「其れは……流石に黒影さんも無実では済みませんね」
と、穂は苦笑いし乍ら言う。
「……でしょう?其れでね、其れからが不思議なのよ。黒影がLillyのお洋服を直してたら珍しく指を針で刺したり、黒影の愛用していた珈琲カップが割れたり、あの器用な黒影が、よ?……私が思うにはね、Lillyが私の代わりに怒ってくれたのよ」
と、白雪は言うのだ。まさか其の怒りが病院送りになる大惨事になるとは考えられない。
「成る程……Lillyさんは白雪さんの味方でもあり、大切なお友達なのですね」
と、穂は笑って誤魔化した。
「そうよ、私が夢見で怖くなって夜中に起きても、ずっと一緒にいてくれたわ。良く夢で見た怖い話を聞いてもらって……私はまた落ち着いて眠れるのよ。何処かの鈍感な誰かさんとは大違いだわっ!」
と、黒影が聞いたら耳が痛くなりそうな事を言っているが、きっと気にしているから言葉に黒影の名前がちらほら出るのだと穂には分かる。
「Lillyさん、私も抱っこして良いですか?」
と、穂は怖がりもせずにそう白雪に聞いた。
「穂さんなら良いって言ってるわ」
と、微笑むと白雪はLillyを渡してくれる。
……とっても綺麗で愛らしいお人形……。一体、何で黒影さんに怪我をさせたりしたのかしら?
穂はLillyの頭を撫で乍ら時計を見上げた。
「あら、もう少しLillyさんと白雪さんとお話したかったのに、次の配達に出る時間だわ。白雪さん、今日はLillyさんを紹介してくれて有難う御座います。今度は三人でゆっくりお茶会しましょう」
そう言って穂はにっこり笑い席を立つ。
「そうね、そうしましょう!Lillyも楽しみにしているわ!」
と、白雪はLillyと玄関先まで穂を送り、白雪はLillyの手を持ちバイバイをさせたので、穂はバイクに跨りLillyの手を取って、
「またね」
と、言って白雪にも手を振り去って行った。
――――――――――――
二人が部屋でLillyの話をしていた頃、風柳は今のうちにと黒影から届いた筒を開ける。形状からして、影絵だと言う事が想像出来ていた。入院中に態々「たすかーる」を利用して届けたなら他に無いだろう。
「……やっぱり」
影絵が一枚と綺麗な花の便箋の手紙が添えてあった。
手紙は穂からで、黒影の病状を丁寧に細かく伝えてくれたものだ。其れを読んで風柳は、大事にならなかったと少しホッとした。
……穂さん、有難う……と、心に感謝を想う。
「……で、うちの放蕩息子を大人しく休ませるヒントはっと……」
と、小さくぼやきながら影絵を広げて見る。病人とは言え、昔は夢を見て起きたら直ぐに影絵を自分で描いていただけあり、相変わらず器用で上手い絵だ。
絵の裏に、時夢来で見たであろう、夢を見た時間、日付、未来か過去か記してある。
日付は今朝方見た夢らしい。未来……予知夢と言う事だ。
箇条書きに影絵の予知夢の詳細も記してある。
犯人 男性、身長約175センチ前後、長いフード付き羽織り着用
場所 竹林 若しくは 竹林に模した場所
逆光が人工的で強すぎるので舞台か何かの展示作品前の可能性あり
明日 「木霊と採光」の展示会にて大掛かりな竹林のアートが開催される。神木アートギャラリーにて。
被害者 「木霊と採光」の展示にて日本舞踊とコラボレーションが予定されている。上段の舞台より落下し、竹林に刺さっているところを発見されるが、恐らく事故では無いと推測す。
明日、一度戻ります。白雪にもそう伝えておいて下さい。
詳細は後程。 黒影
――――――――――
未だ喋れない筈なのに、何で帰って来るんだ?もう少しゆっくり休めば良いものを……。風柳には黒影の考えが分からなかったが、何か理由があるのでは無いかと溜め息を吐く。
丁度、穂を見送った白雪が戻って来た。
「……あ、白雪あのな。黒影、明日には戻って来れるそうだ」
そう言うと、白雪は素直に喜ぶ。……此れで未だ話せないと知ったら、ショックなんじゃないか?と、風柳は明日が不安でならない。
――――――――
「黒田さぁん、黒田 勲さぁーん!……あら、何処に行ったのかしら」
看護師が探し回っている。
「先輩、本当に良いんですか?まだ喉……」
黒影はサダノブの目を見て、頷く。
「全くもう……全然大人しくしてくれないんだから」
そうサダノブが言ったが、聞いてか聞いていまいか、勝手に帽子を小脇に抱えフルヘルメットを被り、後ろに座って待っている。
「分かりましたよー!今、出します」
そう言ってサダノブは渋々バイクを走らせた。
「ただいまでーす!」
不機嫌なサダノブが風柳邸兼夢探偵社の事務所に戻った。
「おっ、黒影如何する気だ?」
黒影は風柳の質問に待てと掌を見せると、コートのポケットから病院で買ったマスクを見せ、着けると咳き込むフリをして見せた。
「……ああ、成る程な。飲み食いはもう大丈夫なのか?」
その風柳の質問には、サダノブが答えた。
「七分粥か白湯とお茶なら今日から良いみたいです」
と、呆れ乍ら説明した。
「白雪には、喉風邪と言えば良いんだな?」
風柳が確認すると、黒影は頷く。
「分かったよ。事件となるといてもたってもいられない。変なところばっかり似たな」
そう風柳は言って笑い、白雪に黒影の帰りを知らせに行った様だ。
其れを見た黒影がサダノブの服を数度引っ張る。
「ん?何ですか?」
サダノブが気付くと、タブレットを指差す。
「あー、はいはい。今、出します」
サダノブがタブレットを渡すとある場所を指差して見せた。
「ああ、成る程ねー。困った時の神頼み!」
と、人形奉納専門の神社を指差しメモ機能に、
……白雪とLillyを連れて行く。バイク貸せ……
と、打って見せた。
「黙ってたら可愛いのに、文字になると良くも悪くも先輩なんすよねー」
と、サダノブは相変わらずの命令口調が文字だと分かるので苦笑した。
……さっさと準備するぞ!……
と、眉間に皺を寄せた黒影は、サダノブのタブレットにそう書いて胸にバンっと軽く当てて持たせると、とっとと自室に戻り準備をする様だった。
「あっ……怒った」
サダノブは暫く冗談は言わない様にしようと心に誓った。
――――――――――――
「黒影、お帰り……あれ?」
白雪が慌ててリビングに来て黒影の姿を探した。
「ああ、先輩なら今部屋に行きましたよ」
と、サダノブは説明した。
「えー、未だお帰りも言ってないのに。……喉風邪どんな具合?」
と、白雪は階段の上を見上げ乍らサダノブに聞いた。
「何処で拾って来たんだか……。医者が言うには喋らなければ直ぐに良くなるみたいですよ」
と、軽く言った。
「ふーん……本当に最近ついてないのね、黒影」
と、白雪は何時もの様に珈琲を淹れようとする。
「あっ!えっと……珈琲は、缶珈琲を沢山貰ったから其方から飲むって言ってましたよ」
と、サダノブはまた口いっぱいに切られたら堪らないと、焦ってそう言った。
「あら、そう?なら仕方無いわね」
と、白雪は缶珈琲とコップを出して、黒影の席に置いた。
コップを見てやばいと思ったサダノブは、白雪が見ていない隙にコップを戸棚にそーっと隠した。
……白雪さんに出されたら、先輩黙って使いそうだもんな……。そう思って内心冷や冷やしている。
暫くすると、黒影が階段から下りて来る。
使い慣れたノートパソコンを片手に持っていた。
「あっ!お帰りなさい、黒影!」
白雪は黒影の姿を見付けると、パタパタと駆け寄って言った。
……ただいま。急に出てすまなかった……
黒影は自分のノートパソコンに打つと見せた。
「ううん、其れより全然話せないの?」
と、白雪が心配そうに聞く。
……少しは話せるが、喋らない方が治りが早いらしい……
と、書かれたのを見て、
「そっか。じゃあ、早く治って欲しいから協力するね」
と、白雪はにっこり笑った。
……有難う……
と、黒影も微笑む。
……白雪にLillyの事、聞きたい……
「Lillyの事?……別に構わないけど」
……穂さんから聞いたけど、Lillyは白雪から事件の話を聞いていたんだな?……
「うん、そうよ」
……まだ夢見が不安定な頃じゃなかったか?……
「其れは……Lillyに話せば怖い記憶が消えたし、事件に必要な事だけ覚えていれば良いと思っていたから」
と、白雪は昔を思い出し乍ら言った。
……そうか、其れで僕には夢見が不安定に見えたんだね。Lillyに話せば完全に忘れられたかな?……
「……そうね。だから私にとっては特別なお人形よ」
と、白雪は言う。
……僕にとっても白雪にプレゼントした最初の人形だからね。思入れはあるよ……
そう書くと、白雪に黒影は優しい目を向けた。
「何よ、覚えていたんじゃない。だったら何で新しいのなんて言ったのよ?」
と、白雪は少し照れ隠しに怒り乍ら言う。
……Lillyのメモリーがもういっぱいなんだ……
……Lillyの中から見付かった海馬と言う、人体にある記憶を司る場所はもうボロボロで修復が難しい……
……Lillyは事件が解決した事も知らず、其の途中だけ記録しているから、犯人を恨む未練の気持ちだけが残ってしまった……
……白雪は態とそうしたのだよね?……
「そうよ、今更分かるなんて遅過ぎよ。……Lillyの悲しみも憎しみも日に日に増えて行った。でも、其れは本来私が持つべき物だった。黒影はあの時、其れに気付いたとしたら如何するつもりだったのよ!私には悲しみや憎しみが雪の様に積もって行くのを、ただ見ているしか出来なかった!今ならLillyは出来るの。……やっと、自由になれたのよ?……」
と、目に涙を潤ませて白雪は言った。
「まさか……其れがあの影……」
二人の会話を聞いていたサダノブが、ふと思い出して言った。あの時黒影の影から別れた白雪の影は、今思うとゾッとする程の憎しみに満ちていた。
黒影はサダノブに頷くと、また何かを書き始め白雪に見せた。
……Lillyは未だ制御出来ないのだろう?……
……本当の意味でLillyは未だ自由を得ていない……
……まだ、僕の影から出られない……
……今から、Lillyを切り離しに行く……
……Lillyは自分を縛る僕を狙う筈だ……
……何があるか分からないが、ついて来てくれるか?……
と。
白雪は黒影のノートパソコンを自分に寄せて何か書いた。
……これから僕等が行く道は茨の道かも知れない。其れでも、もし我儘が許されるのなら共に手を取り歩いて行きたい……
……そう貴方、言ったじゃない……
……だから、行きましょう……
其れを書き込んで黒影に白雪は見せた。
黒影は動揺して帽子を深く被る。
「えっ?何、白雪さん何て書いたんですか?」
と、サダノブは黒影があまりに動揺を隠せずにいたので、何事かと聞いた。
「……其れは秘密よね、黒影?」
と、言って白雪は黒影の肩を自分の肩でトンッと軽く突いて笑う。
「えー、見せて下さいよー……」
サダノブが覗き込もうとしたので、黒影は慌てて全文デリートした。
黒影は缶珈琲を開けて飲むと、知らんぷりして外を見ている。白雪はパタパタと部屋からLillyを連れて来た。
「さぁ、行きましょう」
と、白雪がにっこり笑う。黒影は黙って頷いた。
フルヘルメットを被って帽子を仕舞うと、後ろに白雪をふわっと乗せる。
白雪にもヘルメットを被せたのだが、ブカブカで黒影は声の無い笑顔で笑い、顎の下のベルトを調節してやる。足を何処に置くのか分からない様だったので、マフラーの上をコンコンと軽く叩いた。
エンジンを掛けて姿勢を前に少し倒す。白雪は全く乗った事が無いので、白雪の手を握ると前でしっかり持つ様に引き寄せる。白雪の体がグイッと黒影の背中に引っ張られ、白雪はドキドキする心臓の音が聞こえてしまわないかと顔を下にする。未だ治りきらない薄い声で黒影は、
「如何した?怖いか?」
と、優しく聞いた。
「ううん、何でもない」
白雪はそう言う。
「大丈夫だ。手を離すなよ」
そう、言うと走り出す。周りの景色なんてとても見れない。……其れは怖かったからじゃないの。……貴方の背中が、あんまりに温かかったから。
――――――――――
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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。