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Winter伯爵の落とし物❄️第二章⛄️大切なもの

――第二章 大切なもの――

「さぁ…行こうか…」
Winter伯爵は僕に言った。僕が、
「何処へ?」
と聞くと、
「ここにいたからと言って思い出せるものではなかろう…」
そう言って、歩み出した。一瞬だが…それを言った彼の顔は少し怒っているようにも見えた。僕は自分が責められているような気がして…仕方ないだろっ!誰だって…時が経てば忘れる。人間とは…そういう生き物なんだって、心で言い訳をしていた。
「人は大事なものも気持ちも全て忘れる…そういう運命(さだめ)の元に産まれた…悲しい生き物だ。しかし…その運命に流れて生きるか、逆らって足掻いてみるか…それは、君自身が決めるべき事だ。」
彼は、僕を次の地へ案内する途中、そう言った。僕の気持ちまで彼には読めるのだろうか…。僕は次の地へ辿りつくまで、出来るだけ何も考えないように努めた。

伯爵と僕は森の中へと入っていった。そこは、木々や花から滴る雫は光を帯び、まるで別世界模様だった。彼は一つの花の前に立ち、指をさしてこう言った。
「この花を覚えているかね?」
彼の指差した先を見ると、そこには小さなどこにでもあるような青紫の花があった。
僕は暫く考えてみたが、何も思い出す事なんてなかった。僕は、彼に首を横に振ってその事を伝えた。僕の好きな花の色…わかる事はそれだけだった。
「僕がここに連れて来た事…。それだけ覚えていてくれたまえ。」
彼はそう言って、後から着いて行っていた僕の顔も見ずに次へと、進んで行くようだ。
僕は着いて行くしかないんだ。何もかもわからないここでは。けれど、何故か不安だけはなかった。Winter伯爵は何時も自信に溢れていて、間違いはない人にも思える。僕はそれよりも、自分の事がわからなかった。何故、こんな不思議な男を僕は信用出来るのかと…。
彼に着いて行って暫くすると、森が開けた丘に出た。そこからは綺麗な街が見下ろせた。
「あそこに行くのか?」
僕が伯爵に聞くと、彼は
「そういうところは変っていないのだな」
そう言って、少し喜んでいるみたいに微笑んだ。きっと彼には答えが見えているんだ。見えていないのは僕だけ…。
それを感じるから、僕はこの男を信用したのだ。僕は何時の間にか、彼の期待に答えたくなっていた。僕を助けに来てくれたのなら…僕はそうする事でしか、彼に感謝する方法を知らない。物語を書いてく事で、何時も誰かに感謝していた僕…けれど、今思うとそれは期待に答えたいという決意だったのも知れない。

街へ着くと、僕らは散々な歓迎を受けた。
彼の知り合いだからと、僕は彼と共に宮殿に案内された。とても綺麗な女性が出迎えてくれた。
「高嶺の花だ…」
Winter伯爵はその女性には聞こえない程の小声で僕にそう言った。
「そうかな…」
僕が彼に言い返すと、彼は何が可笑しかったのか…大声でけらけら笑うだけだった。その声を聞いてその女性も彼の方を見て、
「何か…そんなに楽しい事でもおあり?」
そう言った。彼は余計に笑い出して…
「否…君は大したものだ」
と、僕の肩を叩きながら笑った。
その女性は僕と彼を歓迎会に誘ってくれたようだった。伯爵には僕が彼女に興味を持ったのもわかったようだった。けれど伯爵はこう言うのだ。
「彼女に甘い言葉は囁かない方が身の為だ。見えるものが真実ではない…」
と。歓迎会は最低…としか言いようがない。
豚が踊り、目を閉じなければ食べられない程不味い食事だった。けれど、伯爵は僕と違った。随分満喫出来た様子なのだ。僕らはその宮殿で暫し休息をとらせてもらう事にしたんだ。森を歩いた足を回復させる為に…。
しかし、硬いソファーに硬いベッド…疲れなど、とれるはずもない。僕は居心地の悪さに痺れをきらせて伯爵の寝ている隙に、彼女を森へと誘った。森へ行く途中僕らは手を繋いだ。こんな綺麗な森なのに、彼女は怖がっているようにも思えた。僕は伯爵と行った丘へ彼女を案内する。だって…僕はこの世界に不慣れだったから、その位しか知っているところもない。
「見てよ…綺麗だろう?」
僕はその丘に着くと、彼女にそう言った。
けれど、彼女はちっとも見る気配がなかった。
それどころか、僕は彼女を怒らせてしまったらしい…。
「貴方は最低ね。大嫌いだわ…。もう顔も見たくない。…さようなら…」
そう言って彼女は帰ろうとするじゃないか…。
僕は勿論慌てたさ。
「僕が何かした?ねぇ…始めて見た時から君の事…綺麗な人だって思っていたよ。」
そう言って、僕は彼女が去ろうとするその手をとった。けれど彼女は、
「ありがとう…」
そう言って微笑むと帰って行った。僕は不思議でならない。何か…まずい事でもしたのだろうか…。僕は腑に落ちないまま森の中を歩いた。
そして、伯爵が僕に見せた花を眺めていた。これが…何だというのか…。どこから見てもなんの変哲もない花だった。そうだ…この花を彼女にプレゼントしよう…。僕は、そう思って花を摘もうとした。けれど、何か引っかかるのだ。伯爵の言った言葉が…。ここに連れて来た事だけは…忘れないでくれって…。
幾ら子供の頃を覚えていない僕でも、ついさっきの事は思い出せる。この花がなくても…僕は、伯爵と来た事を忘れない。そう思って僕は花を摘むと宮殿に向かった。何故か…妙にその道のりは長かった気がした。

 宮殿に帰ると、僕は伯爵が眠っているであろう部屋に行った。しかし…どうしたものか、伯爵の姿はなかった。
「何だよ…恋愛相談ぐらいのってくれたって…」
僕はそう呟いて、がっかりした。けれどいないのなら仕方がない。僕は彼女に謝らなくてはと、彼女の部屋を訪れる。
「さっきはごめんね…」
僕は、彼女に会うなりそう言って、森で摘んだ花を差し出した。彼女は思ったより喜んでくれた。しかし…僕が、安堵したのも束の間…数人の兵士が来て、僕を捕らえるのだ。
僕は予期せぬ展開にまさか伯爵も捕まったのではないかと、心配になって来る。僕は兵士の一人に殴られ、気がつくと牢屋に入っていた。隣を見ると…伯爵の姿がある。
「だから言っただろう…。」
伯爵は自前の白い服が汚れたのが不機嫌な様子だ。
「これから最高の歓迎会だよ…。」
そう言って伯爵は溜息をついたが、僕には何の事だかさっぱりわからない。だって…僕らを待っていたのは、最悪な歓迎会だったのだから…。
「余裕な顔している場合じゃないぞっ!」
僕は自分がこれからどうなるのかわかった時、伯爵に慌てて言った。伯爵も、
「これはちょいとまずいな…」
そう小さな声で言った。僕らの目の前には大きな三つ首の龍が現れた。Winter伯爵は杖代わりの為にか、手に持っていた傘を広げる…。
「なぁ…これで駄目だったら、君はあの花を探せ。…僕は死なない。わかったな…。」
伯爵はそう言うなり、傘を開いて物凄い風と共に大雪を降らせた。龍は大きなうめき声を上げて凍っていく。
「やった…のか?」
僕は彼に聞いた。しかし、彼の目は龍をじっと見つめていたんだ。終わっていない事を悟った。
「良いから、花を取りに行けっ!」
そう伯爵は叫び、僕を逃がそうとするが僕は
「あの花なら彼女にあげてしまったよ」
そう答えるしかなかった。
「馬鹿な…っ!!」
そう伯爵が言った直後だった。
龍は口から炎を出して体中の氷を溶かし、その炎を伯爵に目掛けて噴出した。
伯爵の白い服がみるみる龍の炎で黒く焦げていくのが見えた。あの花が何なんだっ!一体僕が何をしたというのか…それでも伯爵は声にならない声でこう言った。
「これは…お前が書いた物語だ。…思い出せ…」
…と。その直後だった。伯爵が避けられないであろう大きな炎を龍は飛ばした。

 伯爵は…あれからどうなったかわからない。
僕は気づくと、何時もと変らない日常の中にいた。夢…だったのか…。
僕は机のペンを拾い上げそう思った。僕は、彼との物語を書こうと思った。けれど、Winter伯爵が龍に狙われたところで話は行き詰まった。僕なら…どうするだろうか…。彼が本当にいたとしたら…どうするのだろうか…。
僕はまた本棚を漁る。僕が主人公ならば、彼を助けないないで終わる物語なんて夢がない。
僕なら…迷わず彼を迎えに行くだろう…。
彼が言っていた言葉を思い出していた。これは…僕が作った物語なのだ。ならば、必ず僕の過去にある筈なんだ。彼を助けに行く何かが…。僕は、そんな現実的でもない事を信じるようになっていたんだ。彼が…僕をそうしたのだと思う。
僕の記憶の中に、あの丘から見た宮殿はあった。
確かに…存在した。そして、一冊の絵本を見つけた時、それを再確認したんだ。その絵本の表紙に描かれた宮殿は、僕の見た宮殿にそっくりだったが、只…宮殿は、僕が幼くて間違えたのか逆さまになっていた。僕にはこの絵本をひたすら読むしかなかった。きっとこれが…彼と僕を繋ぐ、唯一のものだから…。
絵本を読んでいくうちに、色んな記憶が甦って来た。これは確か…小学校に通っていた時、先生から出された課題だった。絵本を作りましょうって…。
僕はこんな話を書いた。さかさ王国の話。そこに住む人は皆心と逆の言葉を話し、平和を愛する故に、戦争を始める。そして、そこに訪れた一人の少年とその友達が、さかさの世界を直そうと、旅に出るんだ。平和の花を探しに…。龍もその時、彼らの前に立ちふさがったものと全く同じだった。でも、その絵本には書いていない。Winter伯爵を迎えに行く方法なんて…。ましてや…僕はどうやってまたあの世界に戻れば良いのか…。
「あの花を探せ…」
Winter伯爵の言ったあの一言が、唯一の手がかりだった。何故…僕は花であの世界を救う事を考えたのだろう…。
その頃、僕には気に掛かる事があった。
僕が花を摘んだあの瞬間…何かが変わった気がしていたのだ。Winter伯爵は、本当に僕にそれを見せた事が大事だったのならば、それを忘れないようにあの花をその場で摘んで、僕に持たせれば良かった。けれど…彼はそうしなかった。僕がなくすと思ったのか?
そんな大事なものならば、僕に見せなければ良かったのに…。僕はふと気づいた…。
あの変哲もない花が彼か、若しくは僕に何か大事な意味があったんじゃないかって。摘み取れない程…大切なものだったんじゃないかって…。
僕は慌てて、図鑑を読み始める。あの花が載っているんじゃないかと思って…。けれど、あの花はどこにも存在していなかった。
けれど、どうしてだろうか…。僕は遠い昔に、この図鑑を読んでいた気がする…。僕はやっと探していたものを見つけた。
それは図鑑に載っている沢山の植物の写真ではなく…後書きに記された文字だった。
森の花は野花とは違って、一度摘むと再度咲くまで数年もかかる。だから大切にしなくてはいけないと…。なんて見つけると単純なものだろうか。僕は幼い頃に森へよく遊びに行った。皆と遊ぶよりも森の方が落ち着いて好きだった。僕は森に沢山の綺麗な花を見つけたが一度も摘み取った事はない。それは大切なものだったから…。けれど、僕は子供の頃に大切にしていたものさえ忘れていたのだ。
”馬鹿なっ!〟そう、伯爵に言われたのも無理はない。自分が大切に思っていた事さえ忘れるなんて…僕は紛れもない愚か者だ。しかし…嘆いたところで伯爵は帰って来ない。今更…謝る事も出来ない。
本当に大切だったのは…僕を何時も見ていてくれて、僕を助けに来てくれるWinter伯爵だったのかも知れない。
窓から外を眺めると眩しい光が射し込んでいた。雪がみるみる溶けていく…。Winter伯爵は春が来たら、どうなるのだろう?彼は死なないと言ったが本当だろうか?雪が溶けていく姿に、僕は焦りを感じた。彼ともう…二度と会えなくなるような気がしたから…。
「花は…もうないよ…」
僕は外に出て、冬の冷たい風を感じた。残り雪で小さな花を作る。真っ白な…僕が大切にしていた筈の花…。全てが夢だったのか…絶望が再び、僕を包もうとしていた。

その時だった…。僕の残り雪で作った花が溶けてそれは小さな水溜りのようになった。
それを覗き込むと…なんとあのさかさの国の宮殿が見えるではないか。
「夢じゃなかったっ!」
僕は、あまりの喜びに迷わず、その水溜りに飛び込んだ。伯爵を助ける術なんて、僕にはわからない。けれど…彼は僕を救ってくれようとしていた。ならば、僕も彼を助けて当然なんだ。だから…僕は、自分の作った物語へ迷わず入り込もう。
何があっても怖くない。きっとあの物語の主人公だって思っていたさ。友達がいれば…出来ると信じた筈なんだ。僕はやっと…子供の頃の自分を取り戻せた気がした。

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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。