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season6-3 黒影紳士 〜「月光即興曲」〜太陽の黒曜石🎩第一章 1黒猫と探偵 2 消失
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1黒猫と探偵
硬い靴裏の高らかに軽やかに響く音。
何処か日本外れした、景色……。
何でかって?
固いフランスパンと、小さな向日葵、白に仄かの紅の差した淡色の薔薇、霞草の花束を抱えた紳士が歩いて来たからさ。
ベストにはサテンのワインレッドのハンカチーフが見え、真っ黒なロングコートを肘に小粋に掛け、風に揺らし悠々と歩いている。
フレンチシャンソンを小さく口遊む日本人。
その名は黒田 勲(くろだ いさお)。……こう見えても泣く子……否、失礼……裏社会の誰もが、その男の影を恐れ、そのトレードマークとも言える、漆黒のロングコートとシルクハットの紳士の出立ちを気を付けろとこう、呼んだ。―――真っ黒な服を着た紳士……其奴の影からは……「黒影」(くろかげ)に出会ったら諦めろ。
逃れられた者などいないのだから。
――それは未だ夏の日差し残る麗かな午後、突然現る出逢い……。
「……あっ、先生……。」
黒影は真っ黒な、円らな瞳の猫に出会う。
その名は「先生」。
風柳がこっそりそう呼び話し掛けていたのを、黒影が聞き茶化し名付けた。
「……おやおや……。」
黒影は思わず先生の愛らしさに、優しい笑みを溢して微笑んだ。
先生が足元に擦り寄って遊び始めたのだ。
「あっ……先生、こっちですよ〜。」
黒影は後ろから大型トラックが入ってきた事に気付き、両手は塞がっていたので、ロングコートを揺ら揺ら揺らし、先生を端に誘導する。
入って来たのは引っ越しのトラックだ。
黒影は一度荷物をそっと垣根の上に置くと、引っ越しの音に先生がびっくりして戻ったりしないように、抱き上げた。
上を見上げると、青く深い空……白い雲。
引っ越しには少し暑い日差しではあるが、清々しい日和である。
そんな日に、引っ越して来たのは、黒影の小さくもがっつり儲けている探偵社「夢探偵社」の社員、サダノブ(佐田 博信)と穂(みのる)の若夫婦である。
黒影がちゃっかり建てたタワーマンションに、今日からサダノブは黒影の兄の風柳(異母兄弟なので苗字か違う)と黒影夫婦が住む、事務所兼自宅の風柳邸……とは言え、同敷地内なのだが、其処の居候を止め、穂と社宅代わりのこのマンションに越して来たと言う訳である。
穂の職場のセキュリティ専門店の「たすかーる」は、小さいながらに業界No.1に君臨し、「夢探偵社」ともビジネスパートナー契約をし、このマンションのセキュリティ管理含め、一階テナントに入っている。
「サダノブ!これで通い夫も終わりだなぁ。……荷物を家に置いたら、僕も手伝うよ。」
穂の荷物を乗せたトラックから、手伝いに行ったサダノブが降りて来たので、黒影は先生をあやすように抱いたまま、茶化した。
「相変わらず心配症なんだから。大丈夫ですって。業者さんもいるし。後で引っ越し蕎麦持って行きますよ。」
……などと……あの、サダノブが普通な事を言う。
「サダノブ、お前……そんな律儀だったっけ?」
と、黒影はサダノブから「引っ越し蕎麦」……と、思い乍ら聞いた。
急に大人びた感じに、少し寂しい様な気持ちになる。
「違いますよ〜。俺、饂飩が良いとか、天麩羅付きが良いとか言いましたもん。……何で蕎麦なの?って聞いたら、穂さんが無難にそういうものです!って。何で蕎麦なんすか?」
と、サダノブが答え、聞いく。
「なぁ〜んだ、穂さんかぁ。やっぱり穂さんはしっかりしている。だぁ〜れかさんと違って……なぁ、先生?
蕎麦は、江戸時代に庶民の食べ物として普及。
それまで引っ越しのお祝いは餅か赤飯が定番だったんだ。 でも其れだと値が張った。それで、ちょっとした挨拶に丁寧過ぎなく程良い、安価だった蕎麦で普及したんだよ。」
黒影は結局、何時ものサダノブか。そう思って安堵し、そう言って先生と戯れて、伸ばしたり擽ったりしている。
何時もと変わらない平穏……。
そんな日の夜だった。
黒影は引っ越しを無事に終えたサダノブから貰った蕎麦を、妻で白ロリ(白を貴重にしたロリータファッション)の白雪(しらゆき。黒影と対象的にそう呼ばれている)と、風柳と、サダノブが居なくなった、ちょっぴり寂しくなった夕食を摂っていた。
「やっぱり……何時もいるサダノブが居ないと、少し静かに感じるわね。」
と、白雪はサダノブが座っていた、黒影の前の席を見て言う。
「……そうかぁ?僕は静かで丁度良いけれど。特に今日は事件も無く、平和で何よりだ。ねぇ、風柳さん。」
黒影はそう言うと、風柳に話しを振る。
「……少し静かだとは確かに感じるな。サダノブはほら、大概黒影にちょっかいを出すタイプだったから。近いんだし、また穂さんも呼んで、楽しく食事会でもすれば良いじゃないか。」
と、風柳は黒影に提案する。
「それなら、涼子さん(「たすかーる」の店長)も呼ばないと。」
黒影は如何せ、会いたくても近いのに会いに行くきっかけも無いのだろうと、態とらしく長い睫毛の目を細め、しれっと風柳に向け言うのだ。
「ま、まぁ……それもそうだな。」
風柳は黒影からそう言われると、涼子の姿を想い浮かべたのか、天井の鈴蘭が四つ付いて別れた灯りを見詰め言った。
「今、思い浮かべましたね。」
黒影は蕎麦を啜り言う。
「浮かべたわね。」
白雪もそう言ってしれっと蕎麦を啜り出す。
「何だ、二人共……。」
風柳が全くこの夫婦は……と、言いたくなった時であった。
事務所の電話が鳴った。
「あっ……そうか。」
黒影は何時も事務も兼ねているサダノブが居ない事に気付き、席を立ち、直ぐ隣の事務所に入る。
「はい、夢探偵社です。」
黒影は受話器を取り言った。
「先輩〜っ、大変っすよ〜!」
と、サダノブが行形勢い良く言うのだ。
「あー、もう耳が痛い。何だ、サダノブか。事務所じゃなくて、スマホに掛けてくれないか。」
黒影は受話器を遠ざけて話す。
「何だって事は無いでしょう?だから大変なんですって!」
と、サダノブが言うのだ。
「大変って……。何だ、引っ越し早々水漏れでもしたか?」
如何せサダノブの事だから、また大袈裟に言っているに違いないと、黒影はそう聞く。
「違いますよ。今ね、穂さんと細かい荷物を片付けていたら……出たんですよ!」
サダノブが、「出たんですよ!」を強調して言うものだから、黒影は更に受話器気を遠ざけ、
「声がでかいんだよ、お前はぁ。……夏の怪談じゃあるまいし、化け物でも出た様な……。」
「そう、そう其れっ!」
と、黒影が冗談で言ったのに、サダノブは化け物だと言う。
「其れって……そんなもの出る訳無いじゃないか。其処は事故物件でも何でも無いんだぞ?自分の姿が、硝子に映っただけだよ。馬鹿みたいな変な噂立てるな。地価が下がるじゃないか。」
黒影はそう言って、呆れ返って電話を切ろうとする。
「ちょっと待って、待った――っ!!」
サダノブは、電話を切ろうとした黒影に気付き止めた。
「だ、か、らぁ〜。お断りい〜〜っ!鼾も電話も会話も五月蝿い人なんて無理ですぅ〜。(※毎度お馴染み、昭和の告白番組ごっこ)」
と、受話器を置こうと黒影はしたが、
「俺だけじゃないですって!穂さんも見たんですよっ!」
そうサダノブの声が聞こえて手を止めた。
「……何だと?穂さんもか?……分かった今、行く。」
黒影はサダノブだけでは無く、真っ当な事しか言わない性格の穂さんまでと、聞いた直後に動き出す。
「もう!何で俺だと信用してくんないっすか。早くそうして下さいよっ。」
サダノブは呆れてそう言ったが、途中で既に通話は切られた。
「白雪、風柳さん。ちょっと、サダノブの所を見てきます。」
黒影は椅子に掛けたロングコートをバサりと広げ帽子を被り、言う。
「ああ、分かったが……幾ら何でも化け物退治か?今度は。」
風柳は、大きなサダノブの声と黒影の遣り取りが大体、聴き取れていたので、呆れてそう聞いた。
「えぇ、もしそうなれば、そうでしょうねぇ。……しかし……。」
と、黒影は言って、ぼんやりと上を向き考え答える。
「悪魔でも……呼びますかねぇ。」
黒影は見知った悪魔の事務パートを思い浮かべた。
勿論、それは黒影の世界の話しではない。
「黒影紳士」が読み込める、全ての同著者の別書を「世界」と呼ぶ物の話しの一つである。
何故、黒影紳士が他の別書の「世界」を読み込めるかと言えば……それはもう、説明するも野暮ったい話しであるな。
悪魔は魂や肉体……何かと交換に願いを叶える「悪魔の所業相談所」をしていたが、現在はこの広大な物語を記録し、「大図書館(グレータライブラリ)」の管理を現在はしている。
「……そうね、その手があったわ。行ってらっしゃい。……そっか。……サダノブがいないから、二人共、気を付けて……じゃ、無いのね。気を付けるのかしらん?お化けって。」
と、白雪は「行ってらっしゃい」を言うのに、何時もと違うからか、首を傾げ指で頬をトントンと叩き考えるのだ。
「……あっ……貴方、気を付けて、行ってらっしゃい。」
白雪の考えて出した答えが、其れだった。
「……あっ、あ……。」
黒影は、何だか何時も殆ど「黒影」と呼ばれるので、少し照れて帽子を目深に下げ、耳を赤くする。
「ほらっ、何を新婚さんみたいな事をしているんだ。心配だろうから、早く行ってやりなさい。」
と、風柳が見るに耐えかね、呆れて言った。
「……僕は、その…「黒影」の方が……。」
黒影は吃ってそう言う。
「そう?変な人。……じゃあ、黒影行ってらっしゃい。」
「あっ、うん。行ってきます。」
黒影はそう答えて、まるでその場から逃げ出す様(さま)で、風の様に去って行った。
――――――――――
「本当に……そんなも……。」
黒影はサダノブと穂の新居に上げてもらい、バルコニーに出て止まった。
「黒影さん、いました?」
穂が不安そうに聞く。
「せっ、先輩?」
黒影があんまりに下を見たまま固まっていたので、サダノブも聞く。
「……いたよ、いた!」
と、黒影は長い睫毛を落としたまま言うのだ。
ふわりと揺れる髪に真っ赤な薔薇の花弁が舞う。
「……うわっ、まさか……っ!」
サダノブは黒影に舞った花弁を見詰め、思わず後退りする。
その機嫌そうな顔といったら……まぁ、ご想像下さい。
何とも言えない顔をしたのは黒影も同様で、思わず眉間に皺を寄せた。
その眼差しの先に現れたるは、そう……あの、悪魔である。
黒影に姿は似ているものの、黒いサテンの上質なマントを靡かせながら、黒影を見上げて薔薇の花弁を舞い散らかしている。
「彼奴っ!滝田さん(※小さな神社の神主。マンションと風柳低の間に神社があり、マンションの管理人でもある)が、明日掃除が大変になってしまうよ。……其れに、あんな……ド派手なハロウィンみたいな格好で……っ。良いから早く上がって来いっ!」
黒影は急げと手招きした。
「何だ?」
黒影を目指して、更に悪魔は薔薇の花弁を舞い散らかせ、蝙蝠の様な大きな翼で上がってくるものだから、黒影は参ったと帽子の両端を持ち、軽く頭を横に振るのだ。
「……あのなぁ、夜だからまだ良かったものの、こっちの世界には翼何て無いんだよ。足を使え、足をっ!」
と、黒影は己の足をパンッと、払う様にして言ったのだが、悪魔は首をゆっくり傾げ、黒影を不思議そうに見詰め、
「貴殿にも翼があるでは無いか?」
と、聞くだけだ。
「僕には在るが、普通は無いのですよ。一々、見た人の記憶を消さねばならない。良く覚えておいて下さいね。」
黒影はそう、悪魔に注意をする。……が、悪魔に注意をする人間も中々にいないものだ。
悪魔は其れでも、
「貴殿は本当に面白いな、黒影。」
と、ケトケトと笑うだけである。
黒影は両手を広げ、お手上げのポーズをしてサダノブに聞いた。
「取り敢えず、中に入れて良いか?」
サダノブも穂も頷き、サダノブは招き入れる際に、
「絶対その薔薇、舞い散らかさないで下さいよっ!」
と、片付けたばかりなので言った。
「何だか、人間界は注文が多いな。」
悪魔は溜め息を吐いて言うのだ。
「……文献だけでは知識は得れない。実際に聞いて体感しないと。まぁ、この世界を覚えるには未だ時間は掛かりそうですけど、貴方なら問題無いのでしょうねぇ。」
黒影は昔、この悪魔と対峙した時、悪魔の時間は気絶する程遥か長く、人間の寿命が瞬き程度にもならないと知るが、その感覚までは未だ想像すらつかない。
肉体が滅び行くものでは無い程長いならば、途中で生きる事にも飽きてしまいそうだ。
しかし、そんな感覚さえまだ無いのだ、悪魔には。
滅び老いる事を知るには……恐らく、肉体が若過ぎる。
2 消失
「……で?何で事務所じゃなくてこっちなんですかぁ〜?」
と、サダノブが怪訝そうに悪魔に聞いた。
「それは、此方に引越すと聞いたので、来てみただけだ。」
そう、悪魔は答える。
「えっ……先輩、言ったんですか?」
サダノブが聞くと、黒影は天井を急に見上げて、
「さぁ。」
と、はぐらかす。
まさか、サダノブがこんな少し遠くに引っ越すからと言って、寂しいだとか白雪との距離感が掴めないだとか相談していた事は……読者様と黒影のみが知る事だ。
「来ては行けなかったのか?」
と、悪魔は聞いた。
「否、貴方が薔薇の花弁を登場の度に、舞い散らかすから、せめて事務所でと、そう言う意味です。」
黒影はサダノブが言いたい事を悪魔に、そう言って伝えた。
「然し、此れは演出的な問題だからなぁ。今更設定変更も……。」
何て、悪魔が言い出したので、聞いていた他三名は冷や冷やし乍ら、手をあたふたとさせる。
「駄目っ……駄目です!……夢が無い。イメージ!イマジネーションッ!」
黒影は、何か?……まぁ、何かを止めた。
「そんな事より、何故こんな夜に?」
と、黒影は悪魔に聞く。
「そうだ…勿論、サダノブの新居とやらは何処かと見てみたかったのもあるが、私の所の住んでいる館にドラキュラの棺が9個地下に並んでいた。然し、その内の一つが空いたままで中身が空っぽなのだよ。」
だなんて、さらりと悪魔は言うのだ。
「えっ?あのぉ〜今、ドラキュラって言いました?」
今迄、サダノブが何と闘ってきたか聞いていた穂も、流石に驚きを隠せずにはいられない。
「……そうだ。血を吸う闇の種族だ。その歴史は紀元前…。」
「否、そう言う話ではありません!」
悪魔がドラキュラの歴史云々を語り始めそうになり、黒影は思わず止める。
「――ん?」
悪魔は、何も自分が変な事を言っているなんて、気付きもし無いんだ。
「ドラキュラって、人間の血を吸うんですよねっ?」
穂が心配そうにサダノブを見てから、悪魔に聞いた。
「……ああ、餌みたいな物だからな。私だって魂を食らう。其れに比べたら人間は雑食なのだからタチが悪い。」
と、タチが悪いと言われた人間三人は、ぐうの音も出ず、一種確かにと……納得し掛かってしまう。
「駄目だっ、違うよ。違うっ!弱肉強食どの世にあれど、餌が上位を捕まえるのは聞いた事が無い。……逃げるのが普通なのに、何故そんなものの相談に来るんだっ!悪魔でさえ、見付けられないのに、君が言う人間如きが見付けられる訳がない。」
黒影は、納得等せずに、其れと此れでは話が違うと、きっぱり断ったつもりだ。
「……貴殿は探偵ではあるまいか、黒影。ならば、人……否、ドラキュラ探し等簡単な物であろう?何もやっつけてくれとは言っていない。彼此、五千年前程から預かっている貴重な宝だ。後の公爵が最近は人間界で、とんだ騒ぎになってしまったから、必要ならと頂いたものだよ。夜には実に良く働き、館の管理をしてくれている。私にとっては、使用人ではあるが、仲間同然だ。不可能か?」
だが、悪魔が言うには生活に欠かせない一部らしい。
……不可能……僕の最も怪訝し、覆したくなる言葉。
イマジネーションを止める、諦めの言葉。
そんな物で……僕の無限は止まらない。
だから必要無いのだ。無意味だから。
不可能を可能にする為に、僕は常に考え……己の苦悩さえ、跳ね除けて来た。
……これからも……それだけは譲れない。
――――――――――――
「創世の初まりに」
僕はこんな事を思うのだ。
物語とは出口も入り口も見えぬ
その著者の心を覗く、ほんの出来事から始まるものではないかと。
おや?良いのだよ。恥ずかしがらずとも。
どんな物語にだって、想いが詰め込まれている。
それは物体等では無い。
本が存在しようが、しまいが想いである。
読んで感じた物もまた、等しく物体等では無い。
――人間はその想像力に、支配される。
ナポレオン•レオハルト
かの有名なナポレオンが残した名言であるが、どの想像力に支配されるかが、僕は重要だと思っているんだ。
僕はそうだな……悪戯好きでも大人しかった。おっちょこちょいは天然で済まされてきた。
静かで冷めている……。恐らくそう見える人間だった。
勉強も運動も常にトップクラスだが、明るくは無い。燥ぎ溜まる輩が嫌いな、「一匹狼」……そう、良く言われたものだ。
趣味が似ている友人からも、こんな事を言われた。
「初めは怖い人だと思った。話してみたら逆で優しいから、びっくりした。もう少しは、そういう所も見せれば良いのに。」
――と。
「優しくは無い。――何時もそう言っているじゃないか。如何でも良い事に無関心。あっさり人を捨てる。最低なんだよ。」
僕のこの言葉は、自分を卑下して言っているのでは無い。
己を認めた上で言っている。
「……誰だって、居心地悪いと思えば自然に離れる。はっきり言うか言わないだけ。その居心地悪い理由が直ぐに分かるからでしょう?興味ある事に真っ直ぐで羨ましい。」
そう、友人は確か……冷めた僕を、そんな風に言ってくれた。
「羨ましい?……他人と比べた所で自分は自分の物さ。君には君だけの良い所がある。だから僕は……君のそんな所をかって一緒にいる。」
どんな己でも、知ってくれている。
そんな友人が数人いただけで、怖い僕も……優しい人に紛れて生きている。
今だに僕は分からない。……己が冷酷であるか、優しいのかさえ……。
これから何を話すか、分かりきっている「人間」と言う生き物が嫌いだった。先に言って当てれば、不愉快な顔をする。
話を折るなと叱られる。
……だって、違う答えが……欲しいんだ。
日常会話は……飽きてしまう。
だから違う言葉が欲しい。
何時も、想定外の道に生きていたい。
あの日も……違う事がしてみたかった。
初めて影を書いた日。
空想は十分、僕を満足させてくれた様にも思えたが、もっと……もっとと、何かに枯渇していんだ。
想定内過ぎた日常。職場の会話。家族の会話……。
だから、何か……。
其れ迄、エッセイや詩が多かった。短編の物語しか公開した事も無い。
だから、「黒影紳士」も、そうなる筈だった。
ホームページの背景と影絵……。
月の画像から落ちる沢山の星の画像の何れかを開ければ読める。
其処に綴られただけの、ひっそりと存在したものだった。
クッションページを使わなかったのは、ただでさえ探し辛いからだ。
何度か来た人しかまともに続きが分からない。
興味無いならさようなら〜な、勝手な物語であった。
規約は普通で、来る人にだけ謎謎が難しい時にだけ、掲示板で答えを教える。
其れ迄会話のラリーが長いから、興味薄な人には探すのも面倒。
だが、web小説ランキングでは数は少ないが上にいる。
何の公募も出さず、唯一出してみたが駄目だったのが、横溝正史ミステリ大賞。まぁ、試し書きミステリーだから。そんなものか。
何故、それだけ出してみたかは、現金目当てな訳も無く、副賞である金田一耕助像が欲しかっただけだ。
恐らくは普通のサラリーマンのお父さんよりは稼いでいたから。
休日は友人達とカラオケへ行き叫び散らし、浴びる程赤ワインを血の様に飲み干し、朝になる。
其れでも喉の渇きは癒えなかった。
どんなに、周囲に理解し合える友がいても、金があって遊び暮らしても。
友人の一人は、余る程金持ちの娘だが、タクシーを使わずに車を乗り回しては海へ出掛けた。
「羨ましいなぁ〜◯ー君(当時のハンドル名を崩したもの)は。」
と、酔ってお迎えに来て貰うと、車内でそんな話をした。
「何故だ?……僕より何でも持っているのに……。恋人が出来るまでなら、幾らでも暇つぶしぐらいにはなると言ったが?……また、傷心か?」
僕は何故か良い女なのに振られる、友人に言った。
「何でも在り過ぎかな……。」
と、いつものお戯言。
「じゃあ、誰も見つからなかったら、引き受けてやるよ。」
誰も付き合って無いし、腐る程愛された僕は、そんな事を言った。
どんなに愛されても……虚しかった。
取り巻きに疲れ……片や、愛が足りなくて悩んでいる。
その友人は僕とは恋愛関係にはならない。
其れが何処か、安心していられた。
何も求めない時間……。
この車のいく先は大概分かっている。
ブランド品をぐちゃぐちゃにして、ゴミの様に入れた有り難さも分からなくなる部屋。
広さがあればある程散らかすので、時々片付けてやる。
夜も明けぬ前から車にまた乗り、海へ行く。
僕は真っ暗なコールタールが支配した様な、月明りだけの海を見詰めた。
遣る瀬無い生き方に、唯一輝いて見えたのは……そんな真っ暗な夜がくれた、月明りにチラチラと光る……深い静寂の中に在った漣であった。
穏やかなる時……。夜明けも恐れず、其処に静かに揺れるだけの小さな感情。
きっと……如何でも良い毎日を、少しずつ変えたのは……。
僕はその闇を美しいと呼び、君と夜明けの光に感謝し、青い海へ消えていくからだ。
遠くから僕は海にも入らず、真っ黒なロングコートを潮風にバサバサと揺らし……。
遠くで波乗りする君を時々見乍ら、空を眺めていた。
カモメばかりの海の上……。一匹の烏が通過する。
カモメは大きく旋回し、烏を避けた。
……やはり、僕は闇が好きだ。
闇と言う言葉は、今や悲しいものばかり。
けれど、僕にはそう見えなかった。闇は……心、鎮ませる、眠りの様に静かなる者。
その静寂は寂しいと言うが、静寂が包む事を忘れるからだ。
包まれているんだ……静寂にさえも。
……そう思えたなら、どんなに孤独で苦しい夜にも勝利する。
たったそれだけで、こんなに変わる。
其れこそ、イマジネーションだ。
支配するのは……己だ。
どれで支配するかを決めるか……其れを確実に選ぶのも己だと言う事を、忘れてはならない。
――――――――――――――――――――
「……可能だ。僕の辞書に無い訳では無いが、反対語を言うのすら、嫌ですから。」
黒影はそう言った。
「ならば、引き受けて貰えるか?」
悪魔が、ホッとして言った直後、
「――だから、ちょっと待った――っ!今度こそ本当の待ったですよっ!大体、ウチ(夢探偵社)は、対能力者が専門で、人探しやら浮気案件なんか普段、そんなに大事じゃなきゃやらないじゃないですか。」
と、サダノブは「不可能」と言う禁句に黒影が反応してしまっただけだと気付き、慌てて止める。
「お、こ、と、わ、りぃ――!に、決まっているじゃないか。良いか、幾ら悪魔とはいえ、平穏な日常に支障をきたす事件だ。尚且つ、僕がっ……この僕が、あ、の、言葉を浴びさせられるなど、お前社員として社長が無能だと言われているのだと同じなんだぞ!そんな喧嘩売られて黙っている程、僕だって温厚紳士では要られないよっ!」
白熱する黒影は、普段は手袋など嵌めてなどいないが、コートの内ポケットから白い手袋をサッと出した。
此れは紳士特有の文化ではあるが、決闘を申し出る、受けたの時にこの手袋を叩きつける、そんな習慣がある。
騎士団等でも、見られる。
「だぁーかぁーらっ!沸点がおかしいんですって。大袈裟なんですよ。何で例の一言から、其処まで発展するかなぁ。俺、悪魔と決闘なんて、絶対嫌ですよ。召喚使うは、肉体戦は一瞬で死に掛けたわ、散々だったじゃありませんか!無用に闘わないって、何時も先輩が言っているじゃないまですか。」
と、サダノブは呆れて黒影に言うのだ。
「愚弄されたのだぞっ!」
頭に血の昇った黒影は、今直ぐにでも鳳凰の力を使いそうな勢いである。
「愚弄などしていない。……私は単に、出来るか出来ないか聞いただけだ。……全く紳士と言う生き物は、いつの世も堅物だ。」
悪魔は其れが何かとでも、擽ったいものでも見ている様に言うのだ。
「こっ、この僕を……出来るか、出来ないを試すならば、悪魔は出来て当然だろ!それを出来もしないのに、良く言うよっ!」
黒影はとうとう、床に手袋を叩き付け言い放つ。
「まぁ、そう怒るな…黒影。因みに私は紳士風情の格好で手袋もしているが、悪魔以外の何者でも無い。だから、紳士同志のこの決闘を受ける訳にもいかぬ。紳士に無くてはならない大切をものだ。丁重にお返ししよう。」
悪魔はそう言うと、黒影が叩き付けた手袋を拾い、黒影の手を取り、整えそっと返した。
「……無礼を詫びるよ。日々使用人と話す事が多い。特に紳士は今は少ない。……話し方を間違えていた様だ。では、探偵黒影……貴殿を信じ、私の大事な使用人兼仲間を取り戻して頂きたい。」
悪魔は手を後ろに掲げ、髑髏の手持ちが付いたステッキを具現化し、それを組む様に持ち、落ち着いて黒影の答えを待った。
黒影も同様に鳳凰が持ち手の杖を持ち、反対側のソファへ座り、両手を乗せ時折り未だ不愉快そうに、床をコツ……コツ……と軽く自然に下ろす。
「先輩、本気です?!……然も、新居をその杖で苛々募って床をボロボロにしないで下さいよ。全く紳士って生き物はっ!礼儀が成っているのだか、成っていないのだか〜!」
と、サダノブは額に手を当て嘆くのであったを
「礼儀では無い。其れも必要だが。礼節だ。……まぁ、気に食わぬのなら、後で床を張り替えれば無い。何ら、問題無い。」
黒影は何を一々と、そう言うだけだった。
次の↓[「黒影紳士」season6-3第二章へ↓
(お急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)
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