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黒影紳士 ZERO 02:00 〜閃光の樹氷〜第五章 小瓶
ラストスパートだ。さぁ、手を取って…駆け抜けるぞ‼️🎩🌹
第五章 小瓶
サダノブは黒影が大事に預けた、解毒剤を一口口にした。
……ただ護る為に待つ……
先輩……俺、そんな大人しくなれないですよ。
怪我するなって言われても、此処で黙って待っていたら俺は俺の事を嫌いになりそうだ。
折角大嫌いだった自分に、先輩が沢山良い所を見付けてくれたのに……。
そうだよ。俺には似合わない。護るとか、そんな格好良い事は。
馬鹿だから……分かんなくて良いんだ。
ただ一つ……覚えていられれば。
俺は先輩に恩返しがしたかった。
生きる意味も分からなくて、本当に野良犬みたいだった俺を拾ってくれた。
忘れ掛けていた家族みたいな温かいもんも、笑顔も。
単純に……其れで良かったんだ。
先輩の良く言うシンプル且つスマートが一番ってやつだ。
そんな俺を愛してくれた穂さんだから、きっと此れで怪我しても、許してくれるって……今はそう信じよう。
勝手過ぎる……馬鹿な犬だ。
「誰に毒振り撒いてやがる。隠れていないでさっさと出てこい!」
サダノブの身体から強烈な殺気を纏う、凍て付く冷気が流れ出ている。
「……サダ……」
黒影は、サダノブの足首を必死で掴んだ。
……接近戦はあれだけ不利だと言ったのにっ!
きっと自分が倒れた所為でサダノブは、所謂「ぷっつん」きたのでは無いかと、正気には思えず黒影が止めに入ったのも無理は無い。
「自分を守れたら……護っても良いんですよね?」
サダノブは一点の窓を見詰め、中央鳳凰陣で黒影を護る様に立ちはだかっている。
「……落ち着け!」
そうは言ったが、黒影の声も耳に入らないのか、殺気を落とさずまるで見えぬ敵を威嚇している様だ。
窓の向こうから此方へ向かって来る男が一人……。
ふらりふらりとした歩みで、トレンチコートのポケットに、気怠るそうに指を掛けて、余裕すら感じる。
能力じゃ無くても、普通の人間でも仕込む事が出来る「毒」……。
たかが毒……されど……毒。
高速で致死量並みを飛ばしてくると言うだけで、こんなにも厄介になるとは……。
黒影は毒を分散した事で、少しずつ意識が戻って来たのを体感していた。
強い目眩や頭痛、痺れが徐々に緩和されていく。
呂律も余り回らずで、短い言葉を言うので、精一杯だった。
指を小さく動かし、痺れの具合を確認していたと言うのに、時間稼ぎどころでは無い選択をサダノブがしたのだから、思わず硬直し固唾を呑んだ。
時が止まったかの様に見える程緊迫した空気に、呑み込まれてしまいそうになる。
「……落ち着いていますよ。先輩こそ、落ち着いて休んでいて下さい」
と、サダノブは向かって来る行平 志信を凝視していた。
きっと一瞬だ。
一瞬で……決まる。
サダノブは思考を読み乍ら、行平 志信の動きを神経を研ぎ澄まし観て感じ取ろうとしている。
ほんの少し、行平 志信の足取りが乱れた瞬間だった。
「……こっちも射程距離だ!うぉりぁああーーー!!」
黒影は其の瞬間何が起きたか、目撃した時、思わず口を半開きにし、開いた口も塞がらないとはまさにこの状態である。
サダノブが、赤い鳳凰を投げ、何と下の青い鳳凰陣と繋ぎ、延長させて、行平 志信に向かって真っ直ぐに巨大な逆さ氷柱を連結させたのだ。
攻撃は、連結された鳳凰陣により、倍の飛距離まで届き、行平 志信の身体を下から押し上げ、宙に弧を描き吹き飛ばすではないか。
「……嘘……だろ?……僕はボーリングでも見ているのか?」
黒影は呆気に取られたまま、目を見開き言った。
「此れが……野生の勘っすよ」
と、サダノブは犬歯を見せ、無邪気にニタりと笑った。
其れは黒影はちょっとした悪巧みを思い付いた時の笑みにも似ているが、黒影は其れがサダノブにとっての勝利を確信した時の笑みだと知ったのはこの後の出来事があったからだ。
行平 志信の身体が地面に付く前にサダノブは連結されたままの鳳凰陣に手を付き、
「外円陣……樹氷監縛(じゅひょうかんばく)……解陣!」
と、鳳凰付きの狛犬だけが、鳳凰を護る為だけに使える秘経の略経を唱える。
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樹氷の様に鳳凰陣に連なった氷の柱が、黒影の作った外側の円陣を隙間無く覆い尽くしたのだ。
これがまた、連結されているので、蒼と赤の円陣が重なっていなくとも、其々に二つ同時出現したのだから、あの黒影ですら驚いて何も言葉も出ない。
たった一つの攻撃と守備だけで、樹氷監縛の中に黒影等と、行平 志信を分けて閉じ込めたのだ。
樹氷監縛の氷は分厚い。
毒の吹き矢如きが貫通する筈も無かった。
乱反射する氷はその分厚さに青白く、透明度が無いので狙いも定まらない。
「……はい、先輩。お待ちかねの、サーダーイーツで〜す♪」
と、サダノブは犯人が出られない事を確認する間を置き、ライダーズジャケットの懐に入れていた、霊水入りのペットボトルを取り出し黒影に見せ笑った。
黒影も其れを見て、助かったと思い笑顔を見せたが、未だ如何にも身体が言う事を聞かない……。
腕が僅かに動くも片手ではペットボトルのキャプすら開けられないと気付くと、黒影は動く片手で帽子の鍔先を摘み下ろし、顔を隠してしまった。
「……あんれ〜?未だ飲めないんですかぁ〜?」
と、サダノブが黒影を揶揄い言う。
「五月蝿いっ!向こうにいけっ!」
……と、口だけは達者なままの黒影である。
「……あのぉ〜。もう、2巻なんですよ。……良い加減、助けてって、素直に言える大人になりましょーか」
サダノブは呆れて言ったが、その言葉は無く……沈黙が流れるだけだ。
「……意地っ張り!」
「五月蝿いっ!」
「我儘!」
「五月蝿いな!」
なんて、何時もの調子の口喧嘩だが、サダノブには黒影が其の言葉を使いたがらない理由が、十分過ぎる程分かっていた。
……護られるより、守りたい……。
……探偵だから。鳳凰だから。父親になったから。
「はーい、如何ぞ……」
サダノブは仕方なく黒影に霊水を飲ませてやるのだが……
「熱苦しいっ!向こういけよっ!そう言う話に見えるだろうがっ!」
と、キレる寸前だったのは、読者様と此処だけの話。
勿論……霊水を飲んで回復した後、黒影に散々嫌味を言われ、回し蹴りをサダノブが顔面に喰らったなんて……そんな酷いお話し………………
黒影紳士だから有りかもしれません。
真実は信頼の中に、こっそり宝物の様に隠れているのだとか……。
――――――
「……風柳さん」
黒影が呼んだ。
「ん?……何だ、黒影」
風柳と黒影、白雪やサダノブ夫妻に、涼子……キャスト揃って風柳邸とマンションの間の、鳳凰を祀る古い小さな神社の境内にいる。
日本酒を片手に飲める口の面々は、秋梅でちゃっかり一杯としけ込んでいるのだ。
「佐田(明仁)さん……見付かりましたか?」
黒影はクイッとお猪口を傾け聞いた。
「いや……やはり難しいな。二人の能力が揃えば向かう所敵無しみたいなものだ」
風柳が深刻そうに眉間に皺を寄せて答えたが、ハッと顔色を変える。
「やっぱり酒の席では、口が滑るものですね。他の仕事をそっち退けで、署長……嘆いていましたよ。僕はサダノブと約束したんです。鸞とも……。僕が見付けると」
そう言うと、黒影は笑い風柳の空になったお猪口に酒を酌んだ。
風柳は渋い顔をしたが、そう言われたら仕方ないと、肩を落とし酒を飲む。
「偶には役に立ちたかった。余計な兄貴だな」
そう、素直に言って。
「良いえ……昔から、優しくて強い良い……ふふっ……「お兄ちゃん」ですからねぇ」
と、黒影は態と風柳が照れて喜ぶ呼び方に変えた。
黒影からの細やかな「お疲れ様」であった。
「黒影ーっ!風柳さぁーんっ!丁度良いみたい。ちょっと見てくれないか知らん?」
と、白雪が二人に声を掛ける。
白雪の後ろで、何かパチパチと小さな音がする。
「じゃあ俺が……」
「良いですよ。僕が行きますから」
呼ばれて立ちあがろうとする風柳を手を見せ制止し、黒影は長い枝を引き摺り白雪の方へ向かう。
「嗚呼……良い塩梅じゃないか」
黒影はアルミホイルを一つ、枝で掘り出し開くと言った。
実は……そう、皆んなで焼き芋をしているのだ。
「風柳さぁ〜ん!良く焼けますよ〜!」
と、黒影が言うではないか。
「あれ?違うだろう?……また誤字かぁ?……「良く焼けていますよ〜!」だよなぁ?」
と、風柳は普段着が和装なので、袂を払い振り返ると、黒影に確認する。
「へへ……。合ってますよぉ〜?ほらねっ」
と、黒影は子供の様に無邪気な笑みで、風柳によーく見える様、辞表をチラつかせ、クシャッと雑巾の様に絞ると、焼き芋の葉っぱの中に枝で突いて入れてしまった。
「あっ、あー!」
風柳が立ち上がるも、時既に遅し。
最後のマジックの種の行く先は……今はもう誰も断言などは出来ない。
然し、黒影には冬晴れの澄み切った空に見えていた。
どうしようもなく……不出来な子程、可愛いと人が云ふ。
其の意味が……分からなくもなかった。
不出来であるから、違う新しい物ならば合うのではないかと、用意だけはしてやりたくなるものだ。
暫く他から種を買わずにいた被害者を、良くも悪くも動かしたのは、そんな親心には違いない。
何時の日も……さして変わらぬ伝わらぬ運命(さだめ)
其れでいて……其れで良いのだ。時、来る日まで。
成長を待つは、遥か空に散った者だけが願える、楽しみだからである。
被害者の遺言により、不出来な子は、只今……大量の白い鳩の飼育に悪戦苦闘しているとの便りが来た。
黒影は「生活に困ったら、其の鳩でも他のマジシャンに売れば良い」などと言ったが、そうしない事を知っている。
夢を見る為に、嘸かし猛特訓して、大量の鳩の世話も出来る程のマジシャンに成るに違いない。
時々其の鳩小山に、心配症の漆黒の影が現れたか否かは、ご想像にお任せしましょう。
声も無き
見えもせず
其れでもいるぞと辞表と鶯(うぐいす)
冬晴れの寒空の下 泣き笑い
暖は天に舞い消え 謎となる
追い掛けるも
追われるも
同じ様相
ただ高く高く舞い上がる
鳳凰に似た
火の粉哉
そろそろ巣作る鶯(うぐいす)は
密かに冬空を右往左往
灰と上空を素通りしては
嘲笑うのだ
季節外れの
ほー法華経
聞こえた気がした秋梅につられ
其れでは辞表が舞い消えましたところ
お後が宜しい様で……。
またお会い致しましょう。
――――――
『黒影紳士 ZERO 02:00』〜閃光の樹氷〜は一先ずおわり。
黒影紳士は不定期更新シリーズです。
未だ未だ頑張っちゃうから、応援して下さい。
それでは……お約束の……
また月🌕が巡ります頃……お会い致しましょう🎩🌹
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