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創作大賞対象非対象かも知れん話し by黒影紳士 subtitle「見えない現実」五頁正しいtitle画です。下一行にご注目。
「やはりそうでしたか。
此の手の揉め事は誰が作曲しただの、付き合ってるだのと言う怨恨関係ですからね。
風柳さんから事情聴取の報告が来ない時点で、密かに付き合っているか、作曲又は作詞の二択になります。
そして、今来た其の悲愴な美女。
彼女を見るなり皆さんが道を開けた。
……と、なると堂々とお付き合いはされている間柄の様だ。
僕を殺すのは容易くても彼女は如何でしょうね、立川 雛さん?」
黒影は此れから起きる修羅場でも見て楽しんでいるかの様に、立川 雛には関係無いと両手を挙げ、道化の様に笑った。
杜若 彰伸(かきつばた あきのぶ)の変わり果てた姿に、獅み付き周りも気にもせず泣きじゃくる。
其れを見て心苦しく感じた黒影は帽子を手に、己の真下に落とす。
眼下に広がるは、鳳凰は悠然と翼を開く姿。
黒影の影だけが擦り抜けると帽子を取り、彼女のいるステージへと伸びて行く。
更には其の影は彼女の肩に辿り着くと、帽子の鍔で二回程軽く叩くではないか。
彼女が振り向いた瞬間に、其の影は跡形も無く一瞬で黒影の手に戻ったのだ。
「彼……被害者になられた杜若 彰伸さん……貴方に如何しても伝えたかった事があるのです。
其れは杜若 彰伸さんが今日……演奏してくれないかと、立川 雛さんに頼んだ曲にありますよね?
作曲と言えば主にギターでするものですね。
宛ら杜若 彰伸(かきつばた あきのぶ)が急に不在になったから、今のギターの安東 時尚(あんどう ときひさ)さんに変わった。
ところが今日に限って杜若 彰伸さんが立川 雛さんにこんな事を言った筈だ。
ある曲を弾きたいから変更してくれと。
実に身勝手だ。辞めておいて。
そう立川 雛さんも思った筈だ。
……もしも彼がポケットに入れていた紙を見ていなければそう思っても仕方ない。
……酷な話だが、杜若 彰伸さんの余命は幾許かしかなかった。
言えなかったんです……彼はもう……。
後数日さえ生きていれば伝えられた事も、彼は……伝えられない屍人となった。
僕は、此れは事故による死で、貴方の心に未だ慈悲があったのだと先程言いました。
外部犯にしようと思えば出来たのだと。
僕を殺しても、此処にいる全員を焼き殺さなくては貴方は逃亡出来ない。
一人……償い切れないものを作ってしまったからかも知れない。
けれど彼女に杜若 彰伸さんからの最後のメッセージを伝えられるのも貴方だけだ。
立川 雛さん……」
黒影は罪を重ねない様に、自首を勧め様としていた。
「一人も此処にいる全員も変わらないじゃないか!弱いから……弱いから悪いんだ!」
立川 雛は引いて行く周りの人々を見て、そう怯えた様に言い放ち翼を広げて向かって来る。
「言いわけが無いじゃないかっ!そんな戯言で二千文字突破して良いと思うなっ!」
黒影は先程とは打って変わり大声で返した。
「先輩、今?今、数に文字数に拘ります?自首させるんじゃ……」
サダノブも急な展開し焦りを感じている。
「劣勢、八方塞がりをも切り開き、十方位にて制す!
力は強者の為に不在(あらず)弱者の為に使わぬ者を強者と呼ばない!
炎柱(えんちゅう※炎の柱を上げる)……鳳凰陣(一番内枠)……解陣(陣を解放させる事)……!」
燃え盛る本物の炎が、三段階の幻の炎の円陣だった十方位鳳凰斬の鳳凰を象る中心から、一気に滝の様に立ち昇る。
「向かった時点で間に合っていない!相手が翼を持っているのを忘れるなっ!」
黒影はサダノブに何故か答えた。
そうだ。立ち向かってくる訳が無い。
被害者の彼女が現れた時点で、申し訳ないと思っていたならば。
サダノブからは似た様な翼に見えた。
確かにそう黒影に言われてから改めてみると、立川 雛の翼は目に焼き付く痛みすら感じる。
対して黒影の翼は太陽の様に柔らかな光を放っていた。
(サダノブ)「先輩……此の為に……」
(黒影)「ああ……此の為だ……」
力を消耗するのに、早々と十方位鳳連斬を出した理由が、其の時分かるのだ。
其れは杜若 彰伸の伝わらなかった想いを嘆く雨の様に……
強く、其の力は鳳凰の炎さえ弱らせる涙。
真っ白な霧と共に、一気にスプリンクラーに張り付いていた氷が、時間経過と黒影の立ち昇らせた炎柱で溶け、作動したのだ。
黒影の炎は守護のサダノブと四神獣には通用しない。
だからこそ、鳳凰陣の中に態々呼び、局所的な炎で周囲を巻き込まない様にしていたのだ。
「行けるか?」
黒影は帽子を軽く下げると、真っ赤な瞳でサダノブを流し見た。
「如何せ、無理って言っても突き飛ばすでしょう!」
と、サダノブは腕捲りをする。
……炎から繋がれた見えなき灯火のバトン……何とか、俺がっ!
降り注ぐ水は、客席のコンクリートの床に水浸しとなり、大きな水溜りを作っていた。
真っ赤に映る犯人の姿に、黒影の漆黒のロングコートが線上に靡く。
其の隙間を一筋の光が走る。
此処で食い止めなければ、「片翼の天使」の両の翼がある者の強さなど計り知れない。
其の光は次の瞬間、水溜りの中に透明な大きな逆さ氷柱であったと分かる。
サダノブが、渾身の力で鳳凰陣に氷の力を流し込み、出来た局所的な攻撃だ。
サダノブは拳を鳳凰陣から引き上げ、如何なったのかと静かに上を見上げ様とした。
けれど……見えない。
とても……天井を見上げられない。
目の前で犯人の立川 雛はふっと笑って言った。
「あら……通りで遅いと思って見たら、犬じゃない」
と。
其の儘微動だにしないサダノブの横を掠める様に通って行くだけ。
一瞬で、能力すら分かってしまうなんて。
頬を一筋の汗が落ちた。
恐ろしくても……進まなくちゃ。
先輩と風柳さんの口癖。
泣いては……先が見えない……。
サダノブが作った氷から真っ赤な液体が何本もの筋となり伝う。
後ろには風柳がいた。
だから……守りたい人が自分の所為で傷付いたら、泣いている暇もないんだ。
殺された被害者は、もっと……泣いている暇など二度と戻っては来ない。
先輩が望んだから今は泣かない。
何時も言われていた。
いざという時に注意力を欠いて、洞察力と観察力を失うと。
言いたい事も分からなかった。
だけど……やらなきゃいけない事ぐらい分かる。
……そうだ。
上が向けないならば……下を見れば良い。
水溜りは先程のサダノブの攻撃で、鏡の様な光沢ある氷と成っている。
犯人は都合良くもサダノブを見逃したのだ。
サダノブは鏡になった床の氷で、咄嗟に状況判断する。
風柳へ犯人は向かっている。
黒影の翼も同胞の物では無いと直ぐに気付いていた。
風柳ならば、黒影がたった一撃でやられたと知っても、元から力の違いに気付いていただろう。
状況が苛酷な程、冷静に成る人物でもある。
黒影無しでは勝機が無いと、サダノブにでも理解出来る。
此の鮮血が黒影の物だと確信した時、取るべき行動は……?
サダノブは床の氷越しに、一瞬……顔も動かさず、風柳を一瞥した。
風柳からは黒影の姿が見えたのか、目が合うと何故か瞳だけを一回上に上げ横に流して戻す。
……成程、俺が邪魔なのか……。
サダノブは理解出来た直後に叫んだ。
「全員、此の円陣から此の儘もっと離れて下さい!」
両腕を広げ、サダノブは自らバリケードの様に人を押す様に端に確認する。
其の足の間を何か白い物が見えた気がしたが、無視する。
そう、風柳に白虎に代わり、サダノブの足の間を氷で滑って行ったのだ。
※臨場感のある戦闘シーンを音楽と共に楽しみたい方はお好きな音量で、以下の荘厳なるフリーBGM音楽素材が風柳さん風だったので、聴きながらお読み下さい↓
※心で音読するぐらいのスピードだとバトル終了迄程良いです。音量はご自身で調整して下さい。
🎧準備は良いかい❓よぉ〜い、START🚩
守護の攻撃は当たらない筈の、天井に氷で先に飛ばされ挟まれた黒影を食わえ、白虎は黒影をサダノブの横に置き吠えた。
「すみません、風柳さん」
そんな事を言っている間にも犯人は此方へと余裕にも歩んで来る。
黒影は天井と氷の間に挟まれていた腹を抱え、疼くまり唸っている。
黒影が床の冷たさが頬を伝い目覚めサダノブを見上げた時だった。
「すみません!先輩が冒頭から仏さんに罰当たりな事をするからですよっ!」
と、三千文字にして此の長い「黒影紳士」の歴史上初!の、一撃。
サダノブが事もあろうか、弱っている黒影に盛大な一蹴りを加えるではないか!?(読者様、サダノブにブーイングするならば今のうちだよBy著者)
「何するんだよっ!」
勿論、黒影は後から飛んで来た帽子(注意:その他大勢の内の一人が空気を読んで飛ばした事にしておこう)を掴み、そう激怒する。
「良いから解陣して下さい!」
其の一言に黒影は咄嗟に(とろいサダノブとは違うので)床の氷を見て状況判断する。
「十方位鳳連斬……全炎柱……解陣!」
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己の顔が氷に倒れようが怖くは無かった。
此の真っ暗な姿さえも乱反射させ輝かせるだろう。
僕の知っている……温かな氷は。
唐突に何かのトラブルが襲ったとしても、動じずにいられるか如何かは、誰かを信じれられるか、否かなのだと……。
何故……一度は同じ旋律の上で、同じ道を目指してもこんなにもすれ違ったのか。
何故、今日殺され、今日事故死し、今日病死する者は違い、僕は生きているのか。
其の偶然の先に事件があるならば、僕等はなんて無意味な物を追っていたのかと思ってしまう。
せめて……僕はこう問う人間でありたい。
何故、今日生きたかったのに出来なくて……
何故、其れを”運命”などと言うのか。
今……此の思いが、伝わらない様に……
此の感情全てを伝えられなくなる事を死と呼ぶ。
全てが夏の幻の様に、僕の炎の中で音も無く繰り広げられていく。
此のライブハウスと言う空間で。
全ての十方位鳳連斬から天井へ向けて放たれた真っ赤な光。
鼓動の流れと刻まれたのは……
緊張感が齎す己が描いた心臓の中に飛び交う眩しい程の乱反射する光。
白銀に浮かぶ月を蹴っては重低音の波紋の様に獲物を追って掛ける複数の牙向く獅子。
ずっと守っていた……そう思っていた。
僕は攻撃も出来やしない。
何時も誰かの力を借りて、此の真っ赤な陣に連ならせるだけ。
其の配列こそは僕次第でも、結局は何処かで思っていたのだと思う。
僕は誰かの力を借りなくては、一人では戦えもしない。
守るだけで、僕は結局信じるられる物は影しかない。
其れでも信じようとする自分は、虚しくて嫌いになりそうな時もある。
四千文字……音は……解放される。
高温の氷と交差唸る虎の産み出す音に僕は手を伸ばした。
無音の中に真っ黒な闇夜を……
無念眠る漆黒の安寧。
影に追い詰められ、中央の鳳凰陣から出られなくなった犯人を包み込む。
サダノブは外円陣から氷の塊を砕いた氷の矢で中央に向け、其れを放っていた。
風柳は白虎の月の陣を蹴っては、犯人を追い内側へと嚙み付いていたのが黒影からは見えていた。
誰かが欠けたら、きっとこうはいかなかっただろう。
きっと、犯人の立川 雛でさえ……被害者でさえも、たった一枚の紙切れが見れたのならば……見せる事が出来たのならば、”彼ら”の言うほんの些細な小競り合いで殺す事も無かっただろう。
黒影には立ち上がる力が無くとも分かる事がある。
……被害者の死因……脳動脈瘤破裂。
ーーーーー
「先輩?」
サダノブが手を差し伸べる。
何時だったか黒影が何度も救った手だ。
「なんとな~く、癪に障るんだよ!」
と、黒影は手を取ったかと思うと、グイっと片手で引っ張り上げて足を掛けて転がせた。
「痛~~~っ!何するんですかっ!」
サダノブの其の言葉を聞いて満足気に黒影は見下ろしてこう言った。
「此れで形勢逆転だ。さっきのお返しだ。……チェックメイト」
と。
そして黒影は其れでも黒影の帽子を離さずに持っているサダノブを見て微笑んだ。
「悪かったな……。此れでお相子だ」
そう付け加えサダノブを起こしてやった。
風柳から見れば何方も差して変わりは無い様に見える二人だ。
片方は真っ黒な影の様な奴と、もう片方は真っ白な柴犬にも似た様な奴。
然し、其れは黒影とサダノブの話では無のだ。
目の前の二人と、rugianの加害者と被害者の二人である。
何故同じ様につるんでも、片や殺し合いに発展し、片や此処まで平和なのかとも思える。
「黒影……ところで”見えない現実”とは何だったんだ?」
黒影はその問いにはこう答えた。
「始めに此のライブハウスに来た時から始まっています。本当の敵は見えていない。書かれていないのです。犯人が炎のどんな攻撃を仕掛けて来たのか」
と、黒影は言うのだ。
「ああ、確かに。俺なんか滅茶苦茶闘ったんですけど、損した気がします」
とサダノブまで言う始末である。
「音……なのだよ。効果音も使わずに、想像させる。其れにはもう一つの意味がある。
何故音が無かったのかは、僕が倒れていたからでは無い。皆に聞こえていなかった。
理由は被害者の杜若 彰伸が音を連れ去ったんだ。死んだ時に、己の伝えたかった曲の音階を盗み、コードにして彼女に届ける為に……。
ほら……僕にはあれがずっと幸せか如何かは分からないが、彼女………ギターパートのステージポジションを見て泣いている。
奪われたのは犯人の立川 雛だった。恐らくもう歌えないカナリアになっただろうさ」
そう、黒影は言うのだ。
ーー「イマジネーションは推論を立てるのに大切な能力なのだ」黒影紳士ーー
ーーーー
聴こえてくる其の旋律を「見えない現実」と言うらしい
あのライブハウスで其れが聴こえた時
声を失うのだと
都市伝説の闇へと消えて行った
けれど黒影だけが知っているのだ。
其の曲は美しく穏やかで、歌詞は純粋なラブソングだったらしい。
「見えない現実」
本当のタイトルは「忘れ得ぬ君へ」ーーー
出逢った街は 華やかな様相
風が吹き抜けるビル群
下に群がる人々とShow Windowを見て
流れるだけ
こんな流れで誰もが自分さえ見失う
そう思えた頃出逢ったあの日
僕は初めてShow Windowを
止まって見ていた
君が映る景色を閉じ込めている
絵画を眺めた
あれから幾つもの月日が 僕らを変え
幾つもの困難が 僕らを成長させ
其れでも変わらない
其れでも色褪せない
あの日見た絵画を見詰める
何時か離れる時が訪れ
何時か孤独に苛まれ
何時かと言う日に怯えても
大丈夫さ
出逢った頃より
揺るぎない今がある
忘れない出逢いがある
忘れない日々がある
だから…忘れる訳がない
君が世界一周の旅で遭難しても
君が子供に夢中で僕を見なくなっても
忘れない出逢いがある
忘れない家族がいる
だから…今も胸に刻んで行く
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ーーー「黒影紳士」ー見えない現実ーーこの番外編は終わり。
黒影紳士は……ふふっ…さぁねぇ🎩🌹
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