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黒影紳士 ZERO 01:00 〜双炎の陣〜第六章 赤薔薇

※毎度お馴染みの挿し絵含む、約一万文字となります。

お読みになった後のスキが忘れる方が続出した為、宜しければ先にスキ🖤推し活していただけると、著者のやる気が、ぐぅ〜ん!と上がります。
宜しくお願い致します🎩🌹^ ^


6章 赤薔薇

「主は未だ何も知らないのですか?……貴方自身が持つべくして持った時空修正の力……。我々は時の番人、Der Rosen kavalier(ローゼン カバリエ)で御座いますが……」
 と、嗄れ声の騎士が答えた。
 如何やら御年配の騎士らしく、帽子とコートの襟の隙間から、白髪が見えた。
「時空修正……。何も聞いてはいませんが、オペラなら。「赤薔薇の騎士」と言う意味でしたね。
僕の力と言うか……赤薔薇は「黒影紳士の書」其の物を意味する。
詰まり、「黒影紳士の書」にあるプログラムでは僕は主人公では無く、時空修正が役割りと言う事ですか」
 黒影は少し考え答える。
「まぁ、素敵なお声ですこと」
「然も、流石……状況の呑み込みも早くていらっしゃる」
 貴婦人が間に入り、また話し始めている。
 こうも一々言われては、黒影も喋り辛くなり耳を赤くして、帽子の手前を下げ目を隠してしまう。
「話が全く進まない様ですね!
十二人全員と面接をしている訳では無いのです。
大体、背を向けたまま話すなど、無礼ではないか。時計に関係し十二人である事ぐらいは私しにも分かる。
我々が聞きたいのは、結局のところ「何が出来るのか」と、言う事だ。
ただの喧しい団体様ではあるまい!」
 勲が黒影の代わりに、片足を崩し呆れていると態度に出し言った。
「ん?!待て……今のは……」
 十二人を恐らく束ねる者が、各々好き勝手に騒めき立っていたのを、其の一言で止める。
「今、話した奴か……話が出来るのは」
 勲が聞くと、
「主が二人だとは聞いておりませんが。何かプログラムにエラーでも生じているのでしょうか……」
 と、其の騎士は言った。
「質問に質問で返されるのは余り好きではないが……。プログラムには既に確認されている。
私しは黒影の影として違う道を歩む者だ。
黒影の「原点」に相違無し。
皆には下の名で「勲」と呼ばれている。
「黒影」の方は現行の「黒影紳士」の時を動かしている。
其の騎士風情が罷りものでは無いのならば、名ぐらいはあるのだろう?」
 勲はこの時、己の事を「黒影の影」と言葉にした。

 分かっている……頭では理解はしている。
 其れでも、言葉に出してしまえば、己が「ただの影でしか無い」存在だと、認めてしまった様で胸に傷みを感じるのだ。

 己の「存在理由」を……当ても無く彷徨い探した。そんな日々が思い出された。

「……失礼しました。私の名はZERO。
十二時を守護するからZEROと申します。
我々を振り向かせたくば、ご命令なされば良いだけの事。
我々が背を向けているのは各々の守護する時を見張っている為です。
……時空とは、人の心の感覚で跡形も無く消える物。
懐中時計を見なければ……若しくは時に縛られたく無いと思えば……見なければ忘れる事も出来ます。二人の主がいるのは心得ました。
されど、今話しかけられた「勲様」には、知るべき事が未だ在る様です」
 と、ZEROは言うのだ。
「黒影では無く、私しにか?」
 勲は何の事かと聞く。
「揺らぐ時に覚えております。
黒影様より遥か昔。
懐かしい……最初のZEROの華々しい幕開け……。
主人公は確かにおりました。
其の者……まるで影の様に漆黒の闇を纏い、まるで時代すら擦り抜ける様に生きていると言う。
「黒影紳士の書」がデータごと失われる危機に耐え、「黒影紳士の書」を持ち去り消えた。
我々には主の心が伝わります。
其の消えた「影」の名を「黒影紳士」と呼びました。
逆なのですよ。
余りにも長い時に、誰もが忘れ去ったとしても、此の「始まり」であるZEROは決して忘れる事は御座いません。
……己の存在意義を問う、不確かな影と言う存在其の物が、真の主人公。
ご自分で今……口にされたでは無いですか。
「原点」であると……。
此のZEROの記憶……「勲様」に、修正すべくお返し致します」
 ZEROはそう言うと、騎士のコートに隠されていたサーベルを出し、上空に掲げた。反対の手は真っ直ぐZEROの正面を指差している。
 ZEROの両腕に、硝子の様な時計の文字盤が出現するではないか。
 其の文字盤がダイヤルの様に回り、上空を指す方角にローマ数字の十二が浮かび上がった。
「……これは…………」
 浮かび上がった数字を見ていた勲は、其の後ろから差す月の様に優しい光に目を奪われていた。

零時(12時)の時の番人または使徒ZERO



 ……懐かしさとは……こうも……痛切であるのに……迷いを消す物であったか……。

 思い出した数々の記憶が流れ込む……。
 今の「黒影」を必要としたのは……己だった。
 血に塗れた事件に平然といた。
 何人も簡単に二行で死ぬ物語。
 或る日、人の死にも関心が無くなった頃、もしも……此の物語がまた違う場所で産まれ変わる時が来るならば……
 私しの影を……少しでも、命耐え抜く影に……。

 そんな事を願い……深い闇に消えた。
 あの頃の創世神が……其の想いを、未来に託したのだ。
 身体の弱かったあの人が……影の願いを……。
 私しから派生したのが、今の「黒影」
 新しい時代に合わせ、血に塗れる事は最小限に、過ぎた事件を解決するのでは無く、未然に防ごうとする探偵となった。
 私しは……影で良かったのだ。
「黒影」なのだから。

 僅かなデータ「黒影紳士の書」から、こんなにも……また時は流れ今も進んでいる。
 此の時の一瞬一瞬の輝きは……確かに、まごう事無き心臓の鼓動と変わらぬ生きた証。

 ……何を恐れていたのだ。消滅と言う死を恐れるは、生きている事実を認めていると同じであるのに。
 黒影は生に満ち溢れ、私しは死の道を歩んだ。
 分かち合った其れは……たった一つの、未来への願いだったと言うのに。

 影と成りて……光を残す。
 其れが……私しが此の物語からも姿を消した理由である。

 私しが……

「黒影紳士」

 と、呼ばれし者である。

 此の事件……私しを尤も不愉快にする。
 人間の欲の吹き溜まり……吐き気すらする。
 だから……私しは……此の漆黒の地獄の炎にて、犯人を焼き尽くしてくれよう。
 私しは優しくは無い。
 恐れられる紳士であった。
 今も……その地獄は許されざる者を引き摺り込む為だけに在る。
 私しは「黒影」を未来だと勘違いしていた。
 先に産まれ……「未来」を歩んでいたのは私しである。
 後から創造された、次なる世代を担う今の「黒影」に、道を譲ったのだ。
 時代に留まる事で……。
 白雪とは、もう会わないだろうと……別れも告げず消えた。
 数々の文字データが崩れる中……私しは独り……流れ落ちては消えて行くデータを見上げていたのだ。

 まるで……漆黒の……雪の様であった。

壊れ崩れて行く文章データを見上げた勲の過去



 何故に今更……涙が出るのか……。
 己で選んだ道に、間違いは無いと……今もはっきりと言える。
 違う形でも……また君に出逢ってしまう。
 私しは今流れ込んだ此の記憶は、そっと影に隠しておこうと思うのです。
 私しの願いを一心に受けた今の「黒影」の為に。

 寄子さんが真っ白な死の華を加えて自害しようとした時、全く白雪とは似つかわないのに、ふと真っ白な雪が降った気がした。
 きっと……此の人を一生涯……守って生きて行くのだと……。

 時は残酷哉…………。
 時は美しき哉…………。

 なぁ…………「黒影」

ーーー

「勲さん?」
 黒影はずっと遠く失った筈の記憶を見て、思わず黙っていた私しに聞いた。
 私しは帽子を手慣れた仕草で前に倒し言った。
「……黒影紳士は……君の物だ。
影はたった一つの夢である。
私しは君を生かす事にしました。
君が許してくれるのならば。
……人を殺める事は出来ません。
私しは……其れを赦さない者で在り続けたい……。
其れだけは変えてはならない、私しの理念でした」
 と、勲は涙を隠し言った。

 蒼い炎が悲しみに揺れている。
 元から勲が授かる筈だった翼も、鳳凰すら……捨て去り、守ったのは此の物語其の物であった。

 黒影は薄らシルクハットの影から覗く頬に涙の跡を見たが、其れについては何も触れなかった。
 紳士が帽子に隠した物を粗探しするなど、無粋な真似は出来無い。
 ただ……勲の言葉を信じて良い物だとは理解出来る。

何を想うのだろうね…。


 確信したのだ……。
 勲こそ、主人公であると。
 自己犠牲も厭わない……そんな決断……誰にでもある。
 其れは信念や守るべき物が在る時……人を狂わせもするが、軌道修正する時もある。
 勲が帽子を持ち立つ漆黒の美しいシルエットが、黒影の目に焼き尽く様だった。

 此れが……真、紳士であると分かるのだ。
 其の帽子の下に存在するであろう目が、例え帽子に隠れ見えなくとも……既に犯人だけを捕らえようと、真っ直ぐ「事実」を見詰めていると。

 ……悲しいならば、強くなるしかない。
 ……強くなれなくても……前だけを見れば良い。
 決して迷い一つ無く。突き進む者の姿が在る。

「……許すも何も、僕は……生きています。勲さんがいて、今の僕がいるんです。存在しているだけで有難い……」
 そう、黒影は答え微笑んだ。
 勲は帽子から横顔を覗かせ、口元だけ微笑み蒼い瞳をチラッと覗かせ、
「貴様に存在意義を教わるとは。私しも未だ未だの様だ」
 と、皮肉を言った。
 皮肉だけれど、清々しい気分になる微笑みだった。
「あのぉ……ZEROさん?でしたっけ?……詰まり勲さんが主人公なのは分かりました。
其れでも勲さんは、僕に「黒影」でいろと我儘を言っているので、僕は主人公(仮)と言う事になりましたが、やはり不定期に此の「黒影紳士の書」自体の時空は狂う訳ですよね。
で?……直すだけしか出来ないのに、こんな大掛かりな十二人も役割りを作ったとは思えません。
そもそも此の「黒影紳士の書」は関係する読者様から著者まで、ありとあらゆる人々を呑み込むではありませんか。
よって僕はこう考えます。
時空修正出来るのならば、今迄時夢来(とむらい)で出来たほんの僅かな時間を巻き戻す事……其れ以上の事が出来るんですよね?
例えば……そうだ。
僕は事件が起こる前に戻りたい。
……可能ですか?」
 黒影は「何が出来るのか」と言う答えが早く知りたくて仕方ない。
「そんな幾らなんでも……ん?此の幕のタイトルにZEROって……」
 と、サダノブはZEROの方を見た。
「いいえ、幾ら何でも其のタイトルのZEROは私の事では有りません」
 ZEROはまさかと肩で笑い答える。
「それで……事件前には?」
 勲がZEROの背中を見詰めて聞いた。
 背中を向けていても、騎士の誇りを眺めていたかったのだ。
「黒影紳士の書」の心を守り続けたもの……
 もう、薄れ掛けていたと思われた記憶を守る力になってくれたもの……
 あの薔薇は……「黒影紳士」を守り続けた者だけが持つと謂れる。

 長い……長い時間を繋いでくれたDer Rosen kavalierに、深い感謝を想う。

これは何時も執筆の際に使っているテーブルの、薔薇のテーブルクロスを眺めていた時、見付けた影が騎士に見え着色し、周りをカットした物である。
丁度黒影紳士を書いていた。
此の影を見詰めて…。
感謝したい…そう、心から思った。
薔薇を心に持つ、紳士&マドモアゼルの読者様を重ねたからだ。
黒影紳士の中で、感謝をやっと言えた。
何時も…此の長い物語を読み、時には支えてくれ、有難う御座います🎩🌹


「……時は……人生にして一瞬の光……。
我々の誰か……若しくは、「黒影紳士」の誰かが現実世界で死を迎えても、入れ替わり此の時を正常に戻します。
「黒影を永遠にする」と、創世神が約束した通りに。
確かに記憶操作により、多少時間軸がずれています。実際の時間では無いですが、気付かない者からすれば、起こらなかった筈の事が起きたりしている訳ですから。
我々が修正しようか考えていたところですが……主が来たならば話が違う。
時夢来よりは可能とだけお伝えします。
何分、主が此処に来たのは始めてですから、其れ以上の事は分かりません」
 と、ZEROは答える。
「黒影と勲さんで良いよ、主なんて擽ったい。無論、事件前に意地でも戻ってみせる」
 黒影はそう言って勲を見て、如何かと軽く顔を向けた。
「其れしか選択肢はありませんね」
 と、勲は当然だと言い笑った。
「はい?今度は時空の壁まで突破する気ですか?!」
 サダノブは、此の二人は何を考えているのかと其れを聞いて唖然とし、開いた口が塞がらない。
「じゃあ、サダノブはあんな犯行を事前に止められなかった自分に後で後悔しないのか?
出来る……か、も、知れないのに?
僕は不可能と言う言葉が嫌いだ。
よって、許し難い犯行を止めに行く」
 と、黒影は言い張るのだ。
「……何とかなるだろう?そもそもW主人公が揃って何も出来ない方が有りえない。「黒影紳士」ですよ」
 などと勲までも言うのだ。

 全くもって成功する根拠は無い。
 相変わらず事件以外は適当な黒影……どころか勲まで見てサダノブは気絶しそうな気分だ。

 (黒影)「旅は道連れ……」
 (勲)「世は情けですね」

 そう言うと二人は笑顔で、一人ビビるサダノブの手を其々が反対ずつ手にして逃げない様にすると、そっくりのニヒルな笑みを浮かべ……
 (黒影)「時空修正……Der Rosen kavalier……」
 (勲)「……発動!」

 と、時空修正を発動させてしまったのだ。

 シャラ……と、白銀のサーベルが抜かれ十二人は一斉に其々の時間方向へ向け真っ直ぐ外円陣から外へ、十二方向に向けサーベルの剣先を向けた。
 時の十二使徒はもう片手は頭上を指差している。
 円陣を囲む程の美しい真っ赤な薔薇の花弁が舞い上がる上空には……大きな十二方位磁針が出現する。

スケールが大き過ぎて、ほんのイメージ参考となります💦


 両手首にはZEROが先程見せた時計の文字盤が浮いている。
「……良い……風だ……」
 黒影は舞い上がる上空の風を受け、帽子を押さえ心地良さそうにそう言った。
「何が起こるんですか、今度は!」
 サダノブはもう勘弁してくれと言わんばかりである。
「何があるか分からない。……だから時が過ぎ行くも……生きる事を楽しめるのですよ」
 と、勲はサダノブを見て、楽しそうに言った。

 こんな事よりも……もっと凄い奇跡を……僕等は知っている。
 ……だから……何も……恐れはしない。
 20年のあまりの時を……繋ぐ事は可能だと、既に……証明しているのだから。

 時の十二使徒達の腕の時計が動き始める。
 上空の十二方位磁針が時間軸に合わせようと回転している。
 十二人が放つ上空への十二本の柱の様な光……。
 一人が動かしているのではない。
 一人一人が己の時間を少しずつ分刻みでずらし、大きな時を動かしているのは分かる。
「勲さん」
 黒影が勲を呼んだ。
「サダノブ……行こう……。私しも……本当は、君の様な友人が……欲しかった」
 赤い花弁で見えなくなる寸前……
 勲はサダノブの腕を、昔の黒影の様に握ると確かにそう言った。


 其のほんの僅か切なそうな顔が、一瞬過ぎて……サダノブには現実なのか否かさえも分からない。
 ただ……覚えているのは、其の後も暫く腕に残った
 あの日と変わらない……温かさだった。

 誰が……此の「勲さん」と呼ばれる人物を冷酷などと言ったのだろう。
 確かに犯人には容赦無い……。
 けれど……やり方は違っても……やはり「黒影」に変わりはなかったのだ。
 対称的な生き方をしたとしても、結局……
「黒影」は「黒影」にしか成れない。
 それは……譲れない想いだけは、同じだからではないだろうか。

 もしも……戻れたのならば……
 もしも……こんな事が無かったら
 ……あの時……こうだったら……

 人は悲劇の後にそう思う。
 何度叫ぼうが泣こうが足掻こうが……其れは一切変わらない。
 悲しみで冷たく固まった時の針を動かす事は出来ない。
 溶かせるだけの強さと……優しさ……揺るぎない想いが、人の心の針を唯一溶かして行けるのだ。
 人の悲しみだけは……人でなくては拭えない。
 人の傷みを知り、傷みを返すのでは無い。
 人の傷みを知ったならば、一つだけ……何も出来ないと絶望したとしても出来る事があるのだ。
 人の傷みを知った者だけが……人を……本気で救える。
 例え、傷みは違えど……大きさが違えど……
 だから僕は……諦めようなんて、思った事は無い。

 時よ……全ての悲しみが無くならなかったとしても……
 今日ある……目の前の悲しみを……ZEROに……眠らせてくれ
 弔うは…………
 目の前に在った筈の事件その物では無い
 人の…………痛んだ心である。

 ――――――――

 黒影と勲はゆっくりとDer Rosen kavalierの時の十二使徒に力を分ける為に、鳳凰陣に付いていた片手を上げ、辺りを見渡し立ち上がる。
「サダノブ!タブレットの日付けと時間を確認だ!」
 黒影は見知らぬ景色に、直ぐ様確認させた。
「まさか……こんなに……」
 サダノブは驚きを隠せずにいる。
「いや……合っている。これで良い筈です。被害者が被害を訴えた事件当時の大凡の年代は一致します。地区も此の辺りですね。
然し、Der Rosen kavalier発動後位置がずれたのには不信感があります。
Der Rosen kavalierは所謂修正プログラムなのですから、此の場所の移動は失敗では無く、意図的に此の事件の始まりに連れて来たと私しは考えますね」
 と、勲は黒影から借りていたタブレットを見て、サダノブが何に驚いたのか気付き、そう見解を述べる。
「始まりのヒントに過ぎない……と言う事ですね。此処から、何時発生してもおかしくは無いヒントを辿り、犯人が犯行を行う前に食い止め、未来的にも犯行に至ると判断したならば、記録し現行犯逮捕するしかない……。
かなりハードな内容ですが、自分が二人ならば少しは気が楽ですよ。
出来れば違う意見が出てくれれば可能性として、見落とさないで済む。勲さんが僕と違う環境で生きて来た事に、感謝せねばなりませんね」
 黒影はそう、思わず夜空の星を見上げ言った。
 皮肉な運命もまた、味方に付けば良い物だと思わず思いたくもなる。
「ZEROが言った様に、時空が狂い始めたのが此の時点って事は……今さっき犯人が記憶操作の能力に目覚めたか、使ったりした……って事になるんですよね?」
 イマイチ、何が起こっているかさえ定かでは無いサダノブは何方にでも無く聞く。
「……そう言う事になるな。
誰かの時の記憶を書き換えてしまっているんだ。
能力に目覚め立てならば、普通は確かめたりするだろうな。
其れに対しては恐らく時を変える程では無いからDer Rosen kavalierは反応しないだろう。
動物の殺傷事件が頻繁に起きたのは記録によると、未だ後だ。
警察では確認されていないが、我々が知っている被害者の前に更なる他の被害が在った事になる。
もう殺害されているかも知れん、急がなくては……」
 黒影はそう言ったものの、被害報告ゼロの捜索だ。時間を要するのは理解出来た。
 思わず、考え込む……。
「……黒影、私しの意見を良いか?」
「……如何ぞ」
 黒影は勲の意見を聞く事にした。
「犯行と言うものは特性的に徐々に段階を踏んで、気付かれなければ大胆になる。
能力者と対峙した事は少ないが、其れは能力を得て試す段階でも同じではないでしょうか。
この犯罪心理に変わりが無いのならば、記憶を操作すると言う点で合致する、恐らく同一人物は未だ警察側に被害が確認されていない動物等の殺傷をしたか、先ずは誘拐に近い事をしたと考えられる。
直ぐには殺さない。
……だから、此処は落ち着いて考えるべきです」

「……然し」
 被害が出てもおかしくは無いのに、勲がそう言うものだから、黒影は一旦考えを切る。
 ご尤もに聞こえるが、実際は五分五分である。
 目的のみに執着するのが知能犯のし易い事だ。
 ただ、今は落ち着いて考えるべきだと、勲は注意を促したに過ぎない。

 ……そうだ。何ら変わりは無い。
 何時も通りに……僕は探偵なのだから、推測から調査し追い詰める。
 勲さんと大きく違うのはそれだ。
 勲さんは僕等探偵とは違い、犯人追跡は速い。
 僕は的を絞るだけで良いんだ。
 此処は勲さんを信じよう……。

「サダノブ、犯人は分かっているんだ。
問題は犯行を行っているであろう場所に的を絞ろう。
大東講堂付属医大か遠並医院に関連する場所で、空き物件、旧舍、空き地、倉庫を検索。不動産屋に問い合わせてみよう」
 黒影は思い直し、探偵らしい遣り方で進めて行く。
 勲は其の言葉を聞くと、安堵したのか蒼く燃える翼をゆったりと開閉し、空を眺めた。
「もっとストレートに言って下さいよ」
 思わずその暢気な勲の後ろ姿に、黒影は言う。
「ストレートに言っても聞かなかった。……自分だから分かる……」
 そう言ったかと思うと、突然大地を蹴って舞い上がる。
「ちょっと!あんまり目立ち過ぎないで下さいよ。其れに単独行動は……」
 黒影が思わず注意すると勲は、
「私しは飛ぶのは初めてです。
何かの時にと、練習しているだけですよ。
此の翼で飛べる速さと影の移動速度を加えたら、更に効率が上がるのではないかと思いましてね。
少し此の辺りを試しに飛ぶだけです。
目視出来る範囲です。
心配には及びませんよ」
 と、言うのだ。
「回遊するぐらいにしておいて下さい。「夢探偵社」の調べも其の翼と競争しても良い程速いですから」
 黒影は不機嫌乍ら承諾する。
「全く……なんて我儘で勝手なんだ。だから何時も単独行動慣れしている人は困る!」
 と、いざ場所を特定したら一番に向かって欲しかった勲が暢気な事を言っているので、頭上を旋回する勲を見て黒影は毒付く。
「先輩が二人になっただけじゃないですか……」
 と、サダノブは調べを進め乍らも、思わず口にする。
「誰が二人だって?僕はあんな勝手な行動はしないよ」
 黒影は憤くれてサダノブに言い返した。
 サダノブは、黒影も勿論我儘だった事を思い出し、八つ当たりされない様にとタブレット画面から顔を上げた。蒼い光……否……鳳凰が夜空に飛んでいる姿を見て、其の舞い散る火の粉の美しさに言葉を失った。
 蒼や白の星は既に死んでいたり、見えない物質で形成されており、存在しない星だと言う……。
 生命の途切れた光の鳳凰……。
 其れはまるで不死鳥に産まれ変わる前の姿の様だ。
 勲と黒影の帽子とタイの色が本来は逆の色だと気付く。
 黒影は赤い鳳凰であるのに、鳳凰の魂を表に出す前は目が蒼紫に近く、普段は瞳に合わせて蒼を選んだと言った。
 勲が赤を身に付ける理由は聞いた事は無いが、無意識に探していたのだ……自分に欠けているものを……。
 そう思えてならない。

 其の影は確かにまるで死神の様である。
 だけど……確かに狛犬で言う、阿吽の呼吸の様に……二人揃って、完璧な鳳凰とも思える。
 Der Rosen kavalierによって生と死を兼ね備えた、まるで蘇ると呼ばれた不死鳥になったのだと実感した。

 ーーー

「ちょっ……先輩、隠れて!勲さんもっ!」
 サダノブは急に黒影の腕を引っ張り、家の影に連れて行く。
「何だよ!」
 と、思わず反射的に言ったが、黒影はフラフラと現れた人物を見て息を潜めた。
「勲さん!院長 遠並 英(とおなみ すぐる)だ。適当に降りて隠れて下さい」
 黒影は小声で小型無線機を使い、勲に伝える。
 勲は下を見るとこう言った。
「否、後ろ上空から尾行する」
 勲がそう言うので、黒影は少し考え、後ろからならば問題ないかと、
「了解……」
 と、伝えた。
 遠並 英は夜で寝ぼけているのか、酔っているのか寝巻き姿のまま、焦点も合わずふらりふらりと歩いていて、危なっかしい。
「……まさか……」
 黒影はもしかしてと、ある事に気付きサダノブに、
「サダノブ、遠並 英の様子がおかしい。
既に息子の遠並 彰(とおなみ あきら)に記憶操作されているかも知れない。
思考を読んでくれ」
 と、司令を出す。
 そんな時だ。野良猫が遠並 英の前を横切ろうとした。
 遠並 英は、
「何だ、こんな所に逃げ出して。さぁ……戻ろう」
 そう、野良猫を抱き抱え、帰る方向でも無く真っ直ぐ歩き出すのだ。
「先輩!」
「如何だった?」
 サダノブが遠並 英の思考が読めた様だったので、黒影は結果を早く聞きたがる。
「……モルモットだ。多分……実験用ですね」
 と、サダノブが言う。
「モルモット?まさか、遠並 英にはあの猫がモルモットに見えているのか?」
 黒影はまさかと、遠並 英が猫を抱く姿を凝視した。
「じゃあ……起きた事だけでは無く、視界的にもこれから先にも思考毎書き換えられているのか。
既に記憶操作の領域を超えている。
明らかに記憶「書き換え」若しくは「置換」の能力とも言えるな。
なんて厄介な……。
然も自らは動かず、父親に動物を確保させていたなんて」
 黒影はなんて事だと、そう言う。
「其れが何故人になんか……」
 サダノブは思わず悲壮に言った。
「……動物でも駄目な物は駄目だ。
そもそもモルモットから大きな動物にランクを上げた時点で、既に医学的な物では無く、上限が無くなる事は見えていた。
……人の欲は、一度タガを外したら戻る方が難しく出来ている。
然し、遠並 英は何処へ行こうとしているんだ?」
 丁度そう黒影が話していた時だ。
「この先に、古い小さなコンクリートの建物が見える。有刺鉄線で囲まれている。今は使われていない様ですね」
 と、勲から一報が入る。黒影もサダノブも傍受した。
「了解。此方で今調べます」
 黒影がそう言うと、サダノブはタブレットで検索しようとした。……が、
「否、調べは私しが行く。影が見える。……五秒で十二分過ぎる」
 と、言うのだ。
「勲さん、単独行動はっ!」
 止めて下さいと黒影は言おうとしたが、既に後ろに付けていた蒼い星は消えている。
「単独行動の方が得意なんだ。悪く思わないでくれ。既に其の建物の裏にいる。翼と影を使えば楽勝ですね。……遠並診療所と、微かだが看板に書いてある。」
 既に調べ始めている。
 もう影と翼を上手く組み合わせて移動している様だ。
「勲さん……」
「はい」
 黒影の呼び掛けに勲は答えた。
「僕にもその移動……ご教示願いますかね?」
 と、苦虫を噛み潰した様な顔をするので、サダノブが隣で声を押し殺して笑っている。
「ああ、構わないですよ。」
「未だ中には入らないで下さいね。今、行きますから」
 と、黒影は釘を刺す。
「外からでも十分な情報を得られる。構わないよ」
 勲はそんな風に言うので黒影は少し悔しがり、笑っているサダノブの頭をぐいっと押すと、
「何笑っているんだ!勲さんに遅れを取っているのに……行くぞ!」
 と、走り出す。
「嗚呼……やっぱり俺等は走るんですねぇ」
 サダノブは何時もと変わらないので拗ねている。
「当然だ!……大体サダノブが飛べないからいけないんだよ」
 と、黒影は言うではないか。
「えつ!まさか2巻も俺だけ……」
「飛べないな」
「マジっすか〜?!」
「ああ、マジだ」



スキお忘れではありませんか❓^_^忘れ物がなければ…

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泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。