「黒影紳士」season3-6幕〜水上の捜査線〜 🎩第七章 影の捜査線
――第7章 影の捜査線――
「只今、戻りましたー!」
黒影は白雪と手を繋ぎ、元気良く風柳邸兼夢探偵社に満面の笑みで帰って来た。
「えっ?あれぇー?」
サダノブがずっと二人が自然に手を繋いでいるので、何事かと驚く。
「如何した?何か変か?」
黒影はサダノブに聞いた。
「いやいや、違うでしょ!距離、距離っ!」
サダノブは黒影の腕を引っ張り小声で、
「どんだけ距離感縮まってんすかっ、五日の滞在でっ!」
と、聞くので黒影は少し考えて、
「はあ?飛行機は長かったぞ?」
と、全くもって検討外れの答えで返す。
「ちがーっ!」
サダノブは黒影が事件以外は全く此の手の話に疎かった事を思い出して、両手で頭を抱えた。
「何だ、其の分からんリアクションは?」
黒影は全く分からず苛々し始める。
白雪はいそいそと何時もの様にキッチンに入り、珈琲を用意してくれている。
「じゃあ、合っていたら黙って頷いて下さいよ」
サダノブは黒影を階段の下まで引っ張って、耳に手を当てコソコソと、
「キスした?」
と、聞くので、黒影は思い出してこくりと頷く。
「抱き締めた?」
其れにも黒影はこくりと頷く。
「……じゃ、いたした?」
と、サダノブが聞いた時、黒影も流石に何が聞きたいのか分かった様でフリーズする。
「……っ、馬鹿か、下らないっ!上司のプライベートだぞっ!」
と、言うなり黒影は帽子を深く被って、耳を真っ赤にすると荷物を持って二階の自室にさっさと行ってしまった。
「ぅおー!どっちの反応?!どっちなのぉー!」
サダノブは階段の下から二階に震える手を伸ばした儘、崩れ落ちている。
「あれ?サダノブ何やってんの?黒影に珈琲出来たよって呼んで来てくれる?」
白雪が声を掛けると、サダノブは立ち上がり背筋を伸ばすと、無言でふるふる横に頭を振る。
「なぁに?帰って早々喧嘩するでも無いし……。また変な遊びでもしてるの?良いわ、私が呼びに行くから」
と、白雪はパタパタスリッパの音を鳴らし、二階へ行った様だ。
「サダノブ、あんまり突ついたら可哀想じゃないか」
風柳はのほほんとお茶を啜り、軽くサダノブに注意する。
「はぁ……俺も穂さんと旅行行きたいなぁー」
サダノブも椅子に座り緑茶を啜ると、頬杖をついて呟いた。
「暫くは溜め込んだ仕事があるから無理だ。悪魔にでも叶えて貰え」
黒影はサダノブが事務処理した書類を確認し、階段を降りて来るなりそう言った。
「マジッすかぁー?……先輩ばっかり……」
と、サダノブがごにょごにょ言ったので黒影は、
「僕ばっかり何だって?……良いか?お前が未だまともに事務処理一つ出来ないから、こうやって二度手間、三度手間増えて行くんだ」
と、早速訂正箇所をポストイットでマークして持って降りて来た様だった。
「すみません……」
サダノブが素直に書類を持って事務所に持ち込もうと思った時、黒影は自分の席に付き、
「否……やっぱり良い。僕がやっておく。其処に置いておけ」
と、言う。
「でも、旅疲れもあるんじゃ……」
サダノブは聞く。
「其れはお互い様だ。何時、何があるか事件は待ってくれない。体を休ませておけ」
黒影はそう言うと珈琲を飲んで、ホーッと長い息を吐いて微笑んだ。
「やはりエスプレッソも良いが、白雪の作ってくれる珈琲が一番だっ」
と、満足そうである。
「また、過労にならないで下さいよ」
何時もの景色に、サダノブも思わずそう言って微笑んだ。
「……不思議だな。何故か黒影の周りは気付くと皆、微笑んでいる」
と、風柳も微笑み言った。
「そうですか?周りは何処行っても敵ばっかりですよ」
黒影は苦笑いする。
「敵だろうが直ぐ味方にする癖がある。……梟が寄って福が来ているんだか、鳳凰の平和でそうなっているのか、俺も肖りたいものだ」
と、風柳は言った。
白雪は自分のロイヤルミルクティーを持ってテクテク歩いてくると、ちょこんと何時もの黒影の横の席に座る。
「梟?」
風柳の言葉にサダノブが反応した。
「ああ、サダノブは準備良く寝ていたからな。……白雪、白梟に成れるみたいだ。影の影響らしい」
と、黒影は簡単に説明する。
「ええ!?……白梟?」
サダノブは驚いたのだが黒影は、
「大袈裟な。お前だってポチだろうが」
と、黒影はまた珈琲を一口飲むと呆れて言った。
「……はぁ、今更って感じはありますけどぉ。此れで夢探偵社、全員動物化決定じゃないですか。激レア過ぎません?」
サダノブは黒影に聞いた。
「其れは流石に僕も思ったよ。だから、風柳さんに調査して貰っている。ねぇ、風柳さん?」
と、黒影は凍り付いたあの営業スマイルで風柳を見ている。
……明らかに、「当然、調べて来たよな?」の脅迫込み込みスマイルっ!
サダノブは黒影の思惑に気付いて背筋が凍る。
「ん?……ああ、多少調べておいた」
風柳は全く其れを気にしていない。
……恐るべし、兄弟っ!
サダノブは二人のコミニケーションの取り方にドン引きし乍ら、縮こまってお茶をごくごく飲んで見守ろうと心に誓った。
「……多少ですか。……まあ、取り敢えず聞かせて下さいよ」
黒影は風柳に聞くも、多分「多少」が気に入らなかったのか、凍った営業スマイルは続いている。
「探偵社が動けないから、此方はてんてこ舞いだったんだよ。運良く、能力者案件は無かったから此方で対処出来たが、此れでも片っ端から親戚中に連絡したんだ。如何も影が変わっているのはやっぱり黒田家全員だな。とは言え、其れだけ影を使いこなすのは数える程しかいない。……勲(黒影)の曾祖父さんが動物に成ったのを見たと聞いた。ただ、長生きはしたが亡くなっている。102歳と記録ではなっているが、戦時中でよくよく聞いたら、記録が無いだけで後二、三十年は生きてたって言うんだから驚きだろう?」
と、風柳は言った。
「別にびっくり人間大賞の話しじゃないんだから驚きませんよ。で?其の人は何に化けるんですか?」
と、いよいよ黒影は苛々しているのか、営業スマイルもただの凍り付いた微笑になる。
「ああ、亀だよ亀」
風柳が詰まらなさそうに言ったのに対し、黒影はよっぽど其方にびっくりして、
「はあ?!其れ本当ですかっ?」
と、思わず席を立つ。
「……だから長生きだって言っただろう?」
風柳は何で驚いているのかが分からず言う。
「……そうじゃなくて!じゃあ、まさか後、虎とか龍だとか揃ってませんよねっ!そんなの流石に敵にしたくない」
黒影は聖霊が揃っていないかと心配する。
「其れは聞いてないよ。亀がいるんならあり得なくも無いが……。そもそも亀って言っても何が出来たかはさっぱり分からん。のんびりした人だったとは聞いたが、其れ以上はさっぱりだ」
と、風柳もそこそこのんびり言う。
「はぁ……良かったぁ」
黒影はそう言って落ち着くと、だらんとまた席に座りぼんやり上を見て、
「其の亀って、また黒田家から産まれたりしないですよねー」
と、風柳に聞いた。
「さあなぁ……。小亀はきっと可愛いだろうけどな」
風柳は何時もの様にガハハと豪快に笑う。
「冗談じゃありませんよ」
黒影はばんやりしたまま言った。
「小亀可愛いだろうなぁー。見たーぃ」
と、白雪はにっこり笑って言った。
「えっ……」
思わず黒影が発した其の戸惑いに、黒影も含む白雪以外の全員が凍り付いたのは言うまでもない。
「…………。白雪、今、何て言ったか自分で分かってるかなぁー?」
完全に微笑んだままフリーズした黒影が、頑張って頭を捻って白雪に聞いた。
「えー、何?亀さん可愛いねって話しでしょう?」
白雪は気付かずそう黒影に聞き返す。
「そうだよね。……そうなら良いんだ。あははっ……」
黒影はゆっくり首を戻すと、明らかに何も聞かなかった事にしようと、珈琲をやたら飲み始める。
……あははって何!……誤魔化せてないでしょう?
今、子供欲しい~♪的な幻聴聞こえましたよね?!
と、サダノブは心で黒影に思いっきりツッコみを入れたくなったが、流石に言えずに笑いを堪えて揺れる手を必死で隠して緑茶を啜る。
風柳をチラッと見ると、新聞を持っているが肩が小さく震えていた。
……わっ、笑ってる!
「さあ、少し事務仕事するか。……サダノブ、ベネチアングラスがもう届いているだろう?ちょと一杯、後で引っ掛けるか?」
黒影は酒を飲む手振りをして聞いた。
「そりゃあ、もう喜んで」
サダノブはどうせ照れて二階に行き、事務処理も早いからとっとと済ませて、きっと先に一杯始めてサダノブが行く頃には泥酔しているんだろうと思ったが、仕方が無いな~と、思わずそう言って笑った。
「……今日はグラスが何個無くなりますかね?」
サダノブは呟く様に風柳に聞いた。
「さあなぁ……。俺の予想は三つだな」
と、風柳は答える。
「なぁに?そんなにストレス掛けたかしらん?」
白雪は相変わらずなので、サダノブも風柳もクスクス笑い始める。
……本当だ……何で気付けば笑顔なんだろう?……
「其れはね……世界と言う基盤の上に自由があるからさ……」
――season3-6幕は取り敢えず完――
で、す、が〜未だ未だ黒影紳士は続きます♪
このラストの一言、最初の方に見覚えありませんか?
これが物語のノクターンで御座います(^^♪🎩🌹
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お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。