「黒影紳士」season3-3幕〜誰も独りなどにはしない〜 🎩第四章 罪人などにはしない
――第四章 罪人などにはしない――
「風柳さんから、犯人の詳細情報が届いています」
サダノブはタブレットに届いたメールを黒影に見える様にテーブルの上で回転させた。
「霧野 悠宇(きりの ゆう)27歳。……新米だな。何だってこんな新米に僕等の情報を流したんだ。契約違反だぞっ!」
黒影は約束には厳しく、流石に警察側の情報管理に頭がきたのか、テーブルを然程強く無いまでも殴り付けて不快感を表し言った。
「……まあまあ、犯人が探っていたのかも知れないじゃない。事情は後で聞けば良いわ。何時もお世話になっているんだから、そう怒らないの」
白雪は黒影の珈琲とサダノブの緑茶を出して、自分用のロイヤルミルクティーもテーブルに置き、黒影の隣の何時もの席に腰掛けた。
「然し……」
黒影は未だ腹立たしい様子である。此の情報漏洩で自分の周囲が脅かされた事が許せないのだ。
「ほら、珈琲でも飲めばスーッと落ち着くわよ」
と、白雪がにっこりして言うものだから、黒影は何も言えなくなって、珈琲を一口飲む。
「……事務仕事で何時もの時間に眠れないから、ストレスでも溜まってるんですよ」
サダノブは黒影に、怒り易くなっても無理もない状況だと言った。
「……そうだな。やっぱり焦りもあるから此処は慎重に、だな」
と、黒影は長い溜め息を吐いて、自分にも言い聞かせている様だ。
「住所はそんなに遠くない。……風柳さんなら、もし霧野 悠宇が自宅にいたならばとっくに容疑者としてしょっ引いている頃合いだ。……サダノブ、僕は考えておきたい事がある。此の住所近辺の監視カメラを確認してくれ」
黒影はそう言うと、目を擦り乍ら腕と足を組んだ。
「ちょっと疲れ過ぎじゃない?」
白雪は最近キレの悪い黒影を心配している。
「俺が行く迄ずっと戦ってたから無理も無いですよ。此の件が終わったら少し休んだら如何です?」
と、サダノブも心配そうだ。
「……?……そんなに疲れて見えるのか?あまり自覚は無いが……」
黒影は二人を見て言う。
「あっ……其れ、過労になりますよ。気を付けて下さいね」
サダノブはタブレットで監視カメラをチェックし乍ら忠告した。
「……ああ、頭に留めておこう」
黒影はそう言うなり、何故か自分の掌を翳し宙を掴んでいる。
……夢か。……掴みどころの無い物を追い掛け、捕らえる。本体の霧野 悠宇を見付けて捕まえたところで、其の能力がある限り同じ事を繰り返すだろう。
誰でも夢は見る……確かに神の様なものだ。
然し、自分は如何だ。
誰にでも影は存在して、掴み所の無いのも同じ。
其れでも自分が神だと思う程自惚れてはいない。
あえて言うならば、霧野 悠宇は予知夢さえ呑み込んでしまう。
複数人を同時には無理な様だ。
……其れは、もし範囲があるならば、探らなくても夢を見た全ての者を手中に収めてしまえば楽なのに、そうはしないからだ。
然も被害者の分布図を見てもばらつきがあった。
黒影は其処迄考えると、
「……なあ、サダノブ。もし、本気で僕と隠れん坊をしたとして、お前なら如何やって僕を捕まえる?」
急にそんな事を聞く。
「え?本気で隠れん坊?……先輩なら……影から影か、夢か「真実の丘」の世界に逃げて行くでしょうからねぇ。……そうだなぁ……ひょこっと出て来た時に氷で足止めするか、夢の世界に来るのを待って氷で足止めするしか無いかなー。まあ、其れも火を使われちゃあ如何しようも無い。仮病使って、近くに来た時に顔以外氷漬けですねっ」
と、サダノブは答えると顔以外氷漬けの黒影を想像して笑った。
「流石に最後のは卑怯だなぁ。まあ一番の成功法だが。……ところで、サダノブが夢に捉えられていた時、霧野 悠宇がお前を見に来た頻度と大体の間隔は如何だった?」
そう黒影が聞くので回想し乍ら、
「初めの一回だけですよ。……どうせ、夢にちゃんと閉じ込められてるとか、時間が進んでいるかとか確かめに現れたんでしょうね。後は放っておけば衰弱死ですから」
と、霧野 悠宇を思い出したのか苦笑いして答える。
「たった一回だけか?」
「ええ、そうですよ」
黒影が念を押して聞くと、サダノブは確かだとそう答えた。
「何で其の一回の時に、氷漬けにしたり思考を破壊しなかったんだ。夢に入って直ぐなら体力も然程削られていないから、お前なら倒せただろう?」
黒影は不思議そうに聞いた。
「ちょっと、先輩……今、霧野 悠宇を探しているんですよ?質問が先ですか?捜索が先ですか?」
サダノブはムスッとして同時には出来ないと、少し不機嫌になる。
「ああ、悪かった。質問が先だ。……で、何で攻撃出来なかったんだ?」
黒影は、そうだ……サダノブは気が散りやすいタイプだったと、質問だけに集中させた。
「世界じゃなくて夢にいたからですよ。夢の中じゃあ、攻撃出来ないんです。擦り抜けちゃうんです、幽霊みたいに」
其れを聞いた黒影は、
「其の後は如何した?「真実の丘」へは行かなかったのか?何で笑っていた?」
そう黒影が立て続けに聞くものだから、サダノブは頭をぐしゃぐしゃに掻くと、
「あーもう、一個ずつにして下さいよー!」
と、やはりサダノブも戦い疲れで残業に寝れないと言う此の状況下で癇癪を起こす寸前だ。
「分かった、分かった。一回落ち着いて茶でも飲め」
黒影は珍しく優しく言う。
「なあ……そろそろ此れが恋しいだろう?」
と、黒影はテーブルの上に腕捲りをして腕を置いて見せ、
「質問している間は掴んでいてもいーぞぉー」
黒影が腕でご機嫌取りをしようとしているのが見え見えだった。
「……そんなに大事な質問なの?」
と、白雪は聞く。
「ああ、そうだ。捜索よりも大事な質問。だから良いよね?」
黒影は白雪にも一応良いか聞いてみる。
「仕方無いわねー。ちゃんと答えるのよ、ポチ」
と、サダノブに言った。
「やったー!許可付きー!」
サダノブは急に元気になって黒影の腕を持つと、幸せそうににこにこして頭を付けるとすりすりして喜んでいる。
「犬の玩具に見えて来たんだが……。其れかゴロゴロ喉を鳴らした猫だな。まあ、ご機嫌なら良い。……で、質問を続けるぞ。一個ずつだな?」
と、聞くとサダノブは今にもくんくん鳴きそうな犬の様に首を縦に振り、腕に夢中な様だ。
「おい、夢中になって質問の答えを疎かにするなよ!……夢で攻撃出来なかった後、何で「真実の丘」に行かなかったんだ?」
黒影が再度聞くと、
「ん……行けなかったんですよ。何でか分からないですけど。そもそも先輩がいないと無理だし、何時も勝手に行く時は先輩の思考読んで行きますから。最低でも真っ暗の夢を見ていない、空っぽ状態じゃないと読み込めないのかも知れませんねー」
と、相変わらず腕に頭は乗せているものの、動きは止めて上を見乍ら考えて答える。
「は?何時の間に勝手に思考読んでいたんだ。……全く隙もあったもんじゃ無い。……で、僕が「真実の丘」から呼んだよな。其の時は何故入れた。サダノブの夢は如何なっていた?」
黒影は呆れ乍らも聞いた。
「夢はずーっと見ていましたよ。でも先輩が呼んだからか、勝手に「真実の丘」が出て来たから、声もしたし急いで行ったんですよ」
黒影はサダノブの其の答えを不思議に思って、
「ん?真っ黒じゃなかったのなら、其れは上書きじゃないか?案外真っ暗でも「真実の丘」から呼べば簡単に合流出来るのかも知れないな。機会があれば試す価値はありそうだ」
と、言って少し考えていた。
「……で、何で笑っていたんだ?」
更に黒影は聞く。
「そりゃあ、幸せな夢ばっかり見ていたからですよ。衰弱して行きますけどねー。腹が減れば好きな料理が出て来て食べられるんですけど、腹には溜まらないんですよ。まあ、夢ですからね。……で、犯人の記憶もゆっくり薄れて来るんです。でも、先輩が来たら伝えなきゃって俺、ずっと言葉に出して繰り返してたんですよぉー。結構、あれで頑張っていたんですから」
と、サダノブは黒影が来ると信じて待っていた様だ。
其れには流石に、
「ポチの割に頑張ったな。ほら……質問は終わりだ」
と、黒影が腕を引っ込め様としたが、
「もう少し!先輩が珈琲飲み終わる迄っ!」
と、離さないので、
「はあ?……全く困った犬だ。やっぱりかまちょだったじゃないか。如何する?」
黒影は苦笑し白雪に聞いた。
「まあ、ストレスを溜めるより良いかもね」
サダノブの幸せそうな顔を見て、白雪は少しなら良いかとそう言う。
「二人共、神ー!」
そう言って、サダノブはご機嫌になった様だ。
「良いよなぁ……お前は。ストレス発散が簡単で」
と、黒影は思わず言った。
「えー?でも許可制だし、先輩の気分もありますからねー」
そうサダノブが、まるで自分が苦労している様な言い方をするので、
「だからって、ストレス溜まったー!とか言っても貸さないからな。躾も大事だ」
と、黒影が言うと、
「えー、躾は要らなーい」
と、サダノブはムスッとして言うので、
「いるよな、白雪?」
「大いにいるわね」
二人は顔を合わせてそう言い笑った。
「さて、サダノブの証言を纏めるぞー」
珈琲を一杯飲み終え、サダノブも惜しみ乍ら腕を離した後、黒影はそう言ってタブレットにメモを取るようにと、サダノブの前にあるタブレットの隅を何時もの様に軽くコンコンと二回、細い指先で叩く。
サダノブは慌ててメモを表示すると、
「準備出来ましたよー。……先輩、俺の証言なんて役に立たないんじゃないですか?」
と、黒影に聞いた。
「否、役に立った。ある程度謎に包まれていた霧野 悠宇の能力が解明出来たからな。話した事を簡単で良いから箇条書きにしてくれ。流石に夢が相手となると僕も分かり辛い。
では始める。
霧野 悠宇は現在誰かの夢の中に居る。
僕と同じ能力の中を移動する単独移動型だ。
世界には干渉出来るが攻撃を受ける様になる。
注意すべきは、
夢では霧野 悠宇の記憶が薄れ、攻撃不可能つまり無敵だ。
そしてもう一つは、世界でも夢でも時が早まるのも注意したい。
それから、「真実の丘」についても纏める。
先に僕が行けば、サダノブは思考からと、僕に呼ばれれば夢からも到着可能。
僕と二人の時は……
サダノブの夢が真っ暗な時と、
予知夢のギャラリーから影を作り、聖霊の力を纏い通るのが条件だ。
詰まり、予知夢のギャラリーから行く方が確実な通路になる」
其処迄話すとサダノブが黒影の話した中の初耳な言葉に、少し驚き、
「えぇっ!?……今、何て言いました?聖霊とか何とかって言いました?」
と、聞くと、
「ああ、言ったよ」
黒影はあっさり肯定する。
「……えっ、えっと……あの氷だとか炎とかのやつですよね?あれ、何か知っていたんですか?」
サダノブは未だ分かってない様だったので、
「ああ、勿論だが。お前、気付かなかったのか?他の皆知っているぞ」
と、呆れて言った。
「え?嘘でしょう?また俺だけ知らないなんてー!」
サダノブは頭を抱えた。
「あら、言わなくても気付くわよ、ふつー。だって黒影、神社にお参りに行っていたじゃない」
と、白雪も呆れている。
「神社は行ってたのは知っていますけど……。分かる様に教えて下さい」
と、シュンとして教えを乞うので、黒影はそれは長~い溜め息を吐き話す。
「全く……霧野 悠宇さえ存在を知っていたぞ。……霧野 悠宇は僕の事を「聖霊憑きの炎使い」だと言っていたな。サダノブと僕で共通しているのは、四元素からなる、氷と火の恐怖を克服した能力者だと言う事だ。其れが多分きっかけになったと思っている。僕は鳳凰でサダノブは犬だが二体一対にも変わるから、僕を護る狛犬と言うとこだな。
何時か神社の神主にも言われただろう?狛犬さんって。……で、僕がやたら甘い水分を欲しがって、慌てて行ったのが鳳凰に謂れのある霊水が有名な神社で、甘い水とは甘水とも言う霊水の事だ。本来なら鳳凰は霊水しか飲まない。だから、力が弱くなる前に慌てて飲みに行っただけだ。此れで分かったか?」
黒影は説明し乍らも、そう言えば変わった龍使いもいたなぁ……と、ザインの事を思い出したが、世界の話は未だ早いかと其処で止める。
「あの突然のプチ一人旅、そんな意味あったんですねぇー」
ポカンとした顔でサダノブは言った。
「ああ、羽根が落ちたのも弱っていたみたいだ」
と、黒影は言う。
「ああ!じゃあ此の先輩の欠片の御守り、其の時の!」
サダノブは胸ポケットに入れていた赤い金色に光る羽根を取り出すと、翳してくるくる回してみた。
「欠片って言うな。霊水を掛けておいたから、少しは元気になった羽根だ。どれだけ効くかは分からんがな。主の物ぐらい、一つは持っておけ」
と、黒影は言って二杯目の珈琲を口にする。
「サダノブったら、何にも知らないで黒影にひょいひょい何時も引っ付いていたのに、全然気付かないんだものっ。黒影を護る人じゃなかったら、とっくに引っ付くなぁー!って、追い出していたわよ」
白雪はそう言うとクスクス笑った。
「あっ、そっか……だから気が付いたら追い掛けていたのか……」
サダノブはやっと分かった様だが、無意識だったので茫然としている。
「穂さんだって多分気付いてるよ。馬鹿だな……本当に」
と、言ったのに何故か黒影は微笑んでいた。
――――――――――
「さあ、其れよりも隠れん坊をしている霧野 悠宇を引っ張り出すぞ。
引っ張りだすのは簡単だ。……問題は逮捕してもあの能力が残る事。サダノブの思考を読む力を使ってもかなり難しい。今後あの夢の能力を一生使えなくする程となると、脳を破壊し死んでしまうかも知れない。対峙するフィールドはサダノブの証言から判断して「真実の丘」がベストだ。
僕は今、正直ドス黒い自分と二つの選択で悩んでいる。
正直に話すよ。
もしも、ただ手ぬるい方法で逮捕したならば、犠牲者は確実に増える。だが、僕等はただの探偵社だ。犯人の能力確認と確保だけして引き渡せば良い。然し、其れでは僕等は二度と安心して眠る事も出来なくなる。其の度に闘うのか?……多分其れでは戦力を失い仲間の誰かが……若しくは全員がいずれ死ぬ。此れが一つ目だ。もう一つは……
『真実の丘で霧野 悠宇が死亡すれば、此の儘現実では失踪扱いになる』
何方も選びたくは無いが、他に此の事件の終わりが見えない。……サダノブなら如何したい?」
……あの誰よりも繊細で死を悼む人が、今……なんて?
サダノブは自分の耳を疑った。
「先輩!……何方も駄目だ!だって何方にしても、貴方は生き乍らに心が死んでしまう。そんな選択はしちゃいけない!
……言って下さいよ、何時もみたいに。
洞察力と観察力があれば、無いと思っていても活路を見出せるって!大丈夫に此れからなるって!」
サダノブは、黒影を止める為に必死になって言う。
「無いんだよ。本当に。……サダノブにまた誰かの心を破壊させて、其の所為で苦しんで欲しくは無い。さっき聞いた本気で隠れん坊をするならって話は、霧野 悠宇を捕まえる方法を聞いていた。
……世界に閉じ込められたら……もしかしたら夢を見せられないんじゃないかと思ったが、影には隙間があっても夢の移動を追えないんだよ。サダノブは飛べない。僕は飛べてもサダノブが来る間に死に掛けていたんだよ。とても肉弾戦では勝てる相手じゃない。火柱か氷で突き刺す事は可能だ。……だが、其れでも霧野 悠宇を生かすか殺すかが最終決断になってしまうんだ。
如何戦っても戦わなくても逮捕しても……生かして犯罪を続けさせるか、殺して止めるかで間が見当たらないんだ。此れは真実では無い。正義の話だ。正義なら仕留めて耐え得る力を持っているのかも知れないな。
だけど……其れではきっと、僕の目は二度と真実が見えなくなるだろう。
サダノブ……正義って何だ?多くの人を救い、自分の手を血で染める事か?誰かにやらせてしまえば、心を殺してしまう事か?未熟故に分からない……今の僕には選べない」
黒影は俯いて、悔しさに両手を握り締め震わせた。
此の事件に関わってから、本当はずっと……終わらせ方を考えていた。
黒影は悲しくても辛い決断でも、一番より良い終わり方を考えて動く……そんな人間だ。
風柳が車内で推理を止めた理由が……お前には重過ぎると言った意味が今なら痛切に分かるのだ。
風柳はあの時、黒影が推理をしている間にとっくに其れに行き着く事に気付いていた。
正義は風柳のフィールドなのだから当たり前だ。
そして今も帰らず……黒影をまた守ろうと、罪人になる覚悟で霧野 悠宇を血眼で先にと探しているのが分かる。
「……誰か……風柳さんを、兄さんを止めてくれ……。サダノブ……風柳さんを止めてくれ。……白雪、僕を許さなくて良い……だから止めないでおくれ。僕は……行くよ」
黒影は犯罪者になる気だ。
きっと黒影なら言うのだろう……。
「動悸は?」
「……守りたい者が在ったから」
と。
……そうか……こんな事で犯罪は増えてしまうんだ。
……時々出会った事がある。優しい犯罪に。
……なのに何故其の時、自分にはそんな選択肢しかない時なんて来やしないと過信していたのだろう。
ただ、選択肢が無いと言うだけの犯罪が此の世には存在しているのに。
嗚呼、其れはきっと哀れにも此の世界の笊から落ちてしまっただけなのだ……だから気にせず歩かねばならない。
次の事件が見えなくなるから……そう言って目を閉じて来たのに。
「先輩を一人で何か行かせませんよ!どんな理由があっても!俺は……俺はあんたを護る為に付いて来たんだろう?俺はあんたを止める!」
サダノブが階段を上がり、夢を見に行こうとした黒影を前に、手を精一杯広げて立ち塞がった。
「退け、サダノブ」
「嫌です」
「退けと言っている!」
「だから嫌なんです!」
こんな遣り取りをして……黒影は、
「全員仲良く死にたいのかっ!」
と、殺意に満ちる程の物凄い剣幕で、サダノブを大きな声で怒鳴り付けた。
「……嫌っ!行かないでよっ!約束したじゃない、長生きもしなきゃて笑って言ったじゃない!置いて行かないで……行くなら私も連れて行ってよ!」
白雪は黒影の背中の漆黒のコートを掴んで、何度も黒影を揺らし必死に訴える。
「……こういう運命だったんだ。……諦めてくれ!」
そう言うなり、黒影はサダノブを横に突き飛ばし、何もかも振り切って階段を駆け上がり自室に入ると鍵を閉めた。
ドアを色々叫び乍ら叩く、二人の声や音が聞こえる。
黒影は窓を開けて、月を愛しみ乍ら悲しそうに見上げるのだ。
「……今宵も……月が綺麗ですね。どうか……君に辛い現実を与えてしまうけれど、其れでも……生きて欲しいと我儘にも思ってしまう僕を許して下さい……」
そう言うと、お気に入りの安楽椅子にぐったりと全ての気力を失ったかの様に座って、涙を頬に伝わせ眠りに就く。
……皆、大好きだったのに。……御免……。
――――――――――――
🔸次の↓season3-3幕 第五章へ↓
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。