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Winter伯爵の落とし物❄️第三章⛄️君の物語

――第三章 君の物語――

 飛び降りたそこは、宮殿の見える丘だった。
あの龍…どうやって倒すべきか…僕は少し考えた。けれど何も見当たらない…。
あれが彼女なりの歓迎ならば、僕は嫌われれば良いのか?そう、ここがさかさの国である事に気がついて思った。とりあえず、他に方法がないのならやってみるしかない。僕が宮殿に入ると、彼女はここぞと言わんばかりに待ち構えていた。
「君がとても好きだから迎えに来たよ。だから伯爵を返してくれないか。」
僕は試しにそう言ってみた。すると、彼女は黙ったまま伯爵の所に僕を案内するようだった。これで良かったんだ。
やっぱり、ここは僕が書いた世界なんだ…。
僕は安堵した。いらないと言えばいる…好きだと言ったら断る。彼女は嫌がらせのつもりで、僕を伯爵に会わせてくれるに違いないと踏んだんだ。僕の答えは合っていた筈なんだ。
伯爵に再会するまでは…。
伯爵は僕の顔を見るなり、こう言ったんだ。
「間に合わなかった…。魔法は解けてしまう…」
そう言うと…伯爵は雪に身を包み消えてしまったんだ。折角、ここまで来たのに…僕は絶望した。それどころか、
「よくも散々な事言ってくれたわねっ!」
と、彼女は僕に言うんだ。伯爵の言っていた魔法とは…この事だったのだと気付いた。
さかさの国は元に戻ったんだ。まさか、こんな時に戻るなんて…。
「何でだよっ!俺はちゃんと思い出しただろっ!」
思わずそんな悪態をついていた。彼女は僕に、
「間に合わなかった…春が来たのよ。Winter伯爵は冬の世界でしか生きられない。貴方が…そうしたのよ。」
そう言うなり、悲しそうな顔をした。
「死んだ…のか?」
僕がそう小さな声で涙を堪えながら聞くと彼女は、
「貴方の所為よ…」
そう、静かに言って俯くだけだった。

 なんて事をしてしまったのだろうか…。僕は伯爵と出会ったあの雪の日よりも大きな後悔でいっぱいだった。僕はあの日…彼が言っていた事を思い出していた。結婚式だって言って…笑っていたあの笑顔を…。彼を待っている人に…何と言えば良いのだろう。彼の幸せを…僕は奪ってしまったのだ。何時もいてくれた…どんなに絶望した時も、どんなに物語が書けない時でも…。僕はあの忘却の木の下に座り込んだ。彼女から返して貰った、あの大切な花を手にして呆然と見つめていた。
「僕は…また、大切なものを失ってしまった…」
涙声で、その言葉すら力なく響いた。僕はこの世界から出る方法もわからない。ましてやWinter伯爵はもういない。物語を書く紙もペンもない。全てを…失ったようだった。
忘却の木を見上げると、そこには綺麗な花がついていた。悲しい程…綺麗に輝いていた。
人の記憶は…こんなにも素晴らしいものか…。
僕はその価値さえわからず、忘れてしまう事を仕方ないと諦めていた。
彼と会って大変な思いもした。けれど、こうやって見上げると…どれも綺麗な思い出だと思える。僕は…何時か忘れるから…どんな感動も感情も何時か消えてしまうから、だから残したかったんだ。僕が残したのは…この忘却の木だけだった。結局…僕は、自分の願いすらここに捨ててしまったのだ。夢はもう…叶わない。だって…忘却の木に、捧げたのだから。
僕はそんな事を呆然と考えていたつもりだった…。だけど、それが吉となって僕は一番大事な事に気付いたんだ。子供の僕は、大人の僕の為にこの忘却の木を書いた。…そう…忘れない為に。
だとしたら、もしかしてこの木は全て覚えているんじゃないかって…。慌てて僕は忘却の木をまじまじと調べた。
僕ははっとした。何たる事か…この木は僕の記憶そのものだった。何故、今まで気がつかなかったのか…。忘却の木の幹をよく見ると、それは全て小さな文字だった。ずっと…黒い幹かと思っていたが、それは違った。全部細かい文字だったんだ。僕があのノートに記した言葉も書いてあった。僕がここまで伯爵と旅した事も…全て。伯爵の出会いから伯爵が消えるその時までの出来事が鮮明にこの木に書き込まれている。
そして…この木の真実に僕が気づいた事も…。
これは僕の物語なんだ。だから、僕は記憶をこの木に書き込みながら進んでいるんだ。けれど、これから先は何一つ書かれていない。
僕の未来は、文字ではない只の黒い幹だった。
僕は必死で書いた。
未来を…。
“Winter伯爵は生き返る。そして彼は春も夏も秋も永遠に幸せに生きるだろう…”するとまた、出会った頃のように彼は降って来た。
「雪がないと、こんなにも痛いものか…」
Winter伯爵はそう言いながら、腰に手をあてた。
「伯爵っ!」
僕は彼に再び会えた事が嬉しかった。彼は再会の喜びなど気にせず、何時ものように、
「服が焦げたままなのだが…どうせなら新しい服をこの木に仕立てて貰いたいのだが…」
と言うのだ。僕はそんな何時もと変らない彼に会えた事が嬉しかったので、忘却の木にこう付け足した。“Winter伯爵の服は少年のおかげで綺麗な白い服に戻りました”と。
新しい服が気に入ったのか、彼は暫く自分の着ている服を両手を広げて眺めていた。
僕はこの時、あまりに安堵していてこれからどうなるかなんて何も予想していなかった。
けれど…伯爵は新しい服に満足すると、笑顔を消したのだ。そして、僕にこう言った。
「これ以上…この木を見ないで欲しい…」
と。何時も自信過剰な彼が、不安そうな面持ちでそんな事を言うものだから僕は、
「何故?」
と尋ねた。
「君はまだ…思い出していない事がある。それを思い出した時…僕と君はさよならだ。」
と、伯爵は答えた。
「嘘…だろ?…じゃ、じゃあ書くよっ!俺、今からこの木にWinter伯爵との別れは来ないって書くよっ!」
僕は、信じたくない現実に混乱しながらも、引きつる笑顔を見せながらそう言った。しかし…伯爵は首を項垂れたまま横に振って、
「無理だ…」
そう言っただけだった。
「嘘だっ!無理なんてないっ!この世界は僕が作ったんだからっ!」
…僕は、自分が思わず言ったその言葉にはっとした。僕の書いた世界にWinter伯爵がいる。
それは…彼が、僕の物語の人物だって。
「消えるなっ!僕が絶対変えてやるっ!…こんな物語…変えてやるっ!」
僕は、思い出したんだ。伯爵が何者かって事を…。だからこそ、僕は伯爵が消えていくのを止めたかった。僕が全てを思い出した時…伯爵の姿は次第に薄くなってゆき…やがて消えた。
「何でだよ…折角、会えたのに…」
僕は、あまりのショックに思わず木の下の地へ両手をついた。ふと視線をずらすと、木の根元が見えた。そこには…
”夢が終わった時、Winter伯爵は夢の世界の人になりました”と…書かれていた。
こんなもの書いた記憶がない。子供の頃の記憶にも…書いた覚えがない。これが…大人は子供に戻れない…それを破った僕への罰にも感じた。

Winter伯爵が消えた。僕は…物語の夢の世界から、現実へと戻った。
こんなにも、彼がいたという記憶が鮮明に僕の中にはあるのに…。何故…消えるのを承知で僕を助けに来たんだ、彼は。
「カッコつけてんじゃねぇよっ!」
僕はある絵本を見ながら言った。その絵本の中にはあのWinter伯爵の絵が描かれていた。
その絵本の題名は「Winter伯爵の落し物」だった。僕は子供の頃、この本を読んだ。主人公は夢を忘れ絶望した少年。そして、その友達がWinter伯爵。主人公には何時だって災難ばかりで…その度にWinter伯爵は彼を励ます。
そんな絵本だった。僕は…この絵本が大好きだった。幼かった僕が忘れる事を恐れた時、僕はWinter伯爵を思い描いた。夢みたいな話だったけれどWinter伯爵の言葉で、きっと残せるものもあるのだと信じたのだ。…あれからだよ…僕が物語を書き続けているのは…。
僕は…まだ彼に何一つお礼をしていないのだよ。なのに…消えてしまうなんて。
僕が彼に出来る事は…物語を書くしかなかった。彼の注文の品を仕上げて…彼に渡したかった。だから僕はそれから…一つの物語を書いた。彼の物語を…。
彼と出会って、そして彼を失うまで。でも、悲しみ故か…僕は伯爵を失ったところはどうしても書けずにいた。彼が欲しがっていたもの…。それは夢のある…子供の頃に読んだような物語。僕は彼の物語を完成させなくてはいけない…。

🔸次の↓winter伯爵の落とし物 第四章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。