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悪魔の所業相談所👿第三章

――第三章 奏でる魂――

 私の魂のコレクションの中に一つだけ、何色にも発光しない無色透明の魂があるのです。
この魂の持ち主もまた、この相談所の依頼主でした。

相談所の扉をノックする音が聞こえので私は扉を開いて、
「悪魔の所業相談所ですが、何か?」
と、扉の先にいた一人の女性に聞きました。
けれどその訪問者は何も言いません。どうも落ち着きのない彼女でしたが、すらっとした体型と指先…水のように流麗な髪の持ち主でもありました。きっと悪魔に会って想像と違ったから驚いているのだろうと私は思いました。この肉体はいい売り物になる。そう思った私はすかさず、
「願い事の依頼ですか?」
と、聞いた。何時もならば、こんなに早くは仕事の話を切り出さない私でしたが、それ程にも喉から手に入れたいものでした。最近は綺麗な肉体が欲しいという願いが多く、若い女性の肉体が足りなかったのです。客人は私の問いに答えるわけでもなく、客人が持っていたハンドバックから紙とペンを持ち出して何か書き始めた。私が確認すると、紙にはこう書かれていた。”声を取り戻したい”と。
「失礼かとは思いますが、声が不自由なのですか?」
私がそう聞くと、客人はこくりと頷きました。
私は思わず、少しがっかりしました。だって、声の出ない体は売り物にはなりません。折角の美貌も…これでは使い物にならないのです。
ですが、これも仕事。私は客人に、
「それで…何をいただけるのでしょう?」
そう聞くと、客人は再びペンを取った。客人はさらりと何かを書くと、私に押し付けるように紙を渡した。紙には”私の命”とだけ書かれている。私はそれを見るなり驚いて言いました。
「それでは折角声を手に入れたとしても無意味では?」
死んだから声は失われる。私が魂から聞く声は声であって声ではない。人間のいうテレパシーのようなもの。何故にこの客人はあってもなくてもよいような願いを叶えたがるのか…。
「何故です?私は始めからなくてもよい願いなど叶える気にはとてもなれません。」
そう、私が言うなり客人はまたバックから紙を取りだし、何やら書きはじめた。今度は随分時間がかかった。
”私はオペラ歌手でした。けれどある日「魔笛」を唄っていた時、喉に無理があったのか声を失いました。その時、私には恋人がいて、彼は何時も私の声が好きだと言ってくれていたのですが…私が声を失ってから他の女のところに行きました。私の声がなくなったから彼はいなくなったのだと、今もこんな自分を責めてしまうのです。本当は…そんな事をしても、彼は私の声だけに興味があって声が戻ったからといって私の元に戻ってくる筈もなく、私を愛してくれるわけではないのです。
けれど、私は唄が好き。だから、声のせいで彼と別れたのだとこれ以上思いたくはないのです。こんな想いで生き続けたくはないのです。”
わりと急いで書いていたわりには、長い文章でした。けれど客人の想いには…もっと長い言葉が詰まっているのでしょう。私は少しだけ、彼女の気持ちを察してか悲しい気持ちになっていました。普通の人間ならばそれだけでとか、死ぬ程の事じゃないと言うのかも知れません。けれど、私はこの仕事をしていて思ったのです。人の悲しみは、本人以外の誰も…ましてやこの悪魔の私でさえも計れるものではないのだと。
これは私の推測にしか過ぎませんが、もしかしたら客人の真の願いは死にたいという願いなのかも知れません。だから声を戻したいという願いは…本来ならば死ぬ時に最後に言い残す願いなのでしょうね。恋愛は優しくて時に残酷なものです。この相談所にも沢山恋愛にからんだ願いの相談がありましたが、魂になってまでも消えない想いがあるのです。
「わかりました。それではサインをいただけますか?…それと、死ぬと魂は私がいただく事になりますが、よろしいですか?」
私は他に何も聞かないように努めながら、最低限の依頼を承諾する意思を伝え、必要事項を確認した。客人はそれを聞くと、儚い瞳で今にも崩れそうな程優しい笑みを浮かべて頷き、契約書にサインしました。

…そして、契約は執行されたのです。
横たわる客人の死体から、魂を拾い上げた時、私は驚きました。
無色透明の…あの魂だったのです。何もかも失った魂の抜け殻。肉体だけで生きた人間のなれの果て。悲しみだけがその空虚な魂に宿っているかのように、時々この相談所には悲しい女の唄い声が聞こえるのです。今も誰かを想うその唄だけが、このコレクションケースの中で彷徨い続けている。

🔸次の↓第四章へ↓(此処からお急ぎ引っ越しの為、校正後日ゆっくりにつき、⚠️誤字脱字オンパレード注意報発令中ですが、この著者読み返さないで筆走らす癖が御座います。気の所為だと思って、面白い間違いなら笑って過ぎて下さい。皆んなそうします。そう言う微笑ましさで出来ている物語で御座います^ ^)

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泪澄  黒烏
お賽銭箱と言う名の実は骸骨の手が出てくるびっくり箱。 著者の執筆の酒代か当てになる。若しくは珈琲代。 なんてなぁ〜要らないよ。大事なお金なんだ。自分の為に投資しなね。 今を良くする為、未来を良くする為に…てな。 如何してもなら、薔薇買って写メって皆で癒されるかな。