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サンタさんへのリクエストがAmazon仕様すぎた件
サンタ歴も、今年で8年目だ。
毎年、子どもたちの願いごとに胸をときめかせてきた私だったけれど、今年は様子が違った。衝撃的な手紙を前に、脳がフリーズ。
サンタ業務とは、かくも予測不可能なものなのか——
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クリスマスツリーを買ったのは、3年前。
ちょうど長男が字を書き始める頃だったからか、その年から「プレゼントのリクエストはお手紙にしてツリーに挟む」という習慣ができた。兄弟たちで相談しながら、キャッキャと楽しんで手紙を書く光景は、何度見ても愛おしいものだ。
今年もすでに、数枚の紙が挟まれている。
長男が、5歳次男と末っ子2歳の分も代筆したらしく、ロボットだのキラキラコスメだの、ほしいと言われるたびに「サンタさんにお願いしようね」と逃げてきたさまざまな希望が書かれていた。
※事前に手紙をチェックすることは子どもたちも了承済み
ロボットかぁ。もう2体ぐらいあるけど本当に必要?
コスメは2歳のおチビちゃんにはちょっと早いなぁ、色つかないやつあるかな。
まぁ、検討しましょう。
こちらの候補もさりげなくアピールしつつ、双方の合意を持って決着をつけたいところである。
さて、長男のリクエストは? と、最後の手紙を開いてみる。
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ぼくはちょうねくたい方へいせいきがほしいです
めっちゃくちゃほしいですおねがいします
「ちょうねくたい方へいせいき」
なるほど、なるほど。
これは、アレだな。コナンの蝶ネクタイ型変声機。
子どもたちは、ごっこ遊びが大好きだ。
特に長男は、服装もなるべく寄せる本格派で、コナンにハマってからは探偵ごっこのアイテムを求めるようになった。
入学式で着たセットアップに、キャスケット帽と夫のPC用メガネが基本スタイル。コナンに寄せるには、蝶ネクタイが不足している。近所の100均では入手できず、作ってやろうにも裁縫スキルが壊滅的なので、いつまでも胸元が寂しいままだった。
10月の誕生日のときにも同じものをリクエストされたけれど、新しいやつが25年4月発送ということで泣く泣く断念していたのだ。来年の4月では、クリスマスにも間に合わない。
「残念だけど、これはまだ世の中にないよ。ないものは、サンタさんも届けられないと思う」
何度そう伝えても、彼は「でも、サンタさんなら、もしかしたら準備できるかも!」とリクエストを変えない。サンタの存在がファンタジーであるがゆえに、すっかり神さま扱いなのだ。
このままでは非常に困る。
もう少し現実のサンタに配慮して、せいぜいAmazonもしくは車で1時間程度で手に入るものにしてほしい。
ここはひとつ、サンタの諸先輩方から伝授いただいた、必殺サンタ分業説で納得いただくこととしよう。
「最近のサンタって、おもちゃ作るのはメーカーに任せる分業スタイルだよ? 彼は届けるのが仕事。作るのはメーカーだから、用意できない場合はプレゼント届かないかも……」
「そうなの? えー……じゃぁ、一応、他のリクエストも書いておく」
よしよし、それでいい。
やや脅す形となったことは否めないが、これで一安心である。前日までに配送可能なやつでお願いね。
長男は数日悩んだようだった。
あまりに決めきらないので、夫がWEBでいくつか候補を見せ、この辺から選んではどうかとアドバイスをする。
ようやく候補を決め、夫が見せたスマホの画面を見ながら、なにやら丁寧に手紙をしたためている。絵でも書いているのだろうか。それはそれで、厄介だぞ。ここは長男の画力を信じるしかない……。
翌日の早朝に、さっそく手紙を確認してみた。
そういえば、新しい自転車がほしいって、いってたよなぁ。コナンの漫画全巻とか言われたら、ちょっと予算オーバーだなぁ……。
長男は、なにを選んだんだろう?
OPEN!
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……えっ?
一瞬、解読できずに目がすべる。
様子がおかしい。
「サンタさんへ ぼくは」と「がほしいですおねがいします」の間に挟まれたリクエストの様子が、明らかにおかしい。
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とりあえず希望が「ラジコンカー」であることはわかるんだけど「スタントカー」もあるよね? 「スタントカー」ってなに?ほしいのは「ラジコンカー」なの? 「スタントカー」なの?どっち?
後半まで読み進めていくと、さらに「RCカー」まで出てくる。ど、どのカーが正解なんだよぉぉぉぉ!
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「2.4GHz」も、読み方がわかんない。なんだその単位。
GH=ご飯、z=ゼロカロリーで、2.4kcalはノーカウントってこと?
G=ごきげん、H=ハイテンション、z=絶好調みたいな略語、小学生の間ではやってたりする?
軽いパニックを起こした0.00008秒後ぐらいに、気がついた。
これ、Amazon販売ページやないかーい!
そうだよ!
Amazonとかモール系の、検索に引っかかる単語詰め込んでます! っていう商品名的なやつだよコレ!
試しに、Amazonの検索窓を開いて、冒頭のメーカー名的なものを入れてみると、一言一句違わないラジコンの販売ページがヒットした。
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間違いない。夫が参照させていたのは、Amazonだったのだ。
あまりに令和的なリクエストに、私は震えた。
余韻とか、隙とか、全然ない。
子どもらしさとか、ほっこり感とか、どこ行った。
ほしいものを書いてるって意味では「ラジコンがほしいです」と同じはずなのに、なんだろうこの足元から崩れ落ちるような感覚は。
あとさ、ちょっとバレそうじゃない?
リクエスト通りだったとしても、Amazonで買いましたー! って感じがすごくない?
このままポチるか、あえて少し外しておくべきか……。親の判断と演出次第では、今後のサンタ運用に影響が出てくるかもしれない。
私はショッキングな手紙を握りしめながら、手紙を一生懸命書いていた長男の姿を思い出していた。
確かに「ラジコンもいいな〜」とかなんとか、言ってたな。気まぐれで優柔不断な私似の長男のことだから、きっとリクエストもすぐまた変わるだろうと思って、適当に聞き流していた。
「ラジコンつっても、いろいろあんでしょうよ」って答えたような気がするし、それに対して「オッケー! サンタがわかるようにしとくわ」って意気込んでいた気もする。
……そうだ。わかるようにした結果が、この手紙なんだ。
これは、彼なりの、サンタへの配慮だ。
コミニュケーションの手段だ。
だって、ラジコン、いっぱいあるもんね。
サンタさんも迷っちゃうよ「ラジコンがほしいです」だと。
この「USB充電」「両面走行」「360度回転」「2.4GHz」「オフロード」「全地形に対応」「LEDライト付き」のどの要素がぐっときたのかはわかんないけど、販売ページのあらゆる情報を詰め込んでおけば、サンタさんも迷わず届けられるだろうっていう気持ちで、書いたのだろう。
大人だったら、参考資料としてURLを活用するところだが、彼にはまだその知識と経験がない。彼なりに、どうしたら伝わるかを考えた結果が、この手紙だったのだ。
一瞬フリーズして、心が不安定に揺れてしまったけれど、笑いが込み上げてくる。気づけば胸の辺りがポカポカしてきた。
なんだよ、めちゃくちゃかわいい手紙じゃん! 逆に。サンタを想った彼も、試行錯誤の結果も、全部丸ごとかわいい。
結局私は、そのままラジコンを購入した。
身バレももはや気にならない。長男の手紙に、すっかり魅了されてしまったのだ。
去年、2年連続でAmazonのギフト包装にしたら「これ去年と一緒じゃない?」と指摘されて冷や汗をかいたので、せめてと思い包装紙は別で用意した。
サンタ業務は、12月24日、クリスマスイブの今夜である。
毎年包み紙をあける子どもたちの表情が、私にとって最高の贈り物だった。
でも、今年は違う。
サンタさんへの手紙を通して、すでに特別な贈り物をもらった。伝え方を試行錯誤した長男の手紙には、成長や配慮、夢、いろんなものがつまっている。
私はきっと、この手紙を大切に持ち続けるだろう。Amazon仕様の、余韻も隙もない、世界一愛おしい手紙を。