有人のガソリンスタンドに、幼き日の憧れを見出して。
窓際で食べるご飯は美味しい。
ご飯の美味しさと窓際から見える景色が相乗効果をもたらしているからかもしれない。そうでもないか。
そもそも、窓際って位置が素晴らしいと思う。地上を観察する感じ。物語における神の視点になったような不思議な気分になれる。
地上から見た景色と地上を見下ろす景色は千差万別だ。
私は、それを社員食堂で実感していた。
少し早めのお昼ご飯。
私はきまって窓際の席を陣取る。
お昼どきになると、外から差し込む日差しが天然の照明になってくれる。
快晴。雲一つない青空を見上げる。
夏。
アスファルトと灰色の街は熱気に悲鳴を上げている。私は冷房の効いた社内でできたてのご飯を食べようとして、目下、窓の外に見える有人のガソリンスタンドを見やる。
ちらほら流れ着く車を手厚く迎えるスタンドの従業員さんたちを眺めながらご飯を食べる。それが平日の私の日課だった。
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ここ最近は、めっきりセルフのガソリンスタンドしか見なくなった。
小学生のころは、実家の近所にも従業員がサービスしてくれるスタンドが点在していた、気がする。
単に車に乗る機会が減ったから、物珍しく感じるだけかもしれないけど。
ガソリンスタンドの従業員は、窓ふきのプロであり、サービスのプロだ。
昔、旅行帰りに父親が運転する車がガソリンスタンドに寄った。今ではセルフになってしまった、近所のスタンドだ。
父がレギュラー満タンを注文する。
ガソリンを注入する機器が車と接続する、ガチャン、という重い音。
助手席から見えるのは、既にタオルを手にもって構えたスタンドの従業員さん。前に二人、後ろに一人。
そこからは光の速さと、抜け目ない丁寧さの見せどころだ。
前窓を二人で半分ずつ分けて、こびりついた埃を、曇り一つすら許さんばかりの気迫で拭き取る。ぴかぴかにしていく。横の窓も同じようにてきぱきと拭いていく。
じっと目を凝らしても汚れという汚れがない。新品のようなきらきらなガラスが目の前に広がる。
ふと窓に映った、オレンジ色の制服の従業員さんが私に向かって小さく手を振ってきた。
憧れ、というのはこんな小さなところからも芽生えるらしい。
ガソリンの、ツンとした臭いを嗅ぐたびに、かっこよかったガソリンスタンドのプロフェッショナルたちを思い出す。そして、私は再び、現実の、窓越しのスタンドを見下ろす。
時と場所は違えど、目下で汗を流しながら、手際よく窓を拭いている彼らはカッコよくて、プロフェッショナルな大人たちだった。
久々にドライブしたいなー、なんて気まぐれに浸りながら、私は両手を合わせてごちそうさまを唱えた。
お仕事頑張ろう。