銀色の恋人
ロボットの登場するSF小説です。
とはいえ、難しいことは、ほとんどありません。舞台設定がSFというだけで、中身は、正統な少女小説と言えます。
ちょっと風変わりだけど、甘いラブロマンスが読みたい方に、お勧めします(^^)
人によっては、甘過ぎるとおっしゃるでしょう。好みが分かれるところです。
少女の一人称で、話が進みます。その少女、主人公である彼女の名は、ジェーン。
最初、私は、この名前に引っかかりました。
なぜなら、他の登場人物の名前に比べて、平凡すぎるからです。
他の登場人物の名前は、デーメータ(主人公の母親)、エジプティア(主人公の女友達)、クローヴィス(主人公の男友達)、ジェイスン(主人公の男友達)、メディア(主人公の女友達)などです。
お気づきでしょうか? これらの名前は、みな、ギリシア神話や、アフリカやヨーロッパの歴史に関わるものです。
デーメータは、ギリシア神話の農業の女神、デーメーテールのこと。
エジプティアは、もちろん、エジプトに由来する名前ですね。
クローヴィスは、フランク王国の王、クロヴィスを指します。
ジェイスンとメディアは、ギリシア神話の英雄イアソンと、その恋人となった魔女メディアの名前そのままです(英語では、そうなるはずです)。
これだけ、登場人物の名前に凝っていますのに。
よりによって主人公の名前が、ジェーン……英語圏で、最も平凡な女性名の一つだなんて。
その秘密は、最後まで読むと、わかります。
「ああ、これがやりたかったのね、作者さんは」と思いました。
仕掛けがわかっても、楽しめました(^^)
母親の名前がデーメータ(デーメーテール)というのが、示唆的です。
ギリシア神話のデーメーテールには、ペルセポネーという娘がいました。ペルセポネーは、母親と二人で、無邪気に、楽しく暮らしていました。
それが、ある日、突然に暗転します。ペルセポネーは、地下世界の神、ハーデースにさらわれて、母親から引き離されてしまいました。
『銀色の恋人』の物語は、このギリシア神話を下敷きにしています。
母親べったりだった娘が、どうやって自立してゆくのか?
そこに、ロボットが、どうからんでくるのか?
作者のタニス・リーは、さすがに名手ですね。
古い物語の型を、見事に料理して、私たちに差し出してくれています。
じっくり味わって、お楽しみ下さい(^^)
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