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風呂とペチカ―ロシアの民衆文化


風呂とペチカ―ロシアの民衆文化

 ロシア、ウクライナ、ベラルーシの文化に関する本です。
 風呂とペチカは、どちらも、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの文化を語るのに、欠かせないものです。

 多くの日本人には、風呂はともかく、ペチカは、馴染みがないでしょう。

 ごく簡単に言えば、ペチカとは、台所にある炉【ろ】です。
 日本の台所にあるガスコンロみたいなものを、思い浮かべてはいけません。
 ロシア、ウクライナ、ベラルーシのペチカは、もっとずっと大きなものです。中に人が入れるほどです!

 ペチカは、調理場であり、暖房器具であり、風呂場でもあります。家の中の消毒に使うこともあります。
 「それは、いったい、どんな炉?」と、不思議に思いますよね。

 そう思ったら、ぜひ、本書をお読み下さい(^^) ロシア、ウクライナ、ベラルーシ民衆の生活に、欠かせないものだ、とわかります。

 風呂のほうは、どうでしょうか?
 じつは、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの人々は、ヨーロッパ人の中にあっては、例外的に風呂好きとされています。
 日本人の感覚で言えば、普通のヨーロッパ人が、風呂に入らなさ過ぎるのですが(笑)

 風呂といっても、日本の風呂とはだいぶ違います。ロシア、ウクライナ、ベラルーシの伝統的な風呂には、浴槽がありません。「お湯につかる」という風呂ではないのですね。

 ロシア、ウクライナ、ベラルーシの風呂は、蒸し風呂です。熱した石に水をかけて、蒸気を発生させます。その蒸気を浴びて、風呂用のはたきで体を叩き、垢を落とします。

 かつてのロシア、ウクライナ、ベラルーシでは、川べりに、たくさんの風呂小屋が建っていました。普通の家とは別棟になった風呂場です。
 都市部では、公衆浴場がありました。庶民でも、安い値段で入ることができ、体を洗ってくれる職業の人もいました。江戸時代の銭湯にそっくりです。

 風呂小屋は、体を洗うだけの場所ではありません。出産は、そこで行なわれました。病気の治療が行なわれることもありました。亜麻を紡ぐ場所にもされました。占いやまじないの場所ともなりました。
 要するに、風呂小屋は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの民俗が、凝縮されているところでした。

 そのために、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの風呂場には、独特の妖怪―妖精といったほうがいいかも知れません―バーンニクが棲む、といわれました。
 バーンニクは男性ですが、風呂場には、バーンニツァやオブジェリーハと呼ばれる女性の妖怪(妖精)もいるとされました。

 ロシア、ウクライナ、ベラルーシの民話を読む方は、本書を読んでおくといいです。
 妖怪や妖精に興味がある方も、読んで損はないでしょう。
 もちろん、世界の風呂の文化に興味がある方は、本書を読むべきです。風呂が好きなヨーロッパ人は、古代ローマ人だけではありません(^^)

 以下に、本書の目次を書いておきますね。

まえがき

第一章 北ロシア・中部ロシアの風呂
 ロシア式風呂小屋の構造と機能
 風呂小屋は古代住居の再現
 灼熱の石で水を沸騰させる方法
 ペチカで蒸気浴
 ペチカの中で蒸気浴をする伝統がある地域
 ロシア式風呂の成立
 ロシア式風呂の発祥地を探る
 二種類の蒸気浴の地理的考察
 ペチカの中で蒸気浴をする習俗はいつ始まったか
 入浴と蒸気浴の普及に見る歴史的法則性
 ノヴゴロドの風呂の分布
 ペチカでの蒸気浴から風呂小屋での蒸気浴へ
 風呂の習俗について

第二章 南ロシアの生活にみる風呂とペチカ
 風呂の発達
 ロシア式ペチカ

第三章 モスクワとモスクワ郊外の風呂
 十七世紀から十八世紀にかけてのモスクワの風呂
 家の風呂と屋敷内の風呂
 十九世紀の浴場
 二十世紀から二一世紀にかけての風呂

第四章 民間療法における風呂とペチカ
 民間信仰の世界における風呂
 ペチカでの治療
 ペチカと風呂小屋での出産
 風呂小屋での蒸気浴と治療
 医療専門の浴場
 農民の風呂
 二十世紀の風呂

第五章 風呂小屋でのゲームと占い

おわりに
訳者あとがき




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