不知火【しらぬい】・人魂・狐火
日本に限らず、世界各地で、昔から、不可思議な火が目撃されていますね。火の妖怪といってもいいかも知れません。それらを取り上げた本です。
とはいえ、怖い本―怖がらせようとしている本―ではありません。
あくまで冷静に、科学的に、それらの正体を突き止めようとしています。
超常現象を、懐疑的に探求している人にとって、この本は、必読ですね。
すべての「不可思議な火」の正体が、解明されているわけではありません。
けれども、かなりの部分で、いい線に行っています。
少しだけ、ネタばれをしてしまいましょう。
この本では、多くの「怪火」の正体を、「松明【たいまつ】や提燈【ちょうちん】の見間違い」としています。
「そんなばかな話があるか」と、怒る方がいそうですね。
「そんなものの見間違いだったら、とっくに正体がわかっているはずだ」とか、「そんなに見間違いばかり、起こるわけがない」とか、いくらでも反論がありそうです。
しかし、人間の感覚というのは、当てにならないものです。
見間違い、聞き間違い、記憶違いなどは、誰でも、いつでも、どこでも、起こします。
この本では、さまざまな「怪火」を、実例を挙げて、解説しています。
冷静に読めば、「なるほど」と思うことばかりです。
おおむね、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という状態です。
挙げられる実例は、昭和初期以前の、古いものです。
これは、仕方ありません。なにしろ、本書自体、最初に出版されたのが、一九三一年(昭和六年)ですから。
今から八十年ほども前に、こんなに科学的な態度で、「妖怪」に接していた人がいることに、驚きました。
出版が古くても、本書の内容は、古びていません。
「狐火が出た」という話は、つい最近まで、山里では、よく聞かれました。UFOという名の「怪火」は、ひんぱんに目撃されていますね。
現代でも、私たちは、ありふれたことに、「神秘」を見てしまいがちです。
本書の内容が古びないのは、私たちが、迷信深い証拠ですね。残念なことに。
以下に、本書の目次を示しておきます。
序
一 狐火
1 見当違いの狐火
2 正統派の狐火
3 骨の狐火
4 いわゆる骨の燐【りん】
5 いわゆる燐【りん】の狐火
6 提燈【ちょうちん】の狐火
7 河口湖畔のいわゆる狐火
など
二 鬼火
1 古い文献
2 いわゆる血燐の鬼火
3 元素の燐【りん】
4 血の中の燐
5 糞小便の中の燐
6 イワシ、ニシンの中の燐
7 燐化水素
など
三 人魂
1 幽霊と人魂
2 人魂の尾
3 人魂の解釈
4 燐化水素
5 メタンガス
6 いわゆる無熱のガス体
7 いわゆる経験
など
四 火柱
1 いわゆる火柱
2 火柱の迷信
3 イタチの吹気
4 流星の火柱
5 彗星か流星か
6 いろいろの火柱
7 火柱に似た垂直暈【すいちょくうん】三つ
など
五 蓑火【みのび】
1 文献
2 燐【りん】の蓑火
3 菌糸の光
4 光の反射
六 猫の眼玉
1 いわゆる猫の怪
2 反射の光
3 毒蛇の眼玉
七 女髪の火
1 女の頭髪から火が出る
2 いろいろの経験
3 摩擦電気
八 セント・エルモの火
1 火の由来
2 伊吹山の「不思議なる怪光」
3 火の観察
4 人造のセント・エルモの火
5 セント・エルモの火の正体
九 火の玉
1 空中電気
2 火の玉の暴力
3 日本の火の玉
4 球状電光の正体
十 不知火
1 伝説
2 出たらめの伝説
3 不知火の文字
4 不知火の年齢
5 いわゆる不知火
6 文献の批評
7 研究史
など
解説
付録
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