アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
SF小説の名作かつ古典といわれていますね。
映画『ブレードランナー』の原作としても、有名です。
しかし、本書を読むと、映画との違いに驚かされると思います。基本設定は同じですが、まったく違う作品だと感じるでしょう。
映画を見てから本書を読んだ方は、「原作のほうがいい!」とはまってしまうか、逆に「こんなのやだ」と拒絶するか、はっきり分かれる気がします。
私の場合は、原作を読んでから、映画を見ました。
「あの原作を、こう処理するのか! うまい!」と驚き、感心しました。
本書の世界観は、暗いです。環境破壊が進んで、野生の生き物がほとんどいなくなった世界です。人間社会では、実物の生きている動物を飼うことが、ステータスになっています。でも、お金がない人は、実物そっくりのロボット動物で、我慢しています。
そういうディストピアものが好きな方には、お勧めです。
本書にあるディストピア的世界は、東日本大震災後の日本で、現出しています。
本書の世界では、放射性物質の降下状況が、日々、ニュースで流されています。まるで、現在の東日本のように。
SF作家の想像力のなせるわざですね。世界と私たちとの関わりについて、本書は、とても示唆的です。
心理的な描写も、優れた作品です。人間とアンドロイド(人間型ロボット)との差である「共感能力」とは何か? 考えさせられます。
つい最近のニュースで、ラット(ネズミの一種)にも、共感能力と呼べるものがあるとの研究結果が出ました。
ネズミはとても仲間思いだった、米大研究(AFPBBニュース、2011年12月12日)
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2845393/8192184
ネズミにあるくらいなら、動物、少なくとも、多くの哺乳動物には、共感能力がありそうです。
本書の著者、ディックは、むろん、この研究結果を知りませんでした。
にもかかわらず、「本物の動物」と、「ロボット動物」とを分けるものとして、共感能力を挙げています。
ヒトという動物にとって、共感能力が、いかに大切か、ディックは自覚していたのでしょう。優れたSF作家とは、こういうものなのですね。
奥深い作品なのに、文章は難しくありません。読みやすいです。これについては、翻訳者さんの力量も、素晴らしいと思います。
東日本大震災後の今こそ、読まれるべき作品ですね。