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推し活翻訳14冊目。The Sleeper and The Spindle、勝手に邦題「ねむり姫と糸車」

原題:The Sleeper and the Spindle(Bloomsbury Publishing)
原作者:文 Neil Gaiman、絵 Chris Riddell
勝手に邦題:ねむり姫と糸車
 
概要と感想
 
クイーンが治めるカンスレール国と隣のドリマール国のあいだには、鳥さえ飛び越えられない高い高い山脈が連なっています。山越えのルートを見つけられれば、ドリマールの絹やカンスレールの赤ワインで一儲けできるはずと、どちらの国の商人たちも思っているのですが。
 
そんな人間たちを尻目に3人の小人が地下を進み、ニワトリの卵ほどもある大きなルビーの原石を運んでいます。ルビーと最高級の絹を交換して、クイーンに贈ろうというのです。自分たちが掘り出した宝石より、長い道のりを越えて届ける絹のほうが贈りものにふさわしいと思っているから。
 
いっぽう、結婚式を一週間後に控えたクイーンの心は晴れません。城の外では、大工たちが結婚式の見物席を作る音がしていて、胸にずしんずしんと響きます。結婚は、人生の終わりではないでしょうか。
 
ドリマール国についた小人たちが、ギフの町の顔なじみの宿屋を訪ねると、早朝にもかかわらず多くの人たちが集まっています。みんな不安げで、口々に国に広がりつつある「ねむり病」のことを話しています。伝染病だという者もあれば、魔女や妖精の仕業だという者もいます。もう逃げ場はないと、飲んだくれている客もいます。
 
小人たちが目指すドリマール国の首都には、深い森に包まれ、バラに囲まれた城があります。言い伝えでは、60年前とも百年前ともいわれるあるとき、姫の誕生を祝うパーティーにまねかれなかった魔女の呪いで、姫も王も女王も、城にいるすべての人が眠りに落ちたとのこと。その後、多くの勇敢な人々が城へ向かいましたが、深い森に阻まれ、だれ一人、もどってきた者はいないのです。
 
長い年月のあいだに森はいよいよ深くなり、そしていま、「ねむり病」がすさまじい勢いで国中をおおいつくそうとしていました。もちろん、小人たちは魔法の生きものなので、無事にクイーンのもとへもどります。
 
クイーンはウエディングドレスの試着中で、雪より白いドレスは、レースとリボンをつければ完成です。結婚式は明日にせまりました。けれど、小人たちの話を聞いたクイーンはこう問いかけます。
 
「わたしがそこへ行ったら、ほかの人たちと同じように眠ってしまうと思う?」
 小人の一人が答えます。
「姫さまは、一年もお眠りなさった。にもかかわらず、ちゃんと目を覚まされた。あそこで眠らずにいられる人間がいるとすれば、あなたじゃろ」
 
城のまわりは明日の結婚式を待ちわびる人たちで大賑わいですが、クイーンは、式の延期を決めます。そして、国境の山脈に近い町に避難するようおふれを出し、筆頭大臣に自分が不在のあいだの国政を任せ、悲しむ婚約者の可愛らしいあごをそっと持ち上げて、笑顔がもどるまで口づけします。
 
それから、鎖帷子と剣と食糧と馬を用意させ、小人たちを伴って、城を出発したのです。ねむりに飲みこまれつつある隣国ドリマールに向けて。
 
              ☆  ★  ☆
 
この作品は、まず、クリス・リデルの絵に圧倒されました。モノトーンに渋めのゴールドが利いていて、緻密で、美しくて、息がつまるほど。ダストカバーの作りもちょっと凝っていて、部屋のインテリアになりそう。
 
初めて見たときは物語に集中できず、つい最後まで絵を眺めてしまったくらい。それも、二度。そして、タイトルと絵から、「白雪姫」と「眠りの森の美女」をフュージョンした大人向けの百合テイストの童話なのだろう目星をつけて読みはじめ、三度裏切られました。ですよねー、ニール・ゲイマンですから。
 
絵本って、絵と文章のバランスがしっくりくるものになかなか出会えないと感じているのですが、この作品は、絵の濃密さと物語のトリッキーさが、あっているのかいないのか(笑)不思議な効果を生んでいると思います。

この二人でなければ表現できない世界をお楽しみあれ。
 
受賞歴:CILIPケイト・グリーナウェイ賞


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