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冬の日、地を這って北海道へゆく


雪国で暮らすって、どういうことなんだろう。

そう思ったのは1年前、真冬の道北を訪れた時のこと。のぼせそうなくらい暖かい列車から銀世界を眺めていて、これではあまりにも快適すぎると感じた。「雪国の厳しさを感じたい」そう思った私は、除雪バイトに応募した。

滞在先は、北海道天塩郡幌延町の問寒別という人口約200人の小さな集落。飛行機でビューンと行ってもよかったのだが、せっかくなので地を這って行くことにした。

▼逝き方
東京→青森  深夜バス
青森→函館  フェリー
函館→問寒別 電車

12/26の夜に東京を出発して、12/27の朝に青森着。そのままフェリーで函館に移動して1泊し、翌朝“始発兼終電”に乗り込んで問寒別まで直行するルートだ。


22:20東京発の深夜バスに乗り込む

12月26日、東京駅の鍛冶橋駐車場から青森駅行きの深夜バスに乗り込む。待合室は帰省客らしき人で溢れかえっていて、車内はほぼ満席だった。出発時刻は22:20、到着時刻は翌09:35。夜が明けて、カーテンの隙間から外を覗くと真っ白な世界が広がっていた。

高速バスからの景色

Googleマップを見ると、現在地は青森県弘前市。もうこんなところまで来たのか。

まだ暗い朝の車内

深夜バスってのは本当に素晴らしい乗り物だ。寝ている間にこんなにも遠くまで運んでくれて、朝着だから時間を有効活用できて、それでいてリーズナブル。休憩所で伸びをすると、体からガギゴギとおぞましい音が鳴った。

青森駅から港へ。バスを逃したのが運の尽き

予定時刻から少し遅れて青森駅に到着。バスを降りた瞬間、東京とは比べものにならない冷たい風がビュンッと吹き抜ける。

青森駅前

さて、ここからバスに乗って青函フェリーターミナルに向かう。ターミナル前に着く「ねぶたん号」に乗りたかったのだが、ぼーっとしていたら逃してしまったので、別のバスに乗って「木材港前」というバス停で降りて10分ほど歩くことに。

雪国のバスは暖かい

ウキウキでバスに乗り、車窓から見える非日常的な景色に感動し、これから始まる旅に胸が高鳴る。木材港前に着いて降車したところで、「 あ゙  」と声が出た。

「あ゙ 」

歩道の雪がふかふかで、キャリーケースの車輪が埋もれてコロコロできないのだ。海外旅行用に購入した大きなキャリーにはぎっちりと荷物が詰め込まれていて、引っ張るとキャリーが雪をキャッチしてさらに重くなる。さっきまですいすい運べていた便利な鞄は、ただの重い箱と化した。

港はまだ遠い

仕方ないので両手で持ち手を掴み、後ろ向きに歩いてゆく。雪だらけの道は車道と歩道の境目が分からず、「おっココ踏み固められてて歩きやすい♪」と思ったらいつの間にか車道に居てクラクションを鳴らされることも。とはいえ歩道は雪に埋もれているので、ペコペコしながらキャリーを引いて爆走する。

キャリー重すぎて捨てようかと思った

出港時刻ギリギリでターミナルに到着した。真冬に汗だくの女、肩で息をしながらチケットを購入。バカみたいに重いキャリーを抱えて階段を上り、ようやく転がせると思って持ち手を引っ張ると、

あ、壊れた。全然まだ旅の途中なのに。というかむしろ序盤なのに。

荒れ狂う津軽海峡冬景色

昨晩から何も食べていないからお腹がペコペコだ。船内の自販機でシーフードヌードルを買って、お湯を注ぎ、3分間津軽海峡冬景色を眺める。

汗が冷えて寒くなってきた

蓋を開けて、麺をすくい、フーフーして、口に運ぶ。
あ〜沁みる。やっぱこれだね。空腹に放り込むカップヌードルは、脳のどこか気持ちいいところを刺激してくる。

トリコロールの椅子

子どもたちが「迷宮だ〜!」とはしゃぐ声が聞こえる。青函フェリーはそれほど大きな船ではないけれど、小さな彼らにとっては豪華客船のように大きく、ロマン溢れる乗り物なのだろう。

窓辺に佇む異邦人

空腹が満たされたので、壊れたキャリーのことは一旦忘れて眠ることにした。客室に横たわり、フェリーにありがちな高すぎる枕に頭を乗せて目を閉じると、いつの間にか眠りに落ちていた。

坂本冬美大暴れ

バン!という爆音で目を覚ます。ただごとじゃない音と揺れに驚き窓を覗くと、海水がじゃぶじゃぶとデッキに流れ込んでいた。かなり揺れているが特にアナウンスがないということは通常運転なのだろう。これが津軽海峡冬景色か……。ゴンゴンと音を立てながら、荒波の中を進んでゆく。

北海道の寒さは別格で

函館港に到着した。アホみたいに重いキャリーを持って階段を降り、外に出ると、キュッと冷えた空気が全身を包む。青森よりさらに寒い、というか別格。みるみるうちに手足の指先が冷えてゆくのを感じ、急いでバスの待合室に避難する。

粉雪舞う函館港

バスで函館駅前まで移動し、予約していたビジネスホテルにチェックイン。年末で観光客が増える時期だが、宿泊料金は1泊3,600円とリーズナブルだ。

暖房の効いたロビー

荷物を下ろし、一旦ベッドにダイブする。深夜バスで体はガギゴギだしキャリーは壊れるし船は揺れるしずっと寒いしで大変だったけど、とりあえず一安心だ。暖房で部屋が暖まってきて、体の強張りがほどけてゆく。

一番落ち着く広さ

うと、うと。このまま眠りに落ちたらどんなに気持ちいいだろう……

部屋からの景色

眠りに落ちる一歩手前でガバっと体を起こす。そうだ、私は函館で成し遂げなくてはいけないミッションがある。

函館での最重要ミッション

牡丹雪が降る中、ポケットに手を突っ込んで歩く。雪国でそんな歩き方をするなんて愚かだという自覚はあるが、家に手袋を忘れてしまったので仕方がない。少しでも素手を出して歩こうものなら指がちぎれそうになる。

函館駅前

函館のミッションといえば……そう、やきとり弁当を食べることだ。やきとり弁当は、私が北海道で、いやこの世で一番おいしいと思う食べ物だ。

この旅程を決めたときからやきとり弁当を食べることを楽しみにしていた。実はフェリーに乗っていた時も「もうすぐやきとり弁当が食べれる」と思ってドキドキしていたのだ。

吹雪くハセガワストア

ロマンチックな牡丹雪はいつの間にか吹雪に変わっていて、ブルブル震えながらハセガワストアに到着。駅前の店舗だから観光客が多いのだろう、外からでも店内が賑わっている様子が伺える。

やきとり弁当は店内調理

入店してリンゴジュースと菓子パンをテンポよく手に取り、やきとり弁当注文用紙への記入を華麗に決め、常連ヅラでレジに向かう。「ミックス2つと、塩ダレ1つで」。勢い余って3つ買った。

左から、やきとり弁当、やきとり弁当、やきとり弁当

胃袋は1つしかないし、キャパ的にも1個が限界だったけど、溢れる気持ちを抑えられなかった。こんなにも恋い焦がれていたのに、1個しか買わないわけにはいかない。2つは冷蔵庫で冷やして、明日の移動中に電車で食べよう。

つやつや

やきとり弁当を一口頬張ると、豚バラの甘い脂と塩ダレの旨味が口の中に広がって、至福、昇天、合掌。あっという間に食べ終えてしまって、このままもう1つ食べれそうだったが、やきとり弁当は空腹時に食べるのが最もおいしいので我慢して床についた。

さあ、明日は早起きだ。函館から問寒別に1日で行くには始発兼終電に乗る必要がある。すなわちその1本を逃したらTHE・END。緊張感が高まる。

明日もやきとり弁当がおいしく食べれますように。

つづく



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おさつ
一緒に旅をしている気分で読んでいただけたら、この上なく幸せです。