コートとわたしと修学旅行
「寒い、風邪ひく……」
ガタガタ震えながら、わたしは自転車をこぐ。
am 6:15
なんでこんなことに……。
口からこぼれたぼやきは、朝焼けの綺麗な空に溶けていった。
もうネタなんじゃない？ 笑えてきた。
とはいえ、熱いお風呂が恋しすぎる。
さかのぼってみよう。
am 4:30
アラームが鳴る前に目が覚めた。
まだ朝日も登ってない。
空は暗いし、なんだか寒い。そりゃそうだ。今日から11月である。
もう冷めてしまった湯たんぽを再度抱きしめて、
わたしの体温を取り戻した。
二度寝しようかな。
でも、
寝て起きれなかったら修学旅行に遅れる。
「僕のこと起こしてよね！」
と
昨晩、21:30に喜び勇んで布団に入ったのは、小6になった息子だ。
小3のときに不登校をし、運動会も参観日も全てでなかった。
とはいえ、本人は「保健室登校だし！」と今だと言うが、
当時のブログを振り返ってみると、
わたしには「消えたい」「いなくなりたい」と、吐露していたのだから
決して簡単に乗り越えたわけじゃないと思う。
am 5:00
いつも通り、
メールチェックに始まり、
各種SNSからの問い合わせの有無や
仲間たちの投稿をチェックする。
とはいえ、わたしはマメじゃないので、投稿を目にしていたとしても覚えていることは稀。
am 5:30
そろそろ起きるかぁ、と、もそもそしていたら
隣の部屋から音が聞こえてきた。
起こさなくても起きたらしい。
「おはよう」
「ん、おは」
ちょっと鼻声は気になるけど、これくらいなら大丈夫なはず。
一緒に階段を降りて洗面所へ向かったのだ。
am 6:00
外気温14度
「早く！遅れないけどもう行きたいの」
「わかったから」
半ズボンに、長袖インナーに、トレーナーという息子。
わたしは、
自転車だからと、
父からもらった太もも丈のコートに
マフラーと耳当て。しかも、サロペットの中にはスパッツも履いている！
外気温15度を下回ったら、やばいくらい寒いから。侮っちゃいけない。
高校時代、北海道でいやと言うほど経験済みだ。15度はかなり重要なボーダーラインなのである。
いざ、出発！
自転車でたった10分の距離だ。
1キロしかないから飛ばせば5分ちょっとで着く。
「さみぃ」
「ん？なに？」
「ママ、僕寒い！」
「長ズボンは？」
「なかってん！」
ないわけない。
ジャージ至上主義の息子は、デニムを嫌がる。だからないだけ。実際は、あるのだ。
「なかったの？」
「そう。だからくっつく！」
と、
わたしの背中にくっついていた。
いつまでくっついてくれるのか、これも終わりが来るのだ。今だけは楽しんでおこう。
「水筒の中身、あたたかいお茶なんだから飲めば？」
「それはいや」
あっそう？
よくわからない息子である。
やっと学校に着いた。
息子と荷物を下ろし、帰ろうとしたら
「ママ！ 僕、寒いからコート貸して」
「えっ？」
「明日まで寒いやんか。明日の朝もさ、着たくてもコートないしな。借りるわな」
と。
ごもっともな理由だけど。
父からのコートだし、君が着ても引きずらないけど。
「わぁ……あったかーい！」
と、
着て行った。
「ねぇ、見送りは？」
「いらないよ！寒いし帰ってあたたまってね！」
我関せずの息子である。
いや、寒いのは、君がわたしのコートを奪ったからだよ。
そりゃぁ、わたしはあと帰るだけだし？
仕事までの間に、熱いお風呂に入る時間もあるけど。
気を取り直して、自転車を漕ぎはじめた。
いや、これ無理。
本当、極寒！
速度なんか出せない。
寒すぎる。
現在
耳当てに、マフラーに、
GUの薄手タートル。
防寒が偏りすぎ！
帰ってきてお風呂のスイッチを入れた。
そして、まだ寝てた娘の顔を
冷たい手で触りまくって起こす。
「娘よ、聞いてや」
「なに？」
「さむいの、寒すぎるの！」
かくかくしかじか。
ここまでの経緯を説明する。
「にいちゃんらしいけど、ママは寒いなぁ」と
娘はぼわん、としたまま言った。
寝起きでボケボケして、ぬくぬくな娘。
カイロがわりにさせてもらいました。
本当、寒かった。
朝は冷えますね。
元気に行くなら、コートくらい貸してあげるけど、ママは寒かったわ。
元気にいってらっしゃい！
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