【女子高生エッセイ】『沼落ちJK、カルボナーラにハマる🍳』
昔から麺類は苦手だった。
そばから始まり、うどん、そうめん、パスタ、ラーメン。
そんな麵嫌いの幼少期を過ごした私。
今、一番好きな料理を聞かれるとカルボナーラと答える。
お寿司や焼き肉みたいな豪華なものも大好きだけどたまにがいいから。
カルボナーラは意外と重い食べ物らしく家族と外食に行くときに頼むと軽いのにしときなさいと言われることがある。
一理ある。
毎回私が食べ終わった後にお腹が膨れて苦しいと不満を垂らすからだ。
その一連の流れを含めてカルボナーラが好きなんだけど。
麺が苦手でパスタ料理屋に行ってもラーメン屋に行ってもサイドメニューで胃を満たしていた私。
カルボナーラを好きになったのは明確な理由がある。
高校一年生、テスト期間で午前中に学校が終わり仲の良い友人と昼食を食べに行くことになった。
ファミレスでお馴染みのサイゼリア。
学校からは歩いて15分。
友人は自転車をゆっくり漕いで電車通学の私の歩くスピードに合わせた。
どうやら降りるのは面倒らしい。
私の教科書がパンパンに詰まったリュックをひょいと取り上げ自転車のかごに入れた。
「今日も相変わらず重いな」
夏の日差しに照らされながら笑う友人の横顔を何故だか懐かしく思った。
日光が私の肌をジリジリと焼いて小麦色に変わりかけた時期のこと。
友人は自転車をふらつかせながら漕いで汗を数滴白い制服に垂らした。
真剣に自転車を漕ぐ友人は知らない人のようにも見えた。
何か一言かけたくなって当たり障りもない言葉を投げた。
「テスト嫌だね」
「わかるよ」
友人は吐息の少し混ざった声で答えた。
「でもテスト期間は好き」
「なんで?」
友人は前を見つめたまま不思議そうに尋ねた。
「だって長い時間話せるやん」
「ふーん」
友人は右隣の私に目をやったあと嬉しそうに相槌をした。
気づいたら目的地に到着して重いリュックを背負いなおして店内に入った。
「さむ」
冷房の効いた涼しすぎる部屋にひとつ文句を言った。
友人はやめておけと言わんばかりに私の背中を一つ叩く。
私は背筋を伸ばして店員さんに二人だと伝えた。
店は平日の昼間ということもあり空いていて同じ学校の制服がちらほら見えるくらいだった。
よくわからない洋楽が店内に響き渡っているが誰も気に留めずおしゃべりに集中しているようだった。
案内された席は片方がソファでもう片方は木の椅子だった。
究極の選択に思えたところを友人はサッと木の椅子に腰を掛けた。
気が利くとはこのことだと思った。
メニューを開いてピザのラインナップを見る。
「ピザの気分なん?」
「まあ、うん」
「そっかそっか、パスタにしよっかな」
「いいやん」
「いいやんって言うけどパスタ苦手なんやろ」
「そやで」
「食べてみんか?」
「あーまぁいいけど」
そこでおすすめされたのがカルボナーラだった。
当時は卵もそこまで得意じゃなかったので断ろうと思ったが余ったら食べると言い張る友人の言葉を信じて注文をした。
友人はマルゲリータピザ。
当時の私が一番好きな料理だった。
料理が届くまでは伸びた前髪の話や面白くなかった映画の話、流行っている漫画の話をした。
マシンガントークを繰り広げている友人を見ながら明日には私とした話を忘れて同じ話を繰り返すんだろうなと思う。
私が毎回初めて聞いたみたいなリアクションをするのが悪いんだろうと自分を戒めた時に料理が届いた。
おいしそうだった。
マルゲリータが。
私の目の前に置かれた黄身の乗った麵料理に特別な感情は抱けなかった。
「いただきまーす」
楽しそうに高い声を出す友人を見て私も手を合わせた。
「いただきます」
どこかのユーチューブで得た知識を思い出しながらフォークとスプーンを使って麺をゆっくりと巻き上げた。
パクっと口に放り込む。
ん?
え?
美味しい。
この感覚が何なのか確かめたくてもう一度同じ工程を行う。
麺に纏わりついているソースが食欲を湧かせた。
何度口に入れても感想は変わらなくてつるつるの麺に心を奪われていった。
「たまご、そろそろ割りなよ」
友人の声が脳へと伝わり現実に引き戻された。
こんなに美味しいのに黄身で味が変わったら…。
いや信じよう。
ええい!
黄身がとろっと麺の隙間に流れ込みソースがより濃厚な色に変わった。
勢いよく麺を口の中へと入場させる。
とろみのある半熟の卵が麺と絡まり合って今まで味わったことのない味の深みがあった。
次に脳が動いた時には目の前の黄色に輝く宝物は私の食道へ完全に取り込まれていた。
マルゲリータも友人もどうでもよくなった。
あの日からカルボナーラの虜になってしまった。
地元のカルボナーラが美味しいお店を教えてもらっては足を運んだ。
自分の15年間をしっかり恨みながらカルボナーラを噛み締めた。
来世はカルボナーラの存在に早く気づける赤ちゃんになりたい。