東京の名建築探訪②
前回の安藤忠雄建築からの「知ってるけど行ったことない東京の建物」に行ってみようと、前回と同じ先輩あっきーさんと朝の築地本願寺からスタート。まずは外から建物を堪能しようということで、名物の「18品の朝ごはん」をいただく。予約しないと食べられない人気のメニュー。まさかの当日キャンセルが出て、奇跡的に食べられた。先輩と「今日はラッキーな日かもしれないですね」なんて言いながら、からだに優しい朝ごはんと一緒に青空の下でどでーんと存在している築地本願寺を眺めた。
築地本願寺では演劇をやったりするため、それで知っていたけど中に入ったことがなかった。建物に近づくと、ステンドグラスが大きな扉の上にあったり、中に入る前から柱の大きさや細工に見入ってしまい、何度も訪れてるらしき人たちにどんどん追い越されていく。「建物を見に来た」という目的があると、時間を忘れて普段目に入らない箇所まで入ってくるのが名建築探訪の面白いところ。なんて、2回目なのにわかったように言いたくなるくらい、時間をかけて凝視しているし、それくらい建物が実は好きだったのかと自分の発見にもなっている。
そんな凝視テンションで本堂の中に入ったからか、ガイドさんのような方が丁寧に説明し始めた。初めてだったからこれが当たり前なのかと思って周りを見ると、説明を受けているのは私たちだけだった。構造や経緯など建物探訪が目的の私たちにはとてもラッキーな解説。おかげで柱にある彫刻や掛け軸などいろんな秘密を知れた。
扉ってその先にも世界があるから開けたくなるのか。地元にいたら「ロマンチストかっ!」ってツッコまれそうなことを思いつくくらい歩き回り、不意に現れたヨーロッパのような中庭に癒されながら築地本願寺のあらゆる建物を堪能した。なんだか「建物」を見に行くと、他の場所の細部も気になって自分の視点が変わってるのがわかるのも面白い。帰りにまた本堂に戻って、ガイドさんにお礼をした。「まだ居たんだ」って思われてるかもしれないくらい探検できた。
この気持ちのまま、やっぱり一つ安藤忠雄建築に行こうとなり、気になっていた上野にある国際子ども図書館に向かった。上野駅って美術館が目当ての時しかなかなか行かなくて、そういえばちゃんと歩いたことがなかった。それが少し損してたんじゃないかと思うくらい、いつも行く美術館の裏にあまりに煉瓦の建物が多くて、タイムスリップしたのかなってくらいあちこちに時代を感じられる建物があった。全然知らなかった子ども図書館は突然顔を出した。「え?」って思わず声が出るくらい圧巻の存在感だった。多分どこかで「図書館だし」とか思っていたのかもしれない。想像を超えて、過去と現在の融合のような建物だった。
写真に全く入りきらない圧倒的立派さ。中に入ると思わず天井を見上げたくなる。階段、手すりにもこだわりが見えて触りたくなるし、何より驚いたのが一つ一つの部屋の建築にご丁寧に説明を書いてくれていた。「鏝絵」の天井の絵本コーナー。ここ、最初「うなぎ」と読んでしまい、天井見上げながら一瞬うなぎの尻尾で描いてるのを想像したのはあまりに恥ずかしくて隣の先輩には言えなかった。ちゃんとふりがなを確認し、改めて「こて絵」の浮き彫りの繊細さに感動した。建物には機械の技術では再現できない人間の技術の賜物が残っている。
本が置かれていない大広間の奥に外に出られる空間があった。先輩と出てみると、よくあるベランダくらいの大きさの張り出し窓で、落ちないように設計されつつも左右で外壁を触れるようになっている。実はこの図書館、レンガ棟と2015年にできたアーチ棟に分かれていて、どちらも安藤忠雄さんの設計。レンガ棟に関しては、明治39年に建てられた旧建物の内外装の構造をなるべく生かしつつ、改修と増築が行われたらしい。この空間ではその旧建物を生かした彫刻を間近でみて触れる仕掛けになっていた。建物を感じさせてくれる空間を作ってくれたことに感謝した。
古き建物を再現し、守り、体験させてくれる。普段なかなか彫刻を触れることはないし、触りたいと思えるタイミングも日常あまりなかったりする。薄々感じていた「レンガが好き」というのも今回で確信になった。
アーチ棟では先輩が気づいて教えてくれたことがある。大人が読む本も置いてあるそこは、こどもの本のところに向かって天井が低くなっていると。天井が傾いてるなってくらいで、そんな風に私は気づけなかった。低くなっているのに空間が狭いと感じさせないのも不思議だし、そんなかわいい仕掛けに気づかせてもらえてよかった。一人じゃないといろんな視点に出会えるのも面白い。
帰りに東急東横線の渋谷駅も寄ってしまった。普段見ない天井やあえてある空間を覗いてみる。安藤忠雄建築は毎日多くの人が通過する場所にもしっかり根付いていて、改札を入るところは大きなクジラの中に入っていくような感覚になる。安藤さんは「地宙船」「地下のたまご」をイメージしたらしい。ここから何かが生まれてくる「たまご」。電車に乗る以上のことを考えられる駅、使う人の心の中に残る駅を作ろうと思ったと言う。ここで気づいた。安藤さんを好きなもう一つの理由。調べれば本人の言葉で意図や想いを知れるということ。昔の建築だと展示物化されてどこか客観的に見ちゃうけど、実際利用できる建物かつ今も本人の言葉を聞きながら見れるというのは、主観的に奮い立たされるものがある。こういう建築を見て、挑戦する気持ちみたいなものも一緒に受け取っているのかもしれない。建物に出会いに行くと新しい自分の視点だけじゃなく、建築家からもらう前向きな気持ちにも出会えた。