味噌作った友人と出生地が同じだった
5月29日、私は味噌を仕込んだ。手前味噌。
と言っても味噌作りキットを買ったのは12月のこと。
糠漬けをし、味噌、梅干し、梅酒を自分で作る友人がいる。私はずっと糠漬けをしたいと思っていたため、その友人がやっていたおかげで気軽にまずは糠漬けを始めることができた。始めてもう半年以上が経つ。体に良くて、楽しくて、今のところやめる理由が何もないからやめ時もない。
友人がおすすめする味噌作りも気になっていたため、とりあえずキットを買ってみた。が、これがただ混ぜて野菜を切って漬ける糠漬けとは全く違う。
材料は大豆と麹と塩だけだけど、工程が多く感じてしまい、私のやる気スイッチは点灯しないまま半年が過ぎてしまった。
「初めて」というのはやり方がわからないからってだけで、勝手にハードルが高く感じてしまう。わけもわからずとりあえず材料はすべて冷蔵していたけど、もうそろそろ作りたいなと思い、友人に
「味噌作り、ウチに来て一緒にやってほしい」
と甘えた。一人では無理だと思ったことはがんばらない訓練を去年から意識している。
すると友人は
「私も提案しようと思ってた!二人の方が楽しいしね♡」
と言ってくれた。優しい。有難い。
もっと甘えられる人間になろうという決意も固まった。
八丈島に潜った以来に会って、彼女は私の味噌作りを手伝いに来てくれた。
「初めて」は経験者がいてくれると作業がはかどる。わけもわからないまま進めるより、合ってるか確認しながら進められると自信を持って工程を追える。
こうして私のやる気スイッチを友人が押してくれた。
●
大豆を煮込んでいる時に、再配達依頼していた荷物が届いた。次の役に反映させたくて、母にお願いしたものだった。
「母子手帳、送ってもらってん」
「え、えりかの母子手帳見てみたい!」
「いいよ!」
私は家にいない日が多いため、荷物をなかなか受け取れず、再配達期限最終日のその日に受け取ることになった。母子手帳以外にも、私の「泣く」という生まれて初めての声のテープや生まれた日の写真など色々入れてくれていた。
友人は0才の私を見て「わぁ、えりかだー!」と言ったり、0才の私を抱く母を見て「え、えりかじゃん」と言ってくれても、私には「え、どこがよ」としか見えない。初めて見るものばかりで笑いながらも、あらゆるものをしっかり残している母に感心していた。
すると友人が不意に
「私、えりかと同じ病院かも」
と言った。
何を言ってるのかわからず
「え、何が?」と聞くと、
「生まれた病院」と言う。
「え、なんでわかるん?」
「だって見たことあるものばっかりだもん。このテープもこれも見たことある」
と言って、診察券を指差した。
「え、私、初めてちゃんと見るものばっかりやけど、今まで見たことあったん?」
その友人は私よりも自分の出生の資料が身近にある人だったらしい。
「えりかと出生地、一緒だよ!」
「うそやん?!そんなことある?!笑
だって今日味噌作りにウチに来なかったら、この母子手帳たちは私一人だけで見て、ヴァネと出生地一緒ってこと知らずにおるとこやったで?!
しかも私がもっと早くこの荷物を受け取れてたら、一緒に見てなかったやん。ヴァネが家にいるうちに届いたから知れたことやん」
ヴァネというのは友人のあだ名。そんなタイミングが合致するミラクルって起きるもんなんだなと思った。
「え、ちょっと待って、ヴァネ神戸ちゃうやん!」
「母親は里帰り出産だったのよ」
「そうなんや!え、ちょっと待って、出生地が同じ人とか、初めて出会ってんけど!てか、そんなん考えたことなかったわ」
「小学校の友達とかだったらいるでしょ」
「いるかもしれんけど、私の住んでた区の病院じゃないし、てかそもそも小学校の友達と出生地の話とかしたことないからわからんわ〜」
「確かに」
と出生地が同じ二人で笑い合った。
「出生地が同じ」
そんなパワーワード使ったことないし、考えたこともなかった。
こんな面白い奇跡は母に伝えたいと思って、送ってくれたお礼含めて電話をかけて、出生地の話をすると母は
「えーすごいね!!じゃあママの出産映像を見てるかもね」
と言った。母が私を産んだ様子はなぜかその病院で教育?イメージ?参考資料?映像的な感じで使われたらしい。
「その友達、年が1つ上やからその映像は多分見てないわ」
そう。私たちは年も違うし、育った県も全然違うのに、生まれた病院が一緒だったことを知った。
出生地が同じだからって何かあるわけでもないけど、そんな考えたこともない事柄に触れられて心動かされたことが何より面白かった。
そんなことをしていると、煮込んでいた大豆がいい感じに柔らかくなった。
手が離せないような作業の時じゃなく、一番時間がかかるけど手を離せる煮込み時間に荷物が届いたのも奇跡のようなタイミングだった。
おかげで楽しく味噌を作ることができた。
ここから半年以上寝かせて、この子がどう生まれ育っていくのか、私はより楽しみになっている。