◆読書日記.《ポール・ストラザーン『90分でわかるサルトル』》
※本稿は某SNSに2022年1月8日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。
サルトル解説本2冊目。ポール・ストラザーン『90分でわかるサルトル』読了。
著者はイギリスの作家で、この『90分でわかる○○』シリーズというのはイギリスでベストセラーになったシリーズであるという。
確かに、本当に90分で読み終われそうな軽い内容でサルトルの生涯とその思想を紹介している。
因みに、最近『90分で分かる〇〇』とか『〇〇が2時間で理解できる!』みたいなタイトルの本は日本でも盛んに出版されてはいるものの、たいていの場合『〇〇分で理解できる』といった時の「〇〇分」という時間に根拠はない事のほうが多い。
本書でもその根拠は書いていない。これは不当表示的なものにならないのか?
さて、本書はそんな昨今の出版界のテキトーさ事情の中でも本当に90分で読み終われそうなほどライトに、まるで小説の様にサクサクと読め、サルトルの生涯とその思想をコンパクトに理解できる内容となっている。
しかし、こういった『〇〇分で理解できる』系の本というのは、ぼく的には「短時間で知ったかぶりたい」っていうタイプの人物に利用されるだけのような気がしないでもないので、あまり好きではない。
本書もサクサク読めて面白いは面白いのだが、そのぶん皮肉を利かせたりツッコミを入れたりと、いくぶん斜に構えたような書き方によって「面白さ」を煽るようなスタンスである。
だから、サルトル初心者が本書を読んだ後「サルトルに興味がわいたぞ!」となるかどうかは疑問である。
随分と皮肉を利かせた書き方だから、本書の内容を真正面から受けてしまうと「ま、サルトルの哲学なんて大した事ないよ」と斜に構えて分かった気分になってしまう浅はかな人が増えてしまうのではと思ってしまう。
ぼくも、先日読んだ澤田直の『新・サルトル講義』を読んだうえでなかったならば、サルトルを学習するのはもうやめにしようかな、と思っていたかもしれない。
そういう、著者の「煽り」が入った、所詮ベストセラー本だと思って読んだほうが良いかもしれない。内容のほうも、けっこう偏っているかもしれない。
サルトルの膨大な著作活動の中でも、本書で説明しているのはデビュー作の小説『嘔吐』と戦中の代表的思想書『存在と無』、後は『実存主義とは何か』くらいなもので、それもかなりサラっと流して書いているので、これを読んだからサルトルの思想を理解できるとは到底思えない。
確かにサルトルは、思想を中心に書いたのでは面白みに欠ける所があるかもしれない。
しかし、サルトルはその思想以上に彼自身の人生がドラマティックで風変りにできているので、それをやり手の作家が書けば、確かに面白くて知識も身につく評伝にはなるだろう。
ボーヴォワールと奇妙な関係性などは、今読んでも非常に好奇心をそそられるものがある。
また、サルトルの生涯の前半は第一次世界大戦と第二次世界大戦の影が大きく横たわり、人生の後半には共産主義者として様々な論争であったり、ソ連や中国やキューバへの訪問、労働者の擁護、反戦運動、メディアへの露出など人目に付く動きを活発に行った。
そういう意味でサルトルは「評伝映えする人生」を送った人と言えるのかもしれない。
だが、それは彼の思想がそのまま彼の活動に反映していたのが原因でもある。彼は実践し活動する思想家であり、実践し活動する事が彼の思想でもあった。
だからこそ、社会参加し、発言し、呼びかけ、周囲に影響を与え、周囲を巻き込み、そうする事によって「自分で自分の人生を作り上げる自由」を行使していた――つまりはそれが「アンガジュマン」というサルトル思想の中心概念としてあったのである。
逆説的に言えば、サルトルは人間が「自由」であるという事を証明するために、自ら自由にがんじがらめに囚われていたのかもしれない。
――ちなみに、ぼくが実存主義やサルトルをあまり好きになれなかった理由の一つが今回何となくわかった。
実存主義にはどこかしら「人生論」的な所があるのだ。それがどこか胡散臭さに繋がっていた。逆に、それが第二次大戦後の荒廃した西洋で、サルトルの実存主義が人々の心をひきつけた理由の一つにあったのかもしれない。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?