オリカワハツセ

考えたり書いたりしてます。

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最近の記事

ショートショート『意識高い家族会議』

 只今より、定例家族会議を開始する。 「「「はい」」」  本日最初の議題は『夕食メニューのイノベーション創出による家族満足度向上施策』について。まず、現状分析を母さんからプレゼンしてくれ。 「ええ。先月の夕食提供実績をグラフ化したわ」  うむ。実に見やすく美しいグラフだな。 「カレー、ハンバーグ、肉じゃがのローテーションが全体の62%を占めているわ。明確なマンネリ化の傾向が見られるわね。満足度調査でも、『もっとバリエーションが欲しい』という声が多数寄せられているわ」  さす

    • ショートショート『寛容なレストラン』

      『当店は何をしても怒りません』  近所に新しくできた店に足を運んでみると、入り口に奇妙な張り紙があった。 「? どういう意味だ?」  首をかしげつつ、店内に入る。 「いらっしゃいませ」  満面の笑顔を浮かべた店員が出迎えてくれた。 「お客さまは何名様ですか?」 「ひとりです」 「お席の希望などはございますか?」 「ええと、できれは窓際がいいんですけど」  そうは言ってみたものの、店内を見ると窓際の席はすべて客で埋まっているようだった。しかし、 「かしこまりました」  店員は

      • ショートショート『欲深い喉(のど)』

        「最近、のどの調子がおかしいんです」  どんなふうに? 「すごくのどが渇くんです」  それは、常にですか? 「なにかに集中していると、それほど気にならないんですけど」  渇きを強く感じるときなどはありますか? 「うーん。スマホでSNSを見ているときとか、ウインドウショッピングをしているときとか、ですかね」  なるほど。その症状は心当たりがございます。 「本当ですか?」  念のため、のどを調べてみましょう。  ――『渇き喉』ですね。 「なんですか、それ」  検査したところ、

        • ショートショート『しわ銀行』

          「あなたの皺(しわ)を、預けませんか?」  いや、突然そんなこと言われても。 「当行では、お金の代わりにお客さまの『しわ』をお預かりする専用口座がございまして」  預けるとどうなるの? 「お客さまのお顔や体のしわがなくなります」  まだ、シワとか気にする年齢でもないと思うんだけど。 「二十歳を過ぎれば肌機能の低下が始まると言われております。エイジングケアに早すぎるということはございません」  化粧品でも売るみたいな語り口ね。 「現代人は食生活の乱れやストレスによる肌のハリ不

          ショートショート『うるわしい漆』

          「すまなんだな」  老職人は、枯れかけた漆の木から透明な樹液をかきとった。命をすくい取るように、ていねいに。  世界から漆の木が消えていく中、生き残っていたのは山奥にあるこの一本だけ。だが今朝、その木の葉が一斉に褐色に変わり始めた。もはや潮時だった。 「これも時代の流れですかね」  職人の弟子は笑った。 「手入れが面倒だのアレルギーの元凶だのと、そもそも漆はとうに見放されていたんです」  老職人は答えない。ただ、漆を手に工房へと消えていった。  三日後、老職人は姿を消した。

          ショートショート『うるわしい漆』

          ショートショート『都合のいい服』

           洋服のTPOって、むずかしいよね。 「まったくですな」  フォーマルとかカジュアルとかひとことで言っても、いろいろと違いがあるし。 「カジュアルOKだからといって、ジャージ姿で来られても困りますから」  最近はそのあたりの決まりごともずいぶんとゆるくなってるらしいけど、いまだに厳しい目を向けてくる人はいるからなぁ。 「相手に失礼のない装いが大事ということですな」  普段の服装だって、自分の好みとかその日の気分だけじゃなくて、行く場所や一緒にいる人たちともうまく合わせたいん

          ショートショート『都合のいい服』

          ショートショート『感情電池』

          『喜び』の電池がほしいんですけど。 「すみません。ただいま品薄となっておりまして。おひとり様一本のみの販売となっております」  えー、まあ仕方ないか。 「お急ぎのご入用で?」  今日、誕生日でさ。知り合いがパーティを開いてくれるって言うんだよ。 「素晴らしいではないですか」  この年になって誕生日を祝われてもあまり嬉しくないんだよね。騒げれば理由なんてどうでもいいって連中だから、あまり共感もできないし。 「正直めんどうくさいと」  とはいえ、形だけでも主役として招かれている

          ショートショート『感情電池』

          ショートショート『欲しがる井戸』

           ある男が、安く売りに出ていた中古一戸建てを土地付きで買った。 「よい買い物をしたな」  建物の見た目は平凡で面白みもなかったが、傷みなどはほとんどなくそのまま住めそうだ。男は安心して移り住んだ。 * 「なんだこれは」  男が新しい家で暮らしはじめて、しばらく経った後のことだった。荒れ放題だった庭の草刈りに重い腰を上げて手をつけはじめたところ、敷地の隅に古びた井戸を発見したのだ。 「つるべもあるな」  縄の先端をつかみ引き上げてみる。重い手応えとともに水がたっぷり入った

          ショートショート『欲しがる井戸』

          ショートショート『ポジティブ・フィルタリング』

           神さま、なにを見ているんですか? 「天使よ。人間というのは、とかく悩みが尽きぬものなのだな」  ああ、どうでもいいことでよく悩んでいますよね。 「誰しもがあれこれと考えすぎておるように見える。脆弱な生き物だからと知性を与えすぎたのがまずかったかのう」  考える葦、でしたっけ。人間もうまいこと言いますよね。 「最も多い悩みというのが、同じ人間同士についてというのも悲しいはなしだ」  人間関係ってやつですか。天使のぼくにはいまいちピンときませんけど。 「同類相憐れむとはいかん

          ショートショート『ポジティブ・フィルタリング』

          ショートショート『歯のコーティング屋さん』

           上司に紹介されてきたんだけど。 「はい。うかがっております」  ここって、普通の歯医者とは違うの? 「こちらでは歯のコーティングを専門としておりまして」  コーティングって、車でよくやるようなアレ? 「ええ」  そんなので商売やっていけるの? 「おかげさまでリピーターも多くいらっしゃいます」  あれこれとうまいこと言って、お金をふんだくろうって魂胆だったり。 「いえいえ。万が一満足いただけなかった場合は、料金をいただきませんので」  うーん、よくわからないものにあまりお金

          ショートショート『歯のコーティング屋さん』

          ショートショート『闇鍋奉行』

           これより、第七回定例鍋パーティを開催する。  はじめに言っておくが、今回からは主催者である私が事前に具材のチェックを行うこととする。  せっかくの食材が台無しにならぬための方策であるゆえ、みな納得してほしい。  これまでの燦々たる結果を思いかえせば、首を縦に振らざるをえぬだろうて。  では、電気を消すので各自持ち寄った具材をテーブルの上に置いて退室するがよい。 *  者ども、集まれい。  ああ、まだ調理は開始しておらぬぞ。  事前チェックをして正解であったな。あれだけ

          ショートショート『闇鍋奉行』

          ショートショート『お得すぎるアパート』

           え? 無料で住み続けてもいいんですか? 「いきなり家賃を払えといっても無理な話でしょう?」  ない袖は振れませんからねぇ。 「今すぐ出ていけと言ったところで、出来ることとできないことがあるのも重々承知しております」  ここ以外に行くあてもないですし。引っ越しとかハードルが高すぎますよ。 「今回は特例として、認めることにいたしました」  ありがたい。お世話になります。 「ただし、いくつか守っていただくべきルールがございまして」  無茶を言ってるのはこっちですから、なんでも聞

          ショートショート『お得すぎるアパート』

          ショートショート『セレブな電報』

           これはこれは坊ちゃん、いつもご贔屓ありがとうございます。  いまどきこれほど頻繁に電報を利用してくださる方は、そうそうおりませんで。  なにせ最近はメールだのチャットだのSNSだのと、手軽な手段が山ほどございますから。  自分もできるならそうしたいけど、父親が許してくれないって? さすがに厳しいお父様ですねぇ。おかげで私どもは大助かりですが。  ただ、電報ならではのメリットというのもあると思うのですよ。  安易なやりとりが溢れた昨今だからこそ、こうやってひと手間をかけたメ

          ショートショート『セレブな電報』

          ショートショート『セルフ推し活』

           ――じぶんがいちばんの「推し」にならなくて、どうするの?  朝は、SNSのチェックから。  ええと、昨日はどんなことつぶやいてたんだっけ? ふむふむ、なかなかいいこと言ってるじゃん。サブ垢でいいねをぽちっとな。  まだまだフォロワーも少ない弱小垢だけど、それはそれでオッケー。わたしだけが知ってる良さってのもあるよね。 *  今日は、ディスプレイの模様替えをしよう。  そろそろ新しいグッズも欲しいなぁ。あ、イラストレーターさんに頼んでた似顔絵が届いてたから、それで新しい

          ショートショート『セルフ推し活』

          ショートショート『孤独のアロマ』

           古びたガラス戸を開けると、そこには時が止まったような空間が広がっていた。  何十年もの足跡を物語る、懐かしい香りの洪水。壁という壁に染み付いた醤油と油の香りが、まるで店の歴史そのものを語りかけてくるようだ。  厨房からは中華鍋を振る音と共に、力強い香りが次々と立ち上っている。換気扇の下で踊るように舞い上がる湯気には、今日も変わらぬ日常の安心感が詰まっているような気がする。  やはり定番の醤油ラーメンは欠かせないな。  力強い醤油の香りがガツンと鼻腔に飛び込んでくる。ベー

          ショートショート『孤独のアロマ』

          ショートショート『ママ友キッチンマウント合戦』

           毎週恒例のおうちランチ会。今日も担当ママ友の家に大勢が集まっていた。 「この前、キッチンを全面リフォームしまして」 「まあすごい」  真新しいシステムキッチンに、ママ友たちから羨望と嫉妬の眼差しが注がれる。 「思い切って流行りのオープンキッチンにしてみましたの。どうです?」 「開放感があっていいですね」 「収納もいい感じで」  まるでメーカーのショールームにでもいるかのように、皆がそこかしこを遠慮なく物色しはじめる。 「こちらは壁一面の食器棚になっているんですよ」 「見た

          ショートショート『ママ友キッチンマウント合戦』