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スキつけた後も、結局何回も読み直してるnoteを集めました。無断で入れてますので、差し支えある場合は教えてください。
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#恋愛小説

静 霧一 『ねむるまち』

静 霧一 『ねむるまち』

 乱れたシーツの上で、私は彼の残した煙草を咥え、彼からもらったライターで火を灯した。
 テレビ台に置かれた小さな置時計の長針と短針が抱き合いながら、真夜中の12時を知らせる。

 彼は、終電に間に合っただろうか。
 そんな思ってもいない心配が頭を過った。

 もう、なんで彼を好きであるのか思い出せない。
 そんな淡い恋情など、とうの昔に燃え尽きてしまった。
 彼の言葉にスキップした日々が、今じゃも

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【短編小説】たとえばそれが、透き通った粉雪だったとして。

【短編小説】たとえばそれが、透き通った粉雪だったとして。

「ねぇ、雪って本当に真っ白なの?」
 莉花は空いた窓に顔を向けながら呟いた。

「そうだよ。すごく真っ白さ」
 春樹は彼女のベッドの横の丸椅子に座りながら優しく答えた。

 開いた窓には一本の大樹が見え、その枝葉は焦げ茶に色を染めていて、冷たい北風が吹くたびにカサカサと揺れては、一枚、また一枚と枯れ葉をひらひらと散らしていった。

 風が病室へと舞い込むと、莉花は深く息を吸い、「あぁ、もう冬の匂い

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三文小説

三文小説

 もし、君が死んでしまう直前に言葉を紡ぐとしたら、僕は何というだろうか。
 そんなこと考えたくもなかったし、想像もしたくなかった。

 それでも現実というのは突飛なもので、神様は悪戯にサイコロを振り、いつもタイミング悪く騒動の目を引かせてくる。
 こんなにも自分が苦しむのなら、僕は君に出会わなきゃよかったんだと思うことだってある。

 それでもそれは過去の話であって、すでに僕と君は出会ってしまって

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