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静 霧一/小説
2021年1月13日 22:09
乱れたシーツの上で、私は彼の残した煙草を咥え、彼からもらったライターで火を灯した。 テレビ台に置かれた小さな置時計の長針と短針が抱き合いながら、真夜中の12時を知らせる。 彼は、終電に間に合っただろうか。 そんな思ってもいない心配が頭を過った。 もう、なんで彼を好きであるのか思い出せない。 そんな淡い恋情など、とうの昔に燃え尽きてしまった。 彼の言葉にスキップした日々が、今じゃも
2020年10月27日 00:30
「ねぇ、雪って本当に真っ白なの?」 莉花は空いた窓に顔を向けながら呟いた。「そうだよ。すごく真っ白さ」 春樹は彼女のベッドの横の丸椅子に座りながら優しく答えた。 開いた窓には一本の大樹が見え、その枝葉は焦げ茶に色を染めていて、冷たい北風が吹くたびにカサカサと揺れては、一枚、また一枚と枯れ葉をひらひらと散らしていった。 風が病室へと舞い込むと、莉花は深く息を吸い、「あぁ、もう冬の匂い
2020年11月8日 00:21
もし、君が死んでしまう直前に言葉を紡ぐとしたら、僕は何というだろうか。 そんなこと考えたくもなかったし、想像もしたくなかった。 それでも現実というのは突飛なもので、神様は悪戯にサイコロを振り、いつもタイミング悪く騒動の目を引かせてくる。 こんなにも自分が苦しむのなら、僕は君に出会わなきゃよかったんだと思うことだってある。 それでもそれは過去の話であって、すでに僕と君は出会ってしまって