G.A. ヘンティの歴史小説 Friends, though divided: A Tale of the Civil War
管理人の勝手訳タイトル 「友情、引き裂かれてもなお:イングランド内戦の物語」
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著者: G. A. Henty
出版社: -
ページ数: 300p前後
発行年月: 1883年
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あらすじ
きっちりきれいに第一次から第三次までのイングランド内戦を扱っています。
主人公はハリー少年。のち青年。父ヘンリーは国王チャールズ一世の連隊長で、当然ながら王党派です。騎士党に特徴的な巻き毛が自慢のイケメンです。まずはエッジヒルの戦いから物語は始まりますが、ハリーは若年を理由にここには参加できません。それでも父の伝手で無理を言って、国王のために働くことになります。序盤には、国王の甥プリンス・ルパートと2人で閉じ込められて危うく燻し殺されるところだったりとか、国王派が優勢なうちは、それなりにゆるい冒険です。
序盤から中盤にかけて、ハリーの相棒となるのはジャコブ。当初、身元を隠して毛織物商人の徒弟となっていたハリーの徒弟仲間で、ハリーの正体に感づいて従者になることを申し出た、陰謀好きで頭の回る少年です。王党派にとってどんどん状況が悪くなる中、2人はイングランドやスコットランドで様々な戦いに身を投じたり、個人的な敵に命を狙われてみたり、国王の救出を試みたりします。前半のクライマックスがチャールズ一世の処刑です。ハリーの少年期の終わりでもあります。
いったんジャコブと別れたハリーはそのままアイルランドに流れます。ドロヘダ攻囲戦で王党派は壊滅的な敗北を喫し、辛うじて生き残ったハリーは奴隷としてバミューダへ送られました。数ヵ月後、脱出に成功したハリーは、復位を目指しているチャールズ二世のもとに馳せ参じ、戦場はスコットランドに移ります。
スコットランドでは、単騎で沼地で立ち往生していたハリーを救ったマイクという少年を従者にします。また、レスリー将軍とは共同戦線を組み、逆に、二心を持つアーガイル伯からは命を狙われたり、再度合流したジャコブ・忠実なマイクとともに前半同様の冒険が続きます。しかし最終的にウスターの戦いで王党派は議会派から引導を渡され、チャールズ二世はフランスへ逃れ、ハリーも亡命を余儀なくされてしまいました。ハンブルクに逃れたハリーは、しばらく巻き返しは難しいと判断し、いっそのこと新天地(北米)に土地を買って移住してしまおうかと考えます。
そんな中、王党派くずれの同国人たちによるクロムウェル暗殺計画を知ったハリーは――。ここまででだいたい25章。
もくじ
The Eve of the War
For the King
A Brawl at Oxford
Breaking Prison
A Mission of State
A Narrow Escape
In a Hot Place
The Defense of an Outpost
A Stubborn Defense
The Commissioner of the Convention
Montrose
An Escape from Prison
Public Events
An Attempt to Rescue the King
A Riot in the City
The Execution of King Charles
The Siege of Drogheda
Slaves in the Bermudas
A Sea Fight
With the Scotch Army
The Path Across the Morass
Kidnaped
The Battle of Worcester
Across the Sea
A Plot Overheard
Rest at Last
読書メモ
5冊挙げた中では唯一のイングランド「内」が舞台。王党派・騎士党なんていうと華やかなイメージがありますが、ひたすら負け続ける側なので、当初の無邪気さが嘘のように、ハリーの冒険はどんどん悲壮なものになっていきます。数ヶ月~数年間何もすることがなかったなんて不遇の時代もあります。次々に難題が降りかかる展開は、判官びいきなところのある管理人にとっては、読んだ中では最も読み応えがあった作品です。とくに、国王の救出に失敗してハリーが悔しさに涙する姿は、他の作品にはない場面です。
ところで最大のフェイントが実はこの書名です。管理人訳タイトルはカッコつけたので文語っぽいですが、ゆるーくいえば「高校別々になっても友だちだよ?」みたいなニュアンスかと。冒頭はハリー(地主の息子のお坊ちゃん)とハーバート(その領地に住む平民)の幼馴染同士の会話から始まり、「By England's Aid」のように二元的に話が進んでいくのかと思いきや、すぐにハリー主人公として進んでいきます。もっとも、議会派の下士官となったハーバートも忘れた頃にちょこちょこ登場はしますが。結局読み終わった後でも、この「Friends」は誰と誰のことを指すのか、人によって解釈が違うかもしれません。
敵は一貫して議会派(円頂党)なわけですが、とにかくハリーはよく命を狙われ、捕まっては閉じ込められ、脱出を繰り返します。ハリーの相棒も、早い段階でロンドンで出合ったジャコブ、領地の小作人の息子ウィリアム、スコットランドで拾ったマイクと、ステージによってどんどん増えていきます。ウィリアムの影がやや薄いですが、彼らのおかげでハリーは何度も窮地を脱します。ハリーは史実人物の大人とも行動をともにしますが、こちらは時代の趨勢や場所によってどんどん変わっていきます。
個人的には、史実としては地味な、チャールズ一世処刑後のアイルランド・スコットランドでの、王党派の残党による悪あがきのような戦いを丁寧に描く後半のほうが好みです。 繰り返しになりますが、他作とのいちばんの違いは敗北側に身を置いていることです。いきおい、冒険の質も変わってきて、他人を助けるような余裕も華々しい活躍もありません。
だからなのか因果関係は明らかではありませんが、未亡人と令嬢も、序盤にいちおう一度だけ登場するもののそのままフェードアウト。終盤に、若干蛇足かな?と思うエピソードはあるものの、他とはちょっと違ったロマンスのかたちが楽しめると思います。それでも、ラストが似たような感じになるのはさすがのヘンティの手腕といったところでしょうか。
他にヘンティの小説4件についての記事書いてます。