フジッリのくるくるを見て過去と未来を思う。
たしかわたしが超ヤングの頃、今でいうパスタの種類でポピュラーなのはスパゲッティとマカロニの二択であった。外食はミートソース、ナポリタンが主流で、他はグラタン以外に思い出せない。
やがてイタリア料理(イタリアン)が流行って猛スピードで定着するにつれ、日本の田舎でもペンネやらラザニアやら目がくらみそうなカッコいい名前を目にするようになった。綴りは全く書けないのに偉そうにお店で注文し、買って来ては家の片手鍋で地味にゆでた。
さらにカルボナーラだ、ペペロンチーノだと日本中が知ることになり、ロングパスタの種類別名称まで把握し始めた。カッペリーニ、フェデリーニ、スパゲティーニ……。イタリアのパスタの名前は超高速で覚えられるのに、なぜ百人一首が暗記できないのだろう。わたしは非国民かと真剣に悩んだのはこの頃だ。
ミートソースがボロネーゼに取って代わられた(寝首をかかれた)のはいつ頃だろう。小首をかしげたまま仕事の献立にボロネーゼを入れてみたものの、「わからん……」とつぶやきながらド下手なトルネード盛りをする首は傾いたままだった。
ネット検索するとパスタ料理のレシピがあふれ返る。「ゆで時間は表記マイナス1分」については、各家庭で掛け軸に書いて床の間に吊るしているとさえ思う。
そのうち日本でも母をマンマと呼ぶかもしれない。
今まで食べた数種類のショートパスタで一番好きなのはフジッリ。螺旋状くるくる形がかわいい。表面積が広いのでソースと絡みやすく、ボリュームがあって満足度が高い。
最近見た桝谷周一郎シェフのYouTubeチャンネルでフジッリを使った料理を紹介していた。チャンネル名の通り、材料作り方とも「simple is best 」でおいしい!また作った。やっぱりおいしい。また作ってうまくできたら備忘録に残したい。
だんだん利き手が使いにくくなっている家族がフジッリを食べる時に「お箸が溝にはさまって滑らないから食べやすい!」と喜んだ。なるほど、たしかに安定する。大きさもほどよい。味が絡みやすくて喉越しもよく、何より落ち着いて味わえるのだ。
これってユニバーサルデザインフードに入らないのかな?新区分:食べやすさ(はさみやすさ)で。
うちのマンマ母はお箸でフジッリを食べたいのだ。基本動作でイタリアンを楽しむ人を増やそう。
残念ながら一度もイタリアを訪れたことはない。親友から「50歳になったら一緒にイタリアへ行きたい!」と誘われていたが、彼女は44歳で鬼籍に入り、わたしはひとり約束の年齢を超えた。
そして時々大好きなフジッリをゆでながら、過去をくるくると思い出す。