とにかく水分を摂ってほしいという願い│介護業界で働くことは難しい3
今年から新たな職場で働くことになり、栄養と運動と合わせた「90分健康体操教室」をやりたいと考えていました。会議でプレゼンして、難しいかもしれないけれど一応OKをもらったのが7ヶ月前のこと。
ですが実際のところ、私が本当にやりたい「栄養部分」の評判が良くないみたいなんです。デイサービスでは座学はイマイチとのことで、最近は運動のみにしていました。
そして、夏。
暑いし90分も運動を続けるのは難しいし、水分補給の話をしよう。これはスポーツクラブで働いていたときから夏の習慣でした。
けれど今年はデイサービスです。座学は嫌がられるし、クイズ大会はどうだろうと考えて、スタッフさんたちに相談しました。
1.水分補給クイズをやってみたい
この時期いかに水分補給してもらうか、というのは介護業界で働く方なら誰もが悩むところだと思うのです。こういうクイズをしたいとスタッフさんに話してみました。
「難しいと思う」と言われました。
文字を書きたくない人がいる。
自分で考えたくない人もいる。
ひとつも書けないとプライドが傷つく。
周りの人が何を書いているか見て真似して書いたりしてクイズにならない。
紙芝居を作るとか、3択とか、もっと簡単にしたら?とのことでした。
ホワイトボードで講義っぽいスタイルだと利用者さん見えてないし暇そうにしている、とも。
…そうかぁ…。
私の担当する時間は要支援1・2や認定を受けていない方たちなので、そこまで出来ないと決めつけなくても…と思ったのですが。
2.高齢者の水分補給の実情
利用者さんによって違いますが、クイズを楽しんでくれているように見えました。正解ならもちろん嬉しいけれど、間違ってもいいですし。
水分補給の実情も聞けました。
利用者Aさんとの会話
Aさん 「どのくらい飲めばいい?」
私 「1時間に100ml飲めますか?」
Aさん 「そんなには無理」
この量は最低限の目安として聞きました。無理、ということは普段よっぽど飲んでいないということです。
ほぼ全ての方が水筒やペットボトルを持ってきますが、彼女が持っていたのは280mlサイズ。運動する日に、この量は…。飲まない人は本当に飲まないんですよね。
「まずは1時間に100mlから始めましょう」
「そして少しずつ増やしていきましょう」
利用者Bさんの工夫
その一方で、朝起きてポカリスエット、寝る前にもポカリスエット、という人もいました。彼女は、夜中のこむら返りが辛いらしく、お医者さんにアドバイスされたようです。
そして水筒には「お湯」を持ってきていました。間違えたとのことでしたが、暑い日にお湯はちょっと…。ウォーターサーバーのおかげで冷たい水を飲めましたが、畑に行っていたら大変でしたね。
大丈夫なのかな?と思う水分補給の実情でした。
3.食事からの水分は摂れている?
飲みたいという本能が薄れている、というのを感じる場面があります。高齢になると、喉が乾かないとか、トイレに行きたくないから飲みたくないとか、暑くても汗をかかないとか。
様々な理由があって、体内の水分は不足し、体調不良に繋がります。現に夏バテしている方や睡眠不足の方は多いですし、夏になって、より一層不機嫌な方が増えています。
水分に興味を持ってもらうこと。水分補給=飲料としすぎないこと。食事からの水分も重要だと気づいてもらうこと。食品の水分含有量の違いを正しく知ってもらうこと。難しいけれど、言い続けることでしか伝わらないと思っています。
クイズの後でプリントを見てもらいました。
食事からの水分が1.0Lというのは、どう考えたらいいのか。
たとえば厚生労働省は一日360gの野菜を食べることを推奨しています。ほとんどの野菜は90%程度の水分を含むと仮定すると、一日あたり野菜から325gの水分を摂取できます。
また、高齢になると、朝ごはんはトーストとゆで卵とコーヒー(喫茶店モーニング)という方も多いです。こうなると野菜はゼロで朝の水分が不足します。パンはご飯より水分が少ないので、さらに不足します。また血糖値を下げるために、そもそも主食を食べない選択をする人もいます。
食が細い方は、水分補給の面でも注意が必要です。
3度の食事をきちんと食べた上で、飲料としての水分補給もしないと足りなくなる。飲料からの水分だけでなく、食事から水分を摂ることも大切にして欲しいんです。
4.やってみたら気づきも多かった
という話をしたいだけだったのに、新しいことをやろう、というのは大変だと痛感しました。
はじめスタッフさんに相談すると、嫌な顔をされました。こうしたら?と案を出してくれましたが、やりたいこととは違うと思いました。けっこうなダメ出しも受けました。
この半年、上手くいかな過ぎて心が折れそうでした。分かってもらえてないモヤモヤを閉じ込めて、3択クイズにするという折衷案にしました。
なんか色々と考えるのがめんどくさくなって、もう水分補給の話をするのやめようかとも思いました。
けれど、相談して3択クイズにしたのは正解でした。考えてくれる人はちゃんと考えてくれるし、あんまり考えたくない人でも答えを書けます。
飲料で話をするよりも食品で話をする方が興味を持ってもらいやすい、と実感できました。
そして、正答率というデータも取れたんです。割と分析好きで数字さえあればいくらでも時間が潰せる性格です。自分が考えたクイズで、数値化できるのは発見でした。
いつも理想と現実に悩んでいます。私に託された90分。栄養と運動と、いろんなことをしたかった。7月は水分補給というテーマにしました。8月はどうしようか。やりたいことはたくさんあるけれど、介護施設では向いてないのかもしれません。
5.クイズのおかげで、伝えたかったことは伝わった気がする
最後に3択クイズで反応が良かったものを紹介します。あんまり簡単すぎても難しすぎても面白くない。何か身になるような気づきになるような、そんな思いを込めて考えました。
これは一番反響が多かったクイズでした。納得できない〜!!と怒り出す方もいたり。ほとんどの方が「すいか」と答えました。
すいかは水分補給に向いているという思い込みがある。実際、水分は多いけれど果物は糖分が多いので、その分だけ水分も減ります。野菜と違って、果物で水分95%を超える食材はほぼ見つかりません。良い面だけを見るのでなく、他の面も知った上で選ぶということも大切です。
夏にオススメしたいネバネバ系の食材から。野菜や果物と違って、水分のイメージを持ちにくい食材たちです。
少し難しめのクイズのとき利用者さんたちは想像力を働かせていました。ほとんどの方が「長芋」と答えていました。
水分は多くないので番外編です。主食の選び方を考える機会になればと。
ごはんは茶碗一杯150gとすると、水分90gです。食パンは1枚60g(6枚切り)とすると、水分23gです。トーストすると水分はもっと飛びます。つまり、ご飯にするかパンにするかで、補給できる水分に差が出てきます。高齢者の朝ごはん事情を聞けて、とても勉強になりました。