岩で花を描くひとが教えてくれたこと│はなもよう11
その気力はどこから生まれるのか。
「87歳。元・絵描き」
はじめて会った日、彼女は言った。
デイサービスに来るとき、10年20年前に描いた絵を一緒に持ってくる。大きな絵や繊細な絵は描けなくなったと言う表情に返す言葉が無い。
2024年の秋、彼女は福祉施設の文化祭用に12cmほどの椿の絵を描き上げていた。握力9で絵筆を持つ姿を思うと切なくなる。
「お時間があったら是非」
と誘ってもらわなければ、展示会場まで足を運ぶことはなかっただろう。
絵を見に行ったと言うと驚いた顔をしていた。技術を習得するまでに長い年月がかかることや、年を重ねて岩絵具で描く苦労を話してくれた。
思う色に近づくまで何度も塗り重ねる。重ねすぎてもいけない。決断の難しさ。
そういう話を聞くのが好きだと思った。
何かを美しいと思った人がいて、その気持ちを残したいと思って、表現して形になって、また別の誰かに届く。
それは奇跡みたいなことで、その想いごと素晴らしいのだと思う。
小さな数珠のような繋がり。
ひとりじゃないってこういうことだと教えてくれた。
続ける難しさを痛感する日々に、ひとつのことを続けてきたひとがいること自体が救いになる。
元ではなく、彼女は今も現役の絵描きだ。