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『ネコ物語』わたしの言い分、ぼくの言い分~エピソード1~
なんて、かわいい子なんだろう。
胸を打ち抜くキュンの嵐。
愛里紗はそう思って抱き上げる。
白と茶のかわいいオスのネコだ。
生後半年といったところだろうか。
この保護猫譲渡会には親友と一緒にやって来た。
ずっと前から
ネコと一緒に暮らしたくてたまらなかった。
ようやく、いろいろな準備が整って
今日を迎えた。
これから、待ちに待ったネコとの生活が始まる。
エピソード1
「なまえ」
―私の言い分―
何て名前にしようかなぁ・・・。
たま?
リン?
こむぎ?
男の子だし、もっと風格ある名前がいいのかも?
そら?
レオ?
銀太郎?
ネットでは食べ物の名前を付けている人もいるなぁ。
近頃は、ペット名づけメーカーなるものに条件をいれれば
コンピューターが考えてくれるらしいけど。
それに、「命名式」をやるのもアリらしい。
もう人間の子供と一緒だ。
半紙に墨で名前を書いて貼るやつ。
なんだか、頭がこんがらがって来たから、このネコを観察して
雰囲気に合うのを選ぼう。
白と茶色。丸いシルエット。
それから連想されるのは?
「きなこもち」
え?食べ物?
ネコは丸いフォルムだし、やわらかいし。
なんだか、和風でほんわかしているから、案外いいかも?
もちはさすがにつけないで、「きなこ」にしよう。
オスなのに、「こ」がつくけど、そこはスルーで。
食べ物のきなこは栄養満点だから、
きっと元気に育つだろう。
何はなくても、「元気」が一番だ。
よし。命名「きなこ」
―ぼくの言い分―
今日からぼくはここが住処になるらしい。
狭いといえば狭いが、ぜいたくは禁物。
あのステンレスのせまっこい囲いよりは
ずっと自由に動きまわれるし、居心地もよさそうだ。
何より、一緒に住むほっそりとした女の人が、カワイイ。
ぼくの好みの顔。
本当はもっとぽっちりの丸いフォルムがいいけど、そこは我慢する。
なになに?
ぼくの名前を考えてくれているようだ。
これから、このカワイイ人がその名前でぼくを呼ぶんだ。
ウキウキ、ワクワク。
前にいた保護猫会では、シンプルに白茶ちゃんと呼ばれていた。
それなりに気に入ってはいたけど、
やはり「名前」というのは、看板みたいなもので
ぼくを表すものだから、かっこよくて、強そうなものがいいなぁ。
例えば、
レオとか?
シンバとか?
デューイとか?
和風なら
小太郎とか?
武蔵とか?
なんですと!
「きなこ」
ガッカリしすぎて、声も出ない。
「こ」が付くのは女の子でしょう、普通。
なんで、よりによって「きなこ」なん?
自分は「愛里沙」なんて、こじゃれた名前を付けてもらえたのに。
なんで、「きなこ」なんですかぁ?
もちろん、愛里沙さんの考えたきなこもちは大変おいしそうだし
栄養満点、元気も出そうです。
でも、毎日ぼくのことを
「きなこ~。ご飯よ~」って?
もっと、おしゃれに行こうよ。
まあ、少し不満だけど、
保護猫会にいる時よりは、数段幸せだし、愛里沙さんは
カワイイから、許してあげるとするか?
カワイイはすべての免罪符。
さっき、洗面所の鏡とやらでのぞいた自分は
確かに「きなこもち」のようだった。
元気にすくすく育って、愛里沙さんのことも
元気にするぞぉ~。
愛里沙はコピー用紙に、マジックで丁寧に
「きなこ」と書いて部屋に貼った。
ひとりといっぴきの暮らしが始まる。
エピソード2へ続く
~お読みいただきありがとうございました~
おまけ画像
白茶ではありませんが、うちの子です。
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