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食用油と健康の逆説VI:植物油の疑惑の実験2

前回はワズワース退役軍人病院研究という食事研究についてお伝えしました。

更に疑惑の実験たちを、引き続きみていきましょう。

ミネソタ冠動脈調査(MCS)

食事と心臓病との関係を調べたミネソタ冠動脈調査(Minnesota Coronary Survey:MCS)という研究実験があります。


この実験は、1968〜73年にかけてミネソタ州の6つの精神病院と1つの老人ホームで実施され、4393人の施設入所男性と4664人の施設入所女性が二重盲検、無作為臨床試験などに参加しました。


実験の主旨は、脂肪摂取の違いが心臓病に影響しているかどうかを判断するものでした。


脂肪摂取の違いは、
SFA群:脂肪が39%(飽和脂肪酸18%・多価不飽和脂肪酸5%・一価不飽和脂肪酸16%)
PUFA群:脂肪が38%(飽和脂肪酸9%・多価不飽和脂肪酸15%・一価不飽和脂肪酸14%)
に分け、心筋梗塞や突然死、死亡の発生率などに及ぼす影響を比較しました。

『脂肪の種類について:SFA(飽和脂肪酸:バター、牛脂、ココナッツオイルなど)、PUFA(多価不飽和脂肪酸:サラダ油、大豆油、コーン油、米油、ごま油など)、MUFA(一価不飽和脂肪酸:オリーブオイル、菜種油など)』


当時の実験の結果では、SFA群とPUFA群の心血管疾患や心血管死、総死亡において、有意な差が無いとされていました。[1]
有意な差がないのなら、飽和脂肪酸悪玉説が証明が出来ませんが、これで終わりませんでした。


驚くべきことに40年後の2016年になって、MCSに未発表のデータが見つかったのです。


未発表のデータを解析したところ、PUFA群がSFA群に比べて血清コレステロール値が有意に低下し、血清コレステロール値が30mg/dL下がるほどに死亡リスクが22%上昇することが分かりました。


コレステロール値が低下すると死亡リスクが高まる理由については、シリーズ後半でお伝えします。


また、149人の被験者の詳細な解剖検査報告では、PUFA群の41%に少なくとも1度は心筋梗塞があったのに対し、SFA群では約半数の22%でした。


更にPUFA群では SFA群よりも、冠動脈や大動脈のアテローム性動脈硬化が多い結果が出ました。


つまり、食事の飽和脂肪酸(SFA)を多価不飽和脂肪酸(PUFA)に置き換えるとコレステロール値が低下し、それに伴い、死亡率が増加したこと、心筋梗塞、動脈硬化が多くなりました。[2]

後にMCSの責任者であるイワン・フランツは、

「この研究には何の問題もなく、私たちはただその結果に失望しただけである」

[3] Good calories, bad calories.
New York: Alfred A. Knopf; 2007.

と述べています。[3]


なお、この実験には飽和脂肪酸悪玉説を提唱したアンセル・キーズも関わっています。


おそらく当時はすでにPUFAの摂取が健康的という常識で、トップも同じ考えだったことから、それに逆らうのは権力に逆らうのと同じだったのではないかと思います。
フランツはその圧力に負けたのだと考えられます。


もしかしたら、天動説の時代に地動説を提唱するようなものだったのかも知れません。


シドニーダイエット心臓研究(SDHS)

オーストラリアでも、1967〜73年に食事と心臓病との関係を調べたシドニーダイエット心臓研究(The Sydney Diet Heart Study :SDHS)が実施されています。


この研究には30歳〜49歳の男性458人が参加しています。


対照群は、通常の食事を食べて、
PUFA群には、通常の食事の脂肪を、紅花油、マーガリン、ショートニングに置き換えたものにして、
PUFA摂取量を15%に増やし、飽和脂肪酸を10%未満に減らし、食事性コレステロールを300mg/日未満に制限しました。

当時の結果では有意な差がありませんでした。


しかし、シドニーダイエット心臓研究でもミネソタ冠動脈調査と同じように、研究から40年後の2013年に未発表のデータがあったことが発表されました。


そのデータをメタ解析したところ、PUFA群が対照群に対して、全死亡、心血管死、急性心不全の割合が有意に高くなっていたことが分かりました。[4]

この文献[4]の結語では、

『これらの知見は、オメガ6リノール酸、あるいは一般的な多価不飽和脂肪酸を飽和脂肪酸に置き換えるという世界的な食事指導に重要な影響を与える可能性がある。』

[4]Use of dietary linoleic acid for secondary prevention of coronary heart disease and death: Evaluation of recovered data from the Sydney Diet Heart Study and updated meta-analysis.
BMJ. 2013;346:e8707.

と締めくくられています。


このように二つの研究調査には、当時に全て公開されていなかったことに疑惑を感じます。どうして公開できなかったのでしょうか。


そしてアンセル・キーズが提唱した飽和脂肪酸悪玉説は、少なくとも、前回紹介したワズワース退役軍人病院研究、今回紹介したミネソタ冠動脈調査、シドニーダイエット心臓研究の3つの研究調査では証明できませんでした。


植物油に関する調査や研究は、このようにきな臭いものばかりとなっています。
植物油にまつわる疑惑はまだまだあります。


つづく


【関連記事】


【参考文献】

[1]Test of effect of lipid lowering by diet on cardiovascular risk. The Minnesota Coronary Survey.
Arteriosclerosis 1989; 9:129–135.

[2]Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968–73).
BMJ 2016; 353:i1246.

[3] Good calories, bad calories.
New York: Alfred A. Knopf; 2007.

[4]Use of dietary linoleic acid for secondary prevention of coronary heart disease and death: Evaluation of recovered data from the Sydney Diet Heart Study and updated meta-analysis.
BMJ. 2013;346:e8707.

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