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手紙で本音をさらけだす実話『お父さん、フランス外人部隊に入隊します。』

息子から届いた手紙は、たった三行・・・・・でした。

お父さん、フランス外人部隊に入隊します。
契約は五年間です。
申し訳ありません。どうしても言えませんでした。

p8


それも、ただの手紙ではなくエアメールです。
手紙の送り主、森本雄一郎は、すでにパリにいました。


外人部隊に入るためです。

【※】
『外人』という表現を差別表現と受け取る方々がいます。これ以降は『外国人部隊』と表現します。
ただし、本文を引用するときは『外人』のままです。


雄一郎氏は、順当に行けば国立大学を卒業する予定でした。
しかし、卒業直前、フランスへと旅立ちます。
両親には、「就職する」と言っておきながら・・・・・・。

『お父さん、フランス外人部隊に入隊します。』は、そんな雄一郎氏と父が本音をさらけだした記録です。



二人は、日本とフランスの間で手紙のやり取りをし、これまで語り合えなかった本心のやり取りをします。


雄一郎氏は、何を思いフランスに旅立っていったのでしょうか――



1.フランス外国人部隊とは


フランス外人部隊は、フランスの正規軍・・・です。
傭兵集団ではありません。

訓練は、もちろん過酷。

二日に一度は、日が暮れ出すころになって、行軍命令がくだった。
いったん歩きだすと、だいたい十時間近くは合宿所に戻ってこられない。(中略) 終わるのはだいたい夜更けの三時、長引けば明けがた五時である。

(中略)

新兵たちは、トラックでフェルムに連れ戻される間に、揺れる荷台で眠りをむさぼる。 わずか数時間後、早朝五時半にはもう長い一日がはじまる。睡眠時間が二時間や一時間ということもざらだった。

p102


峻烈な訓練を終えた雄一郎氏からの手紙の内容は、自分が親だったら、身が引き裂かれそうな内容です。

お父さんへ

十月五日にここギアナのクーローという街にある第三外人歩兵連隊に来ました。この連隊はジャングル戦のスペシャリストの連隊です。僕はもちろん戦闘中隊に配属となりました。

p145


親としては、息子が突然日本を飛び出してしまっただけで心配なのに・・・・・・。


「戦闘中隊」という恐ろしい言葉が書いてあったら、いてもたってもいられないでしょう。



2.雄一郎氏の生い立ち


森本家の長男として生まれた雄一郎氏は、働き者でした。
幼いころから養蚕ようさんを手伝っています。

妹は、

小学校の二、三年生といえばもう兄は、お父さんがいないときは、一人前の働き手でした。私と弟も手伝いましたけど、兄のようにあてにされていなかった

p75

と語ります。

中学に上がってからは、ソフトボール部のキャプテンや生徒会長も務めます。

学業も優秀で、成績も上位だったというのですから、”非の打ち所がない”という印象を受けます。



合格した大学は、東京の私大か、地元・愛媛県の国立大学。
優秀な雄一郎氏が家庭の苦しい台所事情を無視するはずがなく、愛媛の大学に進学します。

ここまでは、順当な人生を送っているようなのですが・・・・・・。


3.時代


雄一郎氏は優秀な人物でした。
しかし、彼が大学生の頃(1993年~1995年前後)は不安定な時代・・・・・・と言えるのかもしれません。


そのころの日本は、ちょうど時代の曲り角に立っていた。戦後から延々と続いてきた成長の時代と完全に決別しようという時期だった。
企業は、怖いもの知らずの強気経営で過ごしたバブル時代の反動をまともに受けていた。
(中略)
中高年のリストラも、深刻な問題になりつつあった。

p157



1993年ごろから、不況を反映した消費が目立ち始めます。


紳士服では従来から大幅値下げした「格安スーツ」が好評を博しました。
旅行では「格安パックツアー」に人が集まったものです。

ゼネコン汚職事件や、元自民党の副総裁が脱税容疑で逮捕されるということもありました。


雄一郎氏には、そんな日本がつまらなく見えたのかもしれません。


今の日本の大部分のサラリーマンの皆さんを見ていると、楽しみと言えば、スナックでカラオケを歌うことぐらいのもののように思えます。(中略)
会社では身を粉にして働いているのに、まるで彼らにとって人生は「苦しむため」にあるようなものです。

p170



国民年金はいりません。(中略)今の日本は僕にとって魅力のある国ではないからです。物価がバカみたいに高く、人間が多すぎて美しい自然も少なくなってきました。無理して日本に住まなくても、他に魅力的な国はいくらでもあります。

p132


手紙のやりとり当初は、ひたすら「ごめんなさい」を繰り返していた雄一郎氏。

しかし、厳しかった父からの本音を受け取るうちに、自身も本音をさらけだすようになります。

やがて、「結婚はしない」「子どもはいらない」「お父さんは小市民だ」と言うようになり――


はたして、フランスに飛び込んだ雄一郎氏の真意とは?


4.感想

20代の若者のエネルギー・・・・・勇気・・を感じました。
30代になった私が失ってしまったものです。

「失敗したらどうしよう」
「自分にできるだろうか」

といった心配をよそに、自分の直感を信じて行動する雄一郎氏。
自分にもそんな頃があったなぁ、と強く思うのです。


あなたにもありませんでしたか・・・・・・・・・・・・・・
理想と現実による葛藤、苛立ち。
それによる、思い切った行動などが――。


【書籍データ】(文庫版)

著者:駒村吉重こまむらきちえ
書名:お父さん、フランス外人部隊に入隊します。
出版社:廣済堂出版
ページ数:293ページ
出版年月日:2012年11月21日
ISBN-10 ‏ : ‎ 4331654990
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4331654996

【注意】
本文中の引用は、すべて単行本(書名:『父から「外人部隊」の息子へ』のものです。

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