【#47】決戦~今にも落ちてきそうな空の下で~
1996年(平成8年)4月19日【金】
半蔵 9歳 小学校(4年生)
「ビームシュワッチ!」
赤白帽を縦にかぶり、腕を交差させて遊ぶのは意味もなく楽しい。
それに、天気もいい。
5時間目の体育は、最高だ。
「ふざけていないで早く並べ」
天光寺が吐き捨てるように言ってきた。
相変わらず、いけ好かないやつである。
「じゃ、キックベースのルール説明するぞぉー!」
先生がルールを再確認していく。
今日は、体育でキックベースをやる最後の日だ。
クラスで2チームに分かれ、真剣勝負を行なう。
僕はキャプテンとして、負けられない立場にあるのだ。
「よし、じゃあ始めるか!キャプテンはジャンケンして」
先攻後攻を決めるジャンケン。
敵チームのキャプテンは・・・・・・
天光寺だ。
「俺たちに勝てたら、『スーパーファミコンが4000円安くなるクーポン券』をくれてやるよ」
「いらねーよ!天光寺たちが勝ったら、『いいにおいがするティッシュ』をくれてやる」
「それこそ、いらねーよ。じゃあ、負けた方が『言うことをひとつ聞く』で、どうだ?」
「望むところだ!」
僕は拳に入れた力を強める。
「こらこら、授業で賭けをするな。早くジャンケンしなさい」
天光寺とはスポ少で同じチームであるが、仲良しになったというわけではなかった。
(コテンパンに叩きのめしてやるぜ)
「あっ、言い忘れたけど、スポ少でサッカーやってる子には、ハンデつけるから」
「えっ!」
「利き足で蹴れるのは1回だけなー」
「エッ!?」
先生が、さりげなくとんでもないことを言った。
「みんなが楽しめるようにするためのルールだ。ちなみに一打席一回じゃないぞ。一試合に一回だからな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ボールは外野のはるか上空を越え、校舎にぶつからんとする勢いで飛んでいく。
「すげーぜ天光寺!!」
「同じチームでよかったぁ!」
“利き足”を解放した天光寺は、チャンスを逃さずホームランを打ったのだ。
5対7。
これで2点差――。
天光寺は、軽い足取りでホームベースに帰ってきた。
足元で輝くエアマックス95が憎らしい。
次の打者をアウトにすると、先生が突然言った。
「“ふりかえりの時間”取らないかんかったな。次、誰かアウトになったら終わり」
(マジかよ、先生!)
僕の打順まで、前に二人いる。
前に控えるのは、ゴメスとイイケンだ。
(頼むから、繋いでくれ・・・・・・)
「任せてオケ」
「半蔵は、どーんと構えとれ」
ゴメスは、『チョン蹴り』をして猛ダッシュする。
『チョン蹴り』とは、来たボールに軽く触れる程度で蹴り返し、内野安打を狙うものである。
イイケンも、それに続いた。
二人は、“思い切り蹴飛ばす”爽快感を犠牲にして、僕につないでくれたのだ。
「半蔵ぉ!ホームランで逆転だぞぉ!」
アキラは敵チームなのに、外野から声をかけてくれる。
(絶対にホームランだ。じっちゃんの名にかけて!)
僕はここまで“利き足”を温存してきた。
右足に意識を集中する。
一球目、ボール。
ピッチャーもこなす天光寺の転がす球は、高速なうえに際どいコースを突いてくる。
二球目、ボール。
三球目、ボール。
四球目――
今までより球速が遅い。
(天光寺め、フォアボールがこわくて弱く投げたな!?)
狙うは、外野の頭上を越える一発だ。
右足を振りかぶる。
(いっくぞー!)
右足の甲にボールが当たるる瞬間、ボールが少し右に逸れた。
(カーブ!?)
ポイントがずれたところに当たったボールは、変なフライとなってアキラの方に飛んでいく。
アキラ――
もしかして、わざとエラーしくれるか!?
アキラは、ボールを身体全身でキャッチした。
アウト。
5対7で、僕たちの負けだ。
(そうだよな)
アキラは、『正々堂々』が好きだ。
「ゲームセット!よーし、ほんなら“ふりかえり”するぞぉ。班で集まれ」
先生が無情にも次の指示を出す。
いつのまにか天光寺が近づいてきていた。
「罰ゲーム、決めたぞ」
(あ、そうだった・・・・・・)
「半年間、――――禁止だ」
自分の耳を疑った。
(つづく)
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