「ことり」小川洋子

いつかどこかで誰かがおすすめしていた本。
装丁のデザインに惹かれ、読んでみた。



装丁の絵の通り、少し色がくすんだ世界がずっと広がっていた。くすんでいるけど灰がかかっているわけではない。古めかしいわけでもないのになぜか懐かしい。黄みを取り除いたセピアのような。

昭和の時代のおそろしく現実的な暮らしの中に、お兄さんだけが異質なものとして存在している。その「現実」と「異質」の境目や融合がおもしろかった。本を読んで長い間、いい意味で調子が掴めなくてわくわくした。リアルとファンタジーとノスタルジックが混ざっていて不思議な心地がした。


その世界観はおもしろいけれど、お兄さんと小父さんはずっと日の目を見ないから悔しくて切なかった。


ひさしぶりに大好きな本に出会うことができた。

読書好きな母にも読んでもらいたかったけど、視力が2.0もある母は老眼が辛いらしく、細かい字など読める状況ではないらしい。得意なミシンも編み物もできなくなって少しさみしい。代わりにガーデニングに精を出しているから安心した。

遠く離れた雪国に暮らす母の、知らないことがどんどん増えていく。きっと若い私のほうがどんどん変わっている。お互いがそれぞれ変化していることに気付く。私はとっくのとうに大人になっていて、母はもうすぐ老人になる。ふと、至極当然なことに思いを馳せる。

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