彼氏の家での4分33秒

𝄞

(するすると小さな絹擦れが聞こえる)

「ｴｯﾈｪ……」
「ｼﾀﾆｵｶｰｻﾝｲﾙｶﾗｼｽﾞｶﾆｼﾃ」
(いずれも大変な小声で、コンサートホールの静寂でなければ聞き逃してしまうだろう)

(ﾁｭﾊﾟﾁｭﾊﾟ……)
「ｱｯｱｯｱｯ」
「ｼｰｯ ｼｽﾞｶﾆ……」
「ﾓｳ……」
(上気する肌、二人の気持ちは徐々に一つになっていく。スコアも少しずつ性急になっていく(ような気がする))

(ﾋﾀﾋﾀ……)
「ｱﾚ ｺﾉｱｼｵﾄ……」
「ｶｸﾚﾃ!」
(つかの間の休符　完全な静寂　短くも長い長い夜が二人だけの月面に訪れる)

(ﾋﾀﾋﾀ……)
(遠ざかっていく)

「ｲｯﾀﾈ」
「ｿｳﾀﾞﾈ」
(そして、永遠のクレッシェンドが始まる)

(ﾋﾞﾁｬﾋﾟﾁｬ)
「ｱ……」
「ｽｷﾀﾞﾖ」
「ﾜﾀｼﾓ……ﾀﾞｲｽｷ……」
(二人は抱き合う　フォルテであり、ピアニッシモでもある)

「ｲﾚﾃｲｲ?」
「ｴ ｱ……」
(逡巡の隙間なく、愛は頂点に向かった　アルペジオが流れた)

(ﾇﾎﾟｯﾇﾎﾟｯ)
(不器用な打楽器　私は痛みに耐えるが同時に永遠の愛を感じていた　フィガロの結婚のような旋律)

「ｱ ｱ……」
(興奮が高まってくる　思わず声が漏れる　どこまでも続く快感を享受しようと、ようやく腹を決めた)

「ｱｯ!」
「ｱ……ｴ?」
「ﾃﾞﾁｬｯﾀ……」
(あっさりと終わり、休符が訪れる　気まずい静寂と、お預けにされた期待と、残る満足感と、そしてあなたが好き)

「ﾓｯｶｲｼﾖ」
(ダ・カーポ　再び永遠のクレッシェンドへ……)

(ﾇプ

「ヒロト❗️そろそろ暗いんだからアイミチャン送らないと❗️」
(唐突なフィーネ　ここで4分33秒　二人はただ見つめ合った)

…………

◯

「じゃ、送ってくるわ」
バタン❗️ガシャン



…………



「今日……ありがとう」
「大好きだよ」
「大好き！」(蛇足　永遠の静寂　二人だけの4分33秒)