「静かに退職する若者たち」を読んで
「静かな退職」の動画を観て購入した。「静かな退職」についての話は少ししか出てこない。
著者によるとこの本のコンセプトは「若者との1on1の前に読む本」とのこと。タイトル通りだ。
若者の定義は具体的に出ていなかったように思うが、20代ぐらいの想定で僕は読んだ。今の若者は何を考えているかや、その行動原理などが示されており、それを踏まえた上で上司は1on1を含め、若者とどう向き合うかといった趣旨の本だ。
僕が働いている会社でも、2,3年目ぐらいの社員と先輩社員がここ最近、1on1をやっている。
僕が入社したころは無かった。無くて良かったと思っている。実際問題、この本でも取り上げられているが、1on1の効果がどこまで出ているかはわからない。というか数値化はできないだろう。
本書によると、現在の1on1の多くは、組織内のコミュニケーションを活性化することで、チーム・パフォーマンスを向上させたり、メンバーの成長や目標達成を促すことを大目的としているようだ。
好例とされているものでこういったものが挙げられていた。
これどうなんだろ。このレベルで変化がある社員は、放っておいても勝手にコミュニケーションをとったりしそうだけど。
本書にこういう結果が載っていた。
これは嘘だな。上司と部下が本音で話せる関係になっている項目などは特に。4割は体感高い。
著者も効果が得られたかは怪しいと思っているとの記述がある。
こういうアンケートの回答は、本心とは別に真ん中かちょっと上ぐらいに回答する人が多いと僕は思う。記名アンケートだと極端にマイナスに回答しづらいという心理もあるだろう。何でマイナスなのかを問われると面倒だから。
1on1の課題は以下の10個あるという。
①不明確な目的
②ミーティング時間の確保の難しさ
③不十分な準備
④所要時間の超過
⑤課題解決の追求
⑥フィードバックの欠如
⑦マンネリ化
⑧オープンな対話の不足
⑨フィードバックの受け入れの難しさ
⑩その他1対1の空間だからこの発生する課題
これ以外にも、上司や先輩の面談スキルも不足が挙げられていた。これに対して「ファスト・スキル」で対応することを著者は批判している。
1on1に必要なスキルの位置づけについて触れられていた。
著者は「コーチング」「カウンセリング」は職人世界だと言っている。それを業務内容の一部だからと言って素人の上司にやらせるのもどうなのか?かといって専門の人を外部から読んできてもあまり意味は無さそうだ。
この1on1というもの自体が破綻しているのだろうか?
続いて、1on1に対する若者の本音について見てみる。6タイプに分類されており、自分の場合はT6,T4に当てはまる。
T4についての記述があった。まあこんな感じだよなと僕も思う。会社員は特に建前で生きているように思う。
退職代行サービスを使い、何も告げずに職場を後にした社員の話があった。
とある大手開発メーカーの開発部門の話だ。
開発部門では女性が圧倒的に少ないため、今後は女性の研究開発者にも活躍して欲しいとのことから、下記の方針を出した。その結果、4人中2人が立て続けに辞表を提出したという。1人は退職代行で辞めたそうだ。
開発部長からしてみれば寝耳に水だったようだ。彼女たちとは、十分にコミュニケーションをとっており、本人たちも納得しているはずだったと思っているとのこと。
唯一、難色を示したのが最長12か月におよぶジョブローテーションだったらしい。研修の名目で、終了後は開発部に必ず戻すという説明を丁寧にしたようではある。
これについて、著者は方針は魅力的だが、意識の高い人たちによって意識の高い人たちのために作られていることに引っ掛かりを感じたとのこと。
まあ、これはせっかく人と関わりが少なく研究に専念できる部署に入ったのに、営業や企画と同行して顧客のもとに訪問すること・海外赴任の可能性もあるのでは?と感じたこと、このあたりが当人たちは嫌で辞めたのではないかと思う。たぶん、入社前にこの方針を知っていれば入社しなかった人もいるだろう。
この辺の価値観などを1on1で引き出すことが出来なければやる意味が薄い。
本書には、ほかにも「仕事がゆるすぎて辞めたい」「会社は自分を成長させる存在であるべき」「ファスト・スキルを求める」「とにかく正解を求める」「インターンシップの取り組み方」「理想の上司とは?」といった項目に対する若者の心理特性が説明されていた。僕も共感できる部分はあった。
最後に日々のコミュニケーション全般を通して「上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきスキル」について引用する。
それは「フィードバック」とのことだ。著者曰く、フィードバックの理想形はコンピュータ・ゲームだとのこと。
著者のフィードバックの5原則がこれだ。
ここで、自分の会社のことを振り返ってみるとフィードバックがほとんどない。自分の能力や態度、仕事の取り組み方などが第三者からどう見えているかの確認は確かに必要だと思う。
ボーナス支給後に面談があり、評価ランクはいくつで、というものはあるが、内容についてはほとんど触れられない。けっこう上の方の評価ランクで、まあ、あれだけやったしな、と思っていたら僕と同年代のランクが全員一緒だったということがあった。僕は、差をつけて戦力となるメンバーにへそを曲げられないようにしているのだと勘ぐっている。
ここに部下が回答したアンケートがある。
フィードバックってみんなそんなに重要視しているのか?という疑問が浮かぶ。言われてみれば、確かに必要ではあるなと思うものの、一番にくるかなと感じる。ただ、上の選択肢から選ぶとなるとそうなるのかもしれない。環境づくりは上司というか会社の風土みたいなものだと思うので会社に対して期待することと言った方が近い気がする。
僕が考える上司・先輩に必要なものは、スキルというほどではないが「相談のしやすさ、話しかけやすさ」これがダントツだ。これを、1on1をやらなければ発揮できないとなるとだいぶ効率が悪い。ただ、コミュニケーションとなると、残念ながら人間的な相性もあるんだよな。1on1をやってもどうにもならないことはある。
報連相や確連報などのやりとりが生じるものは、業務において日常茶飯事なので、これが滞るとスタートやゴールが間違っていたりして、様々な問題を引き起こすことになる。もちろん相談されたことに回答できる知識や能力自体はあった方がいいに決まっている。
上司に相談しても答えがわからない場合はあるので、その時は自分で調べたり考えるしかないが、気軽に、頻繁に相談できるかどうかで仕事の方針出しや対応への難易度がけっこう変わる。
部長が、部署の後輩数人に業務で質問がある場合、誰によく相談しているかと質問したら、直属の上司以外だと僕の名前が挙がっていたと以前言っていたので、一応なんとかできているのではないかと思う。
1on1に関する本への感想ではないかもしれないがまとめる。
冒頭に1on1の大目的について触れている。では、その先の目的を考える。会社の大目的としては以下のようなものだと思う。会社活動のサイクルの中で発展存続できるだけの力をつけていく。
・利益、生産性を上げる(=社会的責任を果たす)
・ステークホルダーに還元する
そのためには、社員個々人が成長していく必要がある。社員が主体的に動き、肉体・精神的に健康でかつ離職率が少ないといったような状況が好ましいのだろう。この状態で利益・生産性を上げられるかというのは、また別の話だが、日々社員の状態に気を揉まなければならない状況よりははるかに健全だ。
1on1は歴史が浅いのでそこまでノウハウはないと思うが、それ以外の例えば自社の業務内容に対するノウハウは特に大企業であればかなりのものが蓄積されているはずだ。
働きアリの法則に従うのであれば、よく働く:普通:働かない=2:6:2である。やる気がある有能な社員は、1on1の有無にかかわらず、ある程度勝手に成長していくし、キャリアアップを考え転職や起業を考え、会社から離れていくと思われる。やる気がなく働かない社員は、たぶん1on1をやっても意識改革は難しい気がする。
そのため、1on1の効果がある程度期待できそうなのは、一番人数が多いであろう中間層だと思う。一方で、身も蓋もないことを言うと、給与面や福利厚生が充実していれば、中間層以下はそこまで会社を離れていかないと考える。本書によれば、業務内容がゆるすぎても辞めていく風潮があるようなのでその辺のさじ加減は難しい。
ただ、流動性がない会社もどうなんだろうとは思う。
僕自身の業務内容が専門職で、周囲も含めて基本的に個人で動くことが多いので、1on1をやるより専門知識で個人の能力を高める方が優先度は高いと考えている。
別に1on1を通さずとも、相談したいときに相談すればいいのでは?という気もしている。休職したり辞めたりするときに、わざわざ別の場を設けずに、1on1の中で切り出せるのは手間が無くていいのかもしれない。
まあでも、辞める時は辞める。退職の引き止めの成功率は5~10%程度らしい。
やはり、1on1などのコミュニケーション系の研修は無くても問題ないのかもしれない。
この結論が覆る日は来るのだろうか。
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