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「いくつもの週末」|江國香織さんのエッセイが好き

江國香織さんの言葉や文章に触れていると、柔らかいまるい音が静かに心の中で響く。

初めて読んだのは、「やわらかなレタス」というエッセイで、noteに感想を書いたら小説もおすすめですよとコメントをいただき、次は小説を読もうと思っていた。

なのに、また次もエッセイを選んでしまった。
「やわらかなレタス」を読み終えたあとの感覚が忘れられなくて。


「いくつもの週末」は、会社員の旦那さんと生活する日々のことが書かれたエッセイ集。

ここでの生活は、だいたいにおいて少しかなしく、だいたいにおいて穏やかに不幸だ。

「いくつもの週末」より引用

1ページ目のこの一文から、もう惹かれてしばらく先に進めなくなった。
江國香織さんの表現は、奥深くて好き。
何回も読み返して、かなしく穏やかに不幸のような感覚を探す。
人生の経験を積んだらわかりそうな、切なさを受け入れた心地よさのようなものだろうか。

結婚するとき、夫に約束してもらったことが一つある。これから先、どんなことがあってもよその女にチョコレートをあげない、という約束だ。お花や靴や鞄や装身具ならいいけれど、チョコレートだけは駄目。

「いくつもの週末」より引用

なんて可愛い約束なのだろう。たった一つ約束したことがチョコレートをあげないこと。女性ならこの気持ちはわかるのではないかと思った。やっぱりチョコレートって特別。


読んでいくと、素敵だな〜と心が動くところがたくさんありすぎて、付箋だらけになった。
特に好きだと思ったのは「月曜日」というお話。
毎週末、旦那さんと過ごせることを楽しみにしている心情が伝わってきた。そして、ほとんど毎週、けんかをするらしい。

「嵐のようなけんか」もすると書かれていた。
想像できないけれど、その後仲直りできたら、さらにお互い分かり合えるようになったりするのかな。

出会ったとき、人はお互いが持っているそのちがう風景に惹かれるのだ。それまでの時間、一人一人が積み上げてきた風景。

「いくつもの週末」より引用

私は、夫とけんかをしたことがない。一応思ったことは伝えるのだけど、よくわからないことを返されて、まあいっかとなって終わってしまう。

夫はときどき、洗濯物を干すのを手伝ってくれる。でも毎回、インナーをシワシワのまま干す。つまり、乾いてもシワシワということ。

「シワになるから、しっかり伸ばしてから干してくれない?」と言ってみた。すると、
「でも、どうせ着た時にシワは伸びるんだから良くない?」と言われた。

なるほど。確かにそうかもしれないと思えてきた。

なんか引っかかるような気もするけど、そういう考え方もあるのかと感心が勝り、まあいっか、となってしまう。

そうして、一緒にいるあいだは、一緒の生活をたっぷり味わえればいいなと思う。いつか別れるときがきたら、少し泣くかもしれないけれど。「死が二人を分かつまで」など一緒にいたら、たぶんもっと泣くのだろう。

「いくつもの週末」より引用

普段、終わりを意識することはほとんどないと思うけれど、いつかはやってくるもの。
そう思うと、「今」をどうやって楽しく過ごそうかと考えるようになる。


結婚したばかりの淡い初心を思い出させてくれるのと同時に、切ない終わりを想うきっかけになった。感謝して、丁寧に過ごそう思わせてくれた一冊だった。




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おまめ
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