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吉祥寺で表舞台に立って泣いた日
体調は悪かった。正直なところ外に出ていいかどうかはギリギリな日だった。
2023年10月28日、吉祥寺のPARCOでやったZINEフェスに出展した。太と3年以上にも及ぶこのOLiの活動を、手のひらサイズの折本にまとめてみたのだ。一人で出展するのは心許なかったので、親友の美香とマサにも絵を販売してもらい、一緒に当日を迎えた。ただし、私は5日ほど前から体調を崩し、ようやく稼働できるようなギリギリの体調だった。
当日は晴れ。季節外れの暑さだった。喉がガサガサするなか、訪れる人たちにこのOLiの説明をどうにかして、ありがたいことに多くの人に買ってもらうことができた。涙が出るほど嬉しかったが、緊張と興奮が上回り、涙が出ないままあっという間に終了の時間になった。
イベントが終わった後に、親友の美香とご飯に行った。反省と歓喜を確かめながら、色々な話をした。美香がいう。
「今日心配していたけど、私が出した絵を持って帰ってくれる人もいてよかった。OLiも売れたよね、すごいよね」
「いや〜本当に美香のおかげな気がする。ありがとう」
「あんたが頑張った証拠じゃん。そしてね、私が九州でやっているPOP UPも結構好調なの」
屈託のない笑顔を浮かべる美香を見ていたら涙が出た。ようやく出た。
「え!!!!あんた親友すぎるって!!!」
美香が笑う。
「だってさ、俺ら色々あったじゃん。大学生のころから互いの作るものは絶対に最高って信じ合ってきたけど、なかなか認めてもらえなくて。でもさ、ようやく表に出られるようになって、しかも多くの人に認めてもらえて。こんな良いことないでしょ」
「わかる」
美香と私は目が合って笑う。美香も色々な思いが胸に来てるようだった。
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OLiを始めて、太から最初に感想をもらった時、私は太に自分の物語が届くことが嬉しかった。自分の中に秘めていたプラスなものだけじゃない様々な感情が、太に伝えた時にプラスになったと感じられたのだ。悔しかった中学時代の思い出も、これまで受けた差別も、思い通りにならなくて自分に言葉の刃を向けたことも、それらの角が丸くなって、太の胸の中で光る石になったと思えた。
この原石ともいえる感情を、私は美香とずっと見つめてきた。2010年に大学の学食で再会した高校の同級生、それが美香だ。高校生のころは全く話さなかったが、偶然の再会から私たちの仲は急速に近づき、第二の思春期とも言える大学時代を共に過ごした。恋愛なんていう括りには当てはまらず、ただただ親友として何度も夜を明かした。
私は大学生のころ、自費制作のZINEを作っていた。自分の主張をたくさん盛り込み、剥き出しの感情ばかりを載せていたのだ。賛同を得たり、面白いと言ってもらえたりすることは皆無に近かったが、それを唯一面白がってくれたのが美香だったのだ。
そして社会人になってからは2度ルームシェアをして、喧嘩もたまーーにした。そして互いに心が砕けそうになった時は、肩を組んで支え合ったのだ。そんな2人が今、表舞台に立ち、それぞれの作品を知らない多くの人に認めてもらうことができている。2人だけでファミレスで向き合ったあの日々を糧に、人が笑顔になったり、ほっこりしたり、涙を流すものを作れるようになったのだ。
吉祥寺のPARCOの屋上を舞台に、僕らはめいいっぱい輝いた。そして今っぽい居酒屋で涙を流した。周りから見たら平凡な1日かもしれないが、私にとってはかけがえない宝物に違いない。
少しして風邪が治った。少し体調不良だった時に迎えたあのイベントは夢のように思う。だけど、そのイベントで知り合った人と飲みに行くことになった。私の表舞台は続いていきそうだ。良い方へ、良い方へ。