歌集『体温と雨』を読む。ー難しさと美しさー
『体温と雨』は木下こう氏の歌集。
本としてのあれこれ
Amazonの単行本は価格高騰しており、
再販でソフトカバーの私家版もある。
実は手元にあるのは私家版だが、文末のリンクは便宜上Amazonの単行本にした。
私家版の書影。↓
内容
言葉選びやモチーフがきれい。
比喩と世界観が独特で、
「この読みと解釈で合っているかな」
と心配になった。
そんな難しさと美しさが同居する歌集から、五首選で紹介。
五首選
※ページ数は私家版より。
何が遠いのかも微妙な距離で分からない。
このすっきりしなさが気になる。
水の循環の様子。
青い花と空を水が繋いでいる関係性が良い。
何の花か明記されていないので、概念的な「花」かもしれない。
※結句の点は元のまま。
黒い縁取りがダメと言われて、美術的なテクニックの話かと思いきや
「とけてなくならないから」
という理由。
とけてなくなるのは、輪郭か、紙か。
不思議な理由が意味深。
メルヘンかと思ったが、それだけではない。
よく考えたらこのヘンゼルは日記の中を通っている。
日記を書いた人とヘンゼルはたぶん同じ人ではないから、プライバシーへの不法侵入かもしれない。
しかもパン屑により、辿って戻って来られるようにしている。
作中主体が本や日記を後で見返すことの暗喩だろうか。
まずこの短歌は、
「どちらのゆめだろう」と思った。
寝て見る方?希望の方?
この短歌の一首前の短歌で
「これから眠りのことを話すね」
とあるので
寝て見る方のゆめで読みたい。
眠りは頭の中身の整理で、
「道だらけ」
だから、つまらないので
ゆめという蜜を垂らす作業を脳がする
と読んだ。
「道だらけ」が脳細胞のニューロンをイメージさせる。
まとめ
独特な短歌群から、説明しやすいものを紹介した。
言葉にできるものとできないもののあわいを詠んでいるからだろうか、美しさだけではなく意味深さがある。
不思議な景の詠み方などの勉強になった。