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市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』の裏側を読む
僕はけんかにならないように、周囲にあいさつするようになった。現場ではよく笑うようにした。うそ笑いだった。そうすると仕事がうまくいった。
仕事が終わり、部屋に戻ると、よく涙が出てきた。涙を流すと、すっきりした。
職場では笑う。でも部屋では涙がボロボロ流れた。
さりげない素朴な文章のように見えますが、このようなテンポ良く切れがあって余韻を残すような文章はなかなか書けません。
恐らくプロの方が手を入れられているのではないかと思います。
空が青暗かった。ついに線路を見失って、線路を探しながら田舎道を歩き続けた。幹線道路に通じる道なのか、誰もいない広いアスファルトの坂道を登った。電灯の光でアスファルトの坂道が青白く見えた。
遠くに、真っ暗な中、点々と灯る家々のオレンジの明かりだけが見えた。
この文章の表現にいたっては見事というほかありません。
印象派の絵画のように構図がしっかりと描かれて、色が鮮やかに浮かび上がってきます。
何度読んでも上手い文章だなあと思います。
自分もこんな風に書ければよいなあと思います。
このようにこの作品には素晴らしい文章がいたる所にちりばめてあります。
素人の手記のように見せかける技巧もすごいと思います。
また時折もたげてくる本当の筆者の意地が現れてくる箇所を発見するのも楽しいです。
いろんな意味で勉強になる作品です。
小説を書かれている方にお勧めします。
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